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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編
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世界の変革

 ラダンの視線は、カレンの付与魔法について警戒しているのだと理解できる……それはつまり、


「俺達は、アンタを阻む障害になった、と解釈していいんだな?」


 俺は剣を構えながら問い掛ける。少しばかり達、という部分を強調して告げた。


「カレンが構築した魔法もまた、アンタには通用すると」

「……神魔の力を擬似的に模倣したもの、と知った時はショックを受けた。例え擬似的であっても、神魔の力を利用できる配下など、いなかった。しかし勇者セディ……君の周囲にはそれを体現する者がいた。この力は魔王や神々でさえ利用するのは困難なものだ。ということは、自力で解明したことになる……いかに君の関係者とはいえ、まさか力を手にしてしまうとは、想像の埒外だった」

「あんまり驚いているようには見えないな」

「いやいや、感情を隠しているだけで、実際は驚愕しきりだよ……君は……いや、君とその仲間は私の考えの外へと出てしまった……魔王や神々の助力があるとはいえ、これほどのことができるとは……本当に、君を引き入れることができなかった点は悔やまれる」


 カレンが俺の背後に立ち、さらにその傍にはレジウスがいる。俺達としては盤石の態勢ではあるが……。

 次第に、天使達もやや遠巻きではあったがラダンを包囲し始める。普通に考えれば天使達が主役と考えてもよさそうだが、実際は逆……俺達がラダンと相対する形となっている。神魔の力を持っていなければ、天使でさえ無力……改めて、恐ろしい力だ。


「……アンタは」


 俺はここで、一つ気になることがあった。それは時間を稼げというエーレの提言さえ忘れた、純然たるものだった。


「神魔の力を用いて、脅威を討とうなどとは考えなかったのか?」

「それはこの世界をよくするためか?」

「そうだ……大いなる真実を知っている以上、魔王を倒しても世界が平和にならないことはわかっているはずだ。だが『原初の力』を用いずとも、その力は魔族や神族にとって脅威であることに変わりはない。原理的に彼らが使用できない技術ならば……それを利用して、成り上がろうとか考えなかったのか?」

「確かにそういう選択肢もあったかもしれない。『原初の力』……それにこだわらなくとも、何かを成せたのかもしれない。だが無理だ。私は『原初の力』がなんたるかを知ってしまった……その力を用いることが最高の道筋であると知ってしまった」


 ――アンタの頭の中では、の話だろうと思ったが口には出さずにおいた。


「とはいえ、この力の優位性は私自身よくわかっている。これを自在に扱えれば、確かに世界を変えるだけの力があるだろう……しかし、変革というのはそういうものの先にありはしない」

「何……?」

「変革、革命……歴史を振り返れば、そういう物事は血塗られた歴史だ。王を覆し、民衆を救う……などと言えば聞こえはいいが、果たせた試しはない。誰もが新たな王となり、圧政を敷いた。王という地位を守るために……この世界に革命という言葉は存在する。王族を絶やせば、確かに革命を成したと言えるかもしれない。だが、それではただ血が流れるだけだ」


 肩をすくめ、ラダンは話す……その瞳は、どこか自嘲的な色合いがあった。


「勇者セディ、君の言う通り神魔の力を利用し、世の中を変えるだけの何かを生み出せる可能性はある……だが、武力だけでは何も変えられない……戦いという輪廻から私達は逃れなければならない」

「その解決策が……『原初の力』だというのか?」

「いかにも。力を発揮すれば、神々や魔王でさえも、全てが服従する……この世が正しい世界になる。これは文字通り、変革だ。あらゆる常識を全て変える。これこそ、革命だ。価値観も存在意義も……その全てが変わってこそ、理想がある」

「まるで、全知全能になったみたいな口ぶりね」


 ミリーがラダンへ向け、鋭い言葉を投げた。


「力を使えば……でも、それは結局あなたの理想でしょう? 他の人のことは何一つ考えていないじゃない」

「否定はしないさ。無論、私の中にも価値観が存在する……それを取り払って全てを平等に、とはさすがにいかないだろう。だが、今の世の中にどれだけの価値がある? 大陸西部は戦乱が続き、どの国も疲弊してる。人々は絶え間のない戦争に、魔物の襲来に嫌気が差している。東部は多少なりとも平和かもしれない。だが、政治は腐敗し正しい人々が罰せられる……勇者セディ、君も見たことがあるだろう? 大いなる真実を知らない人間が魔族と結託し、人々を蹂躙している光景を」


 ……確かに、そういうケースもあった。以前はそれこそ、魔族がそそのかしたのだろうと決めつけていた。それで思考を停止していたが……実際はどうなのか。たぶん、提案は魔族からかもしれないが、人間側だって嬉々として乗っかるケースも多かっただろう。

 ラダンは、そういう負の部分を見ているからこそ、一挙に……全てを変えようとしている。それが正しい道筋なのかどうか……ラダンの中には確固たる答えがあるのかもしれない。だが、俺達にそれはわからない。


「無論、何もかも全てが最初から上手くいくとは思わないさ。だが、私には絶対的な力がある……何度でも、上手くいくまで繰り返せばいい」

「……その果てに、理想があると?」

「ああ、そうだ」


 躊躇いもなくラダンは応じる……正直、単なる戯れ言として思えない内容だ。一笑に付してしまいそうになるそれを彼は真面目に語っている。


「君達に理解してもらおうとも思っていない……しかし、私はここに断言しよう。今の世界よりも遙かに……良い世界を形作ると。正しい人間が幸せになり、愚かな人間が罰せられる。そうした世の中にしようではないか」


 決然とした宣言……ラダンはそれを、間違いなく本心から語っているのだ。


「勇者セディ、ここでもう一度問おうか……この世界を正すのであれば、これが確実だ。君のやり方……人間として魔王や神々と接して動こうなんてものは、幻想に過ぎない。今ならば、私の下に来ることを許そう。さあ、どうだ?」


 俺に質問を向けてくる……そこで俺は小さく息をつく。その答えは――決まり切っていた。


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