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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編

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勇者と時間

 ラダンと相まみえた瞬間、直感で俺は悟る……目の前にいるのは本物だと。もっとも、ここまでラダンは様々な策を要して逃げ続けてきた。本物と見せかけて実は、という可能性もあるので、俺は周囲を警戒しつつ短期決戦に持ち込もうかと考えるが、


「……そう逸るな。目の前にいる私は、紛れもなく本物だよ」


 どこか自嘲めいた笑みを伴い、ラダンは口を開いた。


「まさしく、そちらの攻勢に押され出てくる羽目になった……さすがに偽物をバラまき、それが例外なく神魔の力を保有しているとしたら、時間稼ぎにはなるだろうと思ったが、予定外の事象が発生した」


 カレンのことだな。さすがにこの状況下で付与魔法まで使われるとは予想外だっただろう。彼女としてはまだまだ練度が足りないと語っていたが、ラダンを動かすだけの決定打になったわけだ。


「こちらはいくつも攻め手を想定していた。しかし、配下にしていた魔族の居城を狙われ、さらに仕込みの策を即座に対応され、こちらとしては打てる手が少なくなっていった……というわけだ」

「だが、まだ手はある」


 俺の指摘にラダンは口を閉ざす。


「だからこそ、こうして現れたんだろう?」

「……追い込まれての一手とは思わないのか?」

「これだけ入念な策を用いていたわけだ。もし顔を出すにしても、相応の状況になってから……そう思うのが普通じゃないか?」

「やれやれ、気の緩みもなしか……本当なら真正面から押し通る、などという真似はしたくなかったのだが」


 小さく息をつくラダン。いよいよか――と思った時、彼はさらに語り続ける。


「そういえば、疑問に思わなかったか? なぜ私が戦乱を広げようとしているのか」


 ……時間稼ぎのつもりか? 問答に応じるべきか否か最初迷ったのだが、


『セディ』


 エーレの声が、頭の中に響く。


『どうやら敵方は何かしら動きがある。ラダンの近くで魔力反応があるからな。とはいえ、微細なものでこちらもどういう意図があるのか捕捉は難しい。時間を掛ければある程度つかめるとは思うが……相手の思惑に乗る形にはなるが、時間を稼いでくれないか?』

「……この戦いが始まる段階から、疑問は多々あったさ」


 エーレの声を聞きながら、俺はラダンへ応じる。


『こちらも対応策の準備をしておく。頼むぞ』

「だが、最終的にお前を捕まえさえすれば、それでいいという結論に達した。シンプルでいいだろ?」

「だからこそ、急進的にというわけか……単純な物量ではそちらの方が圧倒的に上だからな。やり方としては確かにシンプルだし、適した手段と言えるか」

「そして、お前は飛び出して来た……が、まだ終わっていない」


 俺は敵意をむき出しにしてラダンを見据える。


「とれる選択肢は二つだったはずだ。このまま進退窮まるまで逃げ続けるか、表に出るか……今までの傾向から考えれば、逃げ続ける場合はそれこそ策が成就しないと見越しての行動だろう。けれど、あんたは外に出て俺達の前に姿を現した」


 もっとも、本物かどうかわからないが――内心の声を読み取ったのかラダンは、


「本当に警戒心が強いな……まあいい。確かに君の言う通りだ。私は全てを捨てて逃げる……再起を図るか、ここで勝負を付けるかの二択だった。だが、私としては手の内を明かしてしまった……他ならぬ君のために」

「俺が大いなる真実を知らなかったら、また話は違ったんだろうけどな」

「君と私を引き合わせてくれたのは先代魔王だ。君が真実を知らなければあの話し合いは実現することなどなかった……口惜しいが、私が君に真実を知っているとわかった上で話したことこそ、最大の落ち度だったと言うべきか」


 ラダンの周囲からは何も気配を感じない。先ほどエーレは微細、と言っていたが現場にいる俺達が何もわからないくらい巧妙に隠されているというわけか。


「私も、最大のチャンスと判断してしまったのがまずかったようだ……が、策は最後までやってみなければわからない」

「……ここに『原初の力』があるのか?」


 見たところ、単なる平原である。周囲にそれらしい気配はない。


「ああ、さすがにこんな場所には存在していない……というより、おおよそ場所については特定できているのではないか?」

「……そういう風に言う以上、やはり」


 俺の言葉にラダンは笑みを浮かべる。


「察していたようだな……さすがに場所まで特定はできなかったようだが」

「地底内を探索しても見つからない以上、お前がどこかへ隠した……地底のさらに奥、か」


 推測は正しかったというわけだ。けれどこれでラダン以外に手出しができないということになる。

 とはいえ、ここにラダンがいる以上はこの真下にあるということか。そうであればラダンを倒した後に調べればわかるだろうか。


「その推測は、君が指摘したのか? それとも魔王のものか?」

「……俺からだ」

「そうか。やはり私の見る目は間違っていなかった。あまつさえ、その仲間は擬似的に力を生み出してみせた。ここまでは私の完敗だな」


 ラダンは笑みを浮かべる。本当なら仕掛けたいところなのだが、喋りに徹するような柔らかい物腰のようでいて、隙がない。飛びかかれば、瞬時に剣を抜き放って反撃してくるのだとわかる。

 勇者ラダンの実力……本当の実力についてはまったくわからない。全力を出せばどういうことになるのか……エーレはおそらくクロエを出陣させる準備を始めているだろう。彼女の攻撃がこちらの切り札となるのか。


 牽制の意味を込めて一歩前に出るべきか。少し悩んでいた時、俺の代わりに一歩足を踏み出した人物が――フィンだった。


「セディ、もっと単純でいいんじゃないか?」


 ――おそらくエーレは仲間達にも話を伝えているはず。となれば、これも時間稼ぎの一環か。


「目の前に倒すべき敵が現れた。なら、さっさと片付けようじゃないか」

「同感ね」


 ミリーが続き、ラダンの横手に回る。二人にはカレンの付与魔法が掛かっている。それが通用するのかは未知数ではあるが、ラダンは注意すべきだと判断しているのか、二人の動きを目で追っていた。


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