規格外
俺がエーレと会話をする間に、カレン達はさらにラダンを追い詰める。実際は偽物で確定だろうけど、神魔の力は持っているようなので、この戦況はかなり良い形だ。
「援護の必要性はなさそうか?」
「このままいけば……とはいえ、敵も容易くやられてはくれないだろう」
エーレが述べると同時、突如ラダンがいる後方の土砂が轟音と共に爆ぜた。土系の魔法でも行使したのかと思いきや、土煙の中から何かが姿を現す。
「魔物……か?」
「そのようだ。ここで登場した以上、普通の個体ではないな」
エーレが断定する。直後、カレンが魔法を放ったのだが……弾かれてしまう。
「まさかあの魔物にも、神魔の力が?」
「ここに来て大盤振る舞いだが……ラダンとしてはここで絶対にセディを含めた神魔の力所持者をあぶりだそうということか」
カレン達は一度後退する。偽物とはいえ神魔の力を保有するラダンと魔物。この二つがある以上、さすがにカレンとて太刀打ちは厳しいか――
「エーレ、援護に向かうか?」
「まあ待て。セディはもう少し仲間を信じろ」
信じろって……俺はカレンを見据える。あくまで映像だけで気配などを感じ取ることはできないので、表情しか窺い知ることはできないが……決して臆するような雰囲気ではない。
「……私としても、油断していたと言うべきか」
「油断?」
何のことかと問い掛けるより先に、エーレは俺へ口を開く。
「セディの能力については目を見張るものがあったし、だからこそ私を打倒し、主神にも認められた……それがもちろん武具などの能力があってのことだし、あなた自身の鍛錬による部分もあるだろう……だからこそ、私は気付かなかった。あなたの仲間達について」
「仲間……が、どうした?」
「あなたの妹君であるカレンが筆頭だな。セディとは違う意味合いで、彼女もまた規格外の存在というわけだ」
カレンは魔法を発動させる。映像に何も変化はない。おそらく味方に付与する強化魔法の類いを使用したのだ。
「セディから神魔の力について聞いてから、そう時間が経過しているわけでもない……にも関わらず、彼女は神魔の力を再現した。おそらく常日頃接していたセディの魔力を把握しているため、セディの体の内に存在する神魔の力についても、何かしら解析ができたのかもしれない」
「なるほど……ただそれだけだと規格外という意味合いとは違う気もするけど……」
言ってから、なるほどと納得する。エーレは何が起こったのかを克明に理解し、言及したのだ。カレンが使用した魔法にどういう効果があるのか。
それは紛れもなく、神魔の力……俺ですら成し得ていない、他者に力を付与する。それをカレンは見事に果たしたのだ。
「もちろん、神魔の力を擬似的に再現しているだけであるため、セディやクロエが持つ本物の力には及ばない」
と、エーレは俺へ補足する。
「おそらく勇者ラダン当人には通用しないだろう。しかし、ラダンの配下であるなら話は別だろうな。いかにラダンの配下とはいえ、神魔の力を御せる人間はいない……こちらが一方的に攻撃できる」
「いない、と断言するのは避けるべきかもしれないけど……これなら残り九箇所も、いけるか?」
「カレンに全てを負わせるつもりはないぞ……ふむ、戦況の方だが」
フィンとミリーが魔物を倒し始める。カレンの付与魔法は効果絶大のようで、二人の剣は容易く魔物を両断した。
これには敵も驚いた様子。その隙を見逃さずカレンは魔法を叩き込んだ……直撃するラダン。そして地面に倒れ伏した。
直後、ラダンの姿が一変する。魔力によるカモフラージュだったようだが、意識が飛んだ結果魔法を維持することができなくなって戦士のような見た目をした人物が姿を現した。
「風体は……どこぞの冒険者って感じだが」
「ラダンの考えを支持した人間だろう」
俺の呟きにエーレは律儀に返した。
「偽物ではあることはわかったし、カレン達であれば容易に対処できることはわかった……さて、次へ行くか行かないかだが」
エーレはカレンへ呼び掛ける。それに彼女は次へ向かうという返答を行い、別の場所にいるラダンと戦うことにする。
二ヶ所目についても、その能力はさほど変わっていない。神魔の力を持っていることは脅威だし、魔物と一緒にいることも面倒さに拍車を掛けるわけだが、カレン達はものともしていない様子だった。
「神魔の力について……ラダン以外は対処できそうか?」
「おそらくは、な。支持者に神魔の力を渡したはいいが、本質的な特性などを事細かに伝えているわけでもないだろう。よって、あくまで神魔の力は借り物……これなら十分対処できる上に、ラダンの注意をこちらへ向けることにも繋がる」
「注意を向ける……?」
「ラダンは計略によって、目的のために行動するのを露見しないようにしているわけだ。その障害としてセディは間違いなく最強の相手となる」
「最強かはわからないけど、ラダンの視点からすればそういう考えになってもおかしくはないな」
「その上で、セディと近しい人が神魔の力を手にした……とくれば、ラダンとしてもセディと並ぶ本命だと考えることだろう」
なるほど、俺の仲間達も参戦し、神魔の力を扱えている事実を踏まえれば、ここで打ち止めになると判断したっておかしくはない。つまりクロエの存在がラダンの中で完全に消えるというわけだ。
「こうなると、クロエをどうやって戦わせるのかだけど……」
「最後の最後まで隠し通しておくというのが得策かもしれないな」
「最後まで……それは勇者ラダンとの決戦の際、だよな?」
「そうだ。相手が何をするのかわからないが、神魔の力は通用する……それを考えたら、例えばクロエがラダンの背中をブスリ――なんていう戦法だってとれるだろう」
卑怯ではあるが、俺としてもどうやって勝ったのかはさして興味もないし、それで終わるのであればそれで構わないと思う。
とはいえ、その決戦まで後どの程度の時間が必要なのか……近づいていることは確かだが、まだまだ先は見えない。一層警戒を強めなければ、と内心思い始めた。