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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編
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人間の強さ

「ほ、本当か!?」


 神魔の力を使える――俺は思わずカレンへ叫ぶ……が、彼女はそれを一度手で制した。


「とはいえ、あくまで擬似的なものです。その魔力を用いて魔法まで行使することはできますが、未完成であり通用するのかわかりません。今まで話さなかったのも、通用するかわからないものを作戦の内に組み込むのはまずいかと判断してのことで」

「けれど、緊急事態だから提言したと」

「はい……通用しなければ他の作戦に切り替える必要がありますが」

「……エーレ、どうする?」

「あくまで再現しているだけだな?」


 エーレが問う。カレンが頷くと、


「ならばラダンに狙われるようなことにはならなそうだな」

「エーレ、本当に大丈夫か?」


 不安になって問い掛けると、エーレは「おそらく」と答え、


「セディ以外に神魔の力を持っている人間をあぶり出す……これは、ラダンがこちらの手勢を奪って『原初の力』を得るなどという危険性も孕んでいる……が、擬似的なものであれば、その可能性は低いだろう。それに、こちら側で最大限フォローすれば良い」

「私の案が採用ですか?」

「一度どういう魔法なのかを確認してから、だな。あなたが使用する魔法は、神魔の力に魔力を真似ているということだろう? 効くかどうかは微妙なところだが、試してみる価値はある」

「もし通用したら、どういう作戦に出る?」


 俺の問い掛けにエーレは一考し、


「セディの仲間達については敵側も把握済みだろう。ならば仲間が神魔の力を持つようになった、というくらいは想定の内に入るだろう。なら、ラダンは神魔の力を持つ人間をあぶり出したと考える」

「実際は他にもいる、と」

「現状、他に使い手が一人しかいないため、こちらとしては綱渡りではあるのだが……ともあれまずは検証をしようか。カレン、試してみよう」

「はい」


 魔王の言葉に頷くカレン。彼女達はすぐさま検証を行うべく、別所へ移動することになった。






 俺はエーレとカレンの作業を遠目で見ているしかできなかったのだが、結論から言うとカレンの能力は十二分に神魔の魔物にも通用することが判明。よって、早速動き出すこととなった。


「もし危険な状態となったら、俺が出るから」

「大丈夫です」


 俺の言葉にカレンはにこやかに告げる。今回俺は留守番であり、ラダンについて次の動きが出たら出撃できるような手はずとなっている。

 カレンに加え、フィンとミリー。さらにレジウスも同行するわけだが……正直、不安の方が大きい。果たして大丈夫なのか。


「そう心配するな、セディ」


 カレン達が転移した後、内心の感情を読み取ったのかエーレは俺へ声を掛けた。


「カレンの能力は擬似的ではあるがきちんと機能している。セディからすれば、カレンの能力が通用した場合ラダンが動くかもしれないという懸念を抱くと思うが……その能力があくまで擬似的なものだというのは感じ取れるはずだ。つまり事前に話し合った通り、ラダンが『原初の力』を得るために彼女を襲う、という形にはならない」

「そうかもしれないけど……」

「偽物であるラダンと相対した場合のことを不安に思っているのか? それもまた杞憂だ。こちらとて彼女達だけに戦わせるわけではない」


 援護はきちんとするということか。

 会話をする間に、エーレは魔法を使う。それはどうやらカレン達の転移先を映す魔法。俺の真正面にカレン達の姿が見えた。


「さて、どうなるか」


 エーレは腕を組み吟味を始める。カレン達の真正面には、勇者ラダンの姿が。それは紛うことなき俺が対峙したラダンのもの。とはいえ同じ姿をした人間が現在大陸西部に十人いる。間違いなく偽物だろう。


「エーレ、ラダンに変装した誰か、ということで良いんだな?」

「ああ、その解釈が正しいだろう。問題は果たしてどういう魔法なのか……幻術の類いかと思ったが……神魔の力を用いれば、擬態はできるか?」

「だとすれば、変装を見破るのは大変だな」

「ああ。とはいえさすがに実力までは神魔の力を用いても本物とは比べものにならないだろう……始まるな」


 交戦開始。まずカレンが光の矢を放つ。相手はそれを防御したのだが……彼女の矢は結界を貫通し、いくらかラダンへ直撃した。


「いきなり、か」

「ふむ、あの偽物は油断していたな」


 油断? 俺はエーレの考察に耳を傾けることにする。


「ラダンから、神魔の力を利用した結界を用いれば攻撃を完全に防ぐと聞かされていたのだろう。しかし、結果は異なる……推測だがラダンは何かしら神魔の力を道具か何かに封じ込める手段を構築した。魔石の類いか、武器か道具か……ともかく、そういう能力を用いることができたからこそ、ラダンの偽物があちこちに出現したわけだ」

「うん、それなら納得できる……ということは、偽物の誰かが神魔の力を自由自在に行使できるというわけではないか」

「それができていればとっくの昔に『原初の力』を得ていただろうさ……さて、セディ。カレンの擬似的な力についてだが、あれを見て私は一つ思ったことがある」

「ん、何だ?」

「人間の強さだ」


 ……急に何を言い出すのか。沈黙しているとエーレは続けた。


「魔族も神族も、元々持っている力を利用して様々な能力を行使し、武具を生み出す。だからこそ、既存のものとは異質な神魔の力に対応するのが難しい……というより時間が掛かっている。だがカレンは私達とは決定的に異なるアプローチで、神魔の力を再現することに成功した」

「それが人間の強さ?」

「私達のように、持っている力を利用するのではない。自分達人間の力をも否定し、その上で新たな価値を創造する……元々持っている存在であれば、自分の力を捨てようとは思わない。人間からすれば、魔族や神族は驚異的な存在であることは間違いないだろうが、人間にもそれに対抗しうるだけの手段がある。だからこそ、ここまで繁栄することができたのだ」


 エーレはどこか誇らしげに語る。それは人間という存在の力を見せつけられ、それをまるで自分のことのように嬉しがっている姿だった。


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