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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編

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事態の変化

 俺は自室へ赴き仲間を呼び、玉座の間へ戻ってくる。クロエもその場にはいて、話し合いを始める。

 玉座の間の中央にテーブルが置かれ、その上の地図にシアナが印を書き込んでいく。それは、


「……全部で、十人か」

「はい。同時多発的にラダンが現われたという報告……姿形は紛れもなくセディ様が仰っていた人物ですが」


 そう、勇者ラダンが現われた……のだが、一箇所ではない。エーレが言ったように、全部で十箇所。同じ見た目でラダンが出歩いているらしい。


「全て偽物だとは思う」


 地図を見下ろす俺に対し、エーレは述べる。


「同時多発的に同じような見た目の人物が登場するというのは……単独で出現するならまだしも、これでは偽物ばかりだと言っているようなものだ」

「それは確かにそうだけど……どういう意図があるんだろうか?」

「不明だ。とはいえ、さすがに放置もできない。よって、騎士団などに連絡して対応することにする」

「魔族とかが出張らないのか……」

「向こうの出方を窺うといったところだな。私達より人間に任せた方が、ラダンとしても動きにくいだろう?」


 それはまあ、確かに……しかし、これだけ一度に複数同じ人間を表に出すというのは、どういう理由なのか?

 疑問ばかりではあるのだが、俺はあえてエーレへ質問する。


「俺の推測と繋がるような出来事なのか? これは」

「どうだろうな……かく乱という意味合いでは、確かに一定の効果がある。そもそも、大陸西部全体を観測していなければ、ラダンが十人現われたなどという報告を聞くこともなかった」


 うん、そこは間違いないな。


「敵の目論見は相変わらず不明ではあるのだが、事態が大きく動いたのは間違いない。これほどまでに大きく行動したということは、ラダンとしてはそちらへ意識を向けて欲しいのだろう。よってここはあえて私達は動かない」


 心理戦だなあ……俺としては偽物のラダンが人間に対し悪さをしないか不安になるのだが、エーレとしてはそれはないと考えての決断か。


「……もし」


 ここでカレンが口を開く。


「もし、騎士などに被害が出たら?」

「その場合、私達も動く必要性がありそうだが……ラダンとて、そのような行動に出ることはないだろう。お尋ね者になってしまうため――」


 と、そこまで言うとエーレの口が止まった。


「いや、待てよ。これから『原初の力』を手に入れるという前提であれば、もはや関係ないのか? ただ、それをやると――」


 ここで、玉座の間へ飛び込んでくるようにファールンがやって来た。


「ご報告が……! 出現したラダンですが、十人全てが配下を伴い、騎士団などに攻撃を……!」

「まずい状況になったか……!」

「どうするんだ?」


 これは……悩む間に、エーレは決断する。


「ファールン、アミリースへ連絡は?」

「向こうも把握済みです」

「わかった。ならば両輪といこう。神族側は勇者ラダンとその配下を対処。私達は裏で敵の動向を注視する」

「わかりました。そのようにご連絡を」


 ファールンは即座に玉座の間を出て行く。そこでエーレは俺へ向かって、


「セディはまだ動くな。もし十人の中に本物のラダンがいたとしても、判別できるまでは動くべきではない」

「そうだな……しかし、ここに来て攻撃するとは……」

「私達の動きが放置できない段階になったということだ。狙いは十箇所の偽物に気を向けて欲しいといったところか。観察はするが、それ以外の場所についても注視する……」

「被害が拡大したら?」

「セディが出陣する必要に迫られるかもしれないが……」

「たぶんだけど、セディを表舞台に出させたいのではないかしら?」


 これは、クロエの意見だった。


「ラダンとしては、最大の脅威がセディになるわけでしょう? で、ここまでの戦いでセディは転移を用いて動き回っていることがわかった。なら、ラダンの偽物を用意して、その中に神魔の力でも封じ込めておけば……いずれセディが顔を出す」

「ああ、そのやり方が一番ありそうだな」


 エーレは賛同する……なるほど、俺もそうだと心の中で思う。

 ラダンはおそらく、行動したいのだろう。しかし最大の脅威である俺がいるため、迂闊に動くことができない。神魔の力を所持していないのであれば、魔族や神族も脅威ではないため、とにかく俺をどうにかして縫い止めたい。なら、俺が出なければいけないという状況を作り出す……そう考えると、出現した十人のラダンは、神魔の力を持っているということになる。


「ラダンとしては、神魔の力を保有している人間を探りたいのか?」

「そういうことだろうな」


 俺の質問にエーレは同意した。


「これまでは予定通り……かつ、準備段階だった。私達は色々と悩みながら進んできたわけだが、敵の目論見などを精査している時間はない。十人のラダンに注力する必要が出てくるわけだが……ここには神魔の力を持っている人間を調べる意味合いもあるだろう」

「なら、偽物とはいえ神魔の力があれば……」

「何かしら対抗手段を持っているのかを含め、こちらの戦力をあぶり出す気なのだ。現状、神魔の力を使いこなせているのはセディとクロエの二人。対応は厳しい……本来ならば」


 と、エーレは腕を組む。


「相手に情報を渡さず、ラダンを探さなければならない……セディが転移を繰り返して十人のラダンを倒して行くというのもありと言えばありだが、リスクもある。さて、どうするべきか――」


 この一手は、おそらく重要なものになる。下手するとラダンが『原初の力』を得る瀬戸際まで来ているのかもしれない。

 なら、俺は……地図を眺めながら悩んでいると、カレンが小さく手を上げた。


「兄さん、ここは私に任せてもらえないでしょうか?」

「……カレン?」

「まだまだ開発段階ではあるのですが、こういう状況ならば使うべきかと」

「何を?」


 聞き返すとカレンは自身の胸に手を当て、


「神魔の力……私の魔法で、その魔力の質を再現することができます」


 その言葉は、玉座の間にいる全員を驚かせるに十分過ぎるものだった。


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