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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編
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さらなる深淵

 俺は自室を出てエーレのいる玉座の間へ赴く。彼女は首を傾げ俺へ、


「どうした?」

「エーレ、神魔の力を研究していた場所を移送したよな?」

「ああ。それがどうかしたか?」

「その魔法って、魔族固有のものなのか?」


 俺の質問の意図を把握できていないか、エーレはなおも首を傾げながら、


「そういうわけではない。この魔法自体は神族や人間にも扱えるが……ラダンがそれを習得していると言いたいのか?」

「もし可能であれば、今までの考えが全部ひっくり返る」


 その言葉にエーレも少し目を見開き、


「どういうことだ?」

「現在俺達はラダンか『原初の力』のありかを探している……その中で『原初の力』については基本的にある前提で俺達は話を進めている」

「地底にある、ということではなかったか?」

「最初はそうだと思っていた。けれど少し違う……ラダンの手によって隠されているとしたら?」

「……『原初の力』のある場所を、か?」

「そうだ。そこがどういう場所なのか俺達にはわからない。神殿でもあるのか、それとも単に力が存在しているだけなのか……俺達が知っているのは力を得るには条件が必要なことだけだ」

「つまりセディは、『原初の力』をラダンがどこかに隠しており、絶対に見つからないと考えた上で作戦を行っていると?」

「そうだ?」


 俺の言葉にエーレは目を細め、腕を組む。


「あり得ない話ではないが……そもそも『原初の力』の特性によって、セディの意見は通用しないぞ」

「わかってる。これはあくまで移動できる場合の話。ただ、決して馬鹿にはできないんだ。例えば『原初の力』がこの世界由来のものであったなら、大地と深く関係しているはずだ。つまり、地底内ならば移動できる可能性がある」

「ふむ、可能性はあるな。最初は地底の奥深くにあった。他にも例えば力を得た兄弟が移設したとなったら、移動もできるし、荒唐無稽というわけではない。だが問題はどこに移送したか、だな」

「魔族や主神の目が届かない場所が一つだけ存在する」

「何?」


 エーレが聞き返すと俺は、明言する。


「もっと下だ……本来あった地底よりも遙か下。人の手どころか、生物すらも到達困難……いや、そもそも行こうとも思わない場所だ」


 エーレが沈黙する。ただそれは、否定的なニュアンスを含んだものではない。俺の言葉について理解を深めた様子。


「いくら魔王や神族であっても、そこまで調べられない……というか、大地の真下に存在する地下空洞くらいは調べられても、そこから下、行く術さえない場所については調べることは難しいだろうし、まして調べようとも思わないだろ」

「確かにそうだが……ラダンはどうやってそこまで到達した?」

「単独で地底の岩盤を砕いて進むことくらいはできるだろう。一人分の移動を行い、深い場所に移送空間を魔法で確保すればいい。隙間なく岩盤に埋め尽くされた場所に一つだけ空間があっても、俺達は気づけない」


 もちろん、これは危険も伴う。そもそも地底空間は前人未踏の領域であり、魔王や神族だって手を出していない。そんな場所へ単独で赴くような真似は、無謀極まりないわけだが……ここまで様々な策略を用いてきたラダンだ。隠し場所としてそのくらいのことをしてもおかしくはないのではないか。


「そして、問題はその力をどうやってラダンが引っ張るのか」

「……決して、難しくはないな。ラダンとて隠し場所くらいはわかるだろう。ただ、一つだけ問題がある。移送するのはいい。だが、私達の目をかいくぐってどうやって力を地上まで引っ張ってくる?」

「『原初の力』そのものを移送……は、できるのか?」

「座標さえわかれば不可能ではないが、もしそれが可能ならば、条件を達成した段階で彼は魔法を行使するだろう……ふむ、十分あり得る話だとは思うが、その点が引っ掛かるな」

「俺達が知り得ない条件があるのか……いや、待った。例えばそうだな、その場所が探知されないように魔力を阻害する何かで覆われているとかはどうだ?」

「覆われている?」

「俺達が地底内を探索しても見つからないようにな処置を行っている……ただ、それをした場合、今度はラダン自身力を引っ張ってくることは難しい。なら、魔力阻害を貫通できるほどの魔法規模を出すとか……」

「それが今やっている、戦火を広げ何かをやっているということか」

「ああ……回りくどいかもしれないけど」

「ただ、現在起きていることに対し矛盾はしていないように思う。なるほど、当初の計画であれば戦火の広がりに乗じて仕込みを行う。その間に私達や神族が動き、何者かの謀略だと断定、調べ始める……それを魔物の混乱によって食い止めながら、目的を成す。こんなところだろうか」

「けれどエーレもデュガも知っている……作戦そのものは変更していないが、ラダンは細心の注意を払って、こちらの動向を観察している」

「うむ、理屈で説明はできるな」

「……さすがに無理があるか?」

「いや、私としては腑に落ちる点もある……問題は対策手段だが」

「こうなってくると、ラダンを捕まえないとまずいけど……」

「それもあるのだが、おそらく仕込みが完了してからでは『原初の力』を行使できないとするなら、まだ余裕がある」

「俺の推測だと力を行使できない理由というのは……」

「移送されたことによって、障害……あるいは条件が付加されてしまったと見るべきだろう。元々、力は始祖の兄弟によって封じられていた。それを魔法によって無理矢理移送してしまったら、何かしら齟齬が生じてもおかしくはない」

「つまりラダンは、その問題を解決するために……」

「そのくらいの事態でなければ、わざわざラダンが大陸西部で仕込みをする必要性がない……彼としても『原初の力』を野放しにはできず、見つからないよう密かに移送した。だが、問題が生じた……こんなところか」


 エーレの中では解答ができつつあるみたいだが、俺のもあくまで予想だ。ここから先は――

 その時、シアナが玉座の間へ飛び込んできた。慌てぶりからどうやら事態が大きく動いたらしい。


「シアナか。何があった?」

「はい、それが」


 彼女は俺のことを気にしつつも、告げる。


「地上に……勇者ラダンが、現われました」


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