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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編
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ある体験

「なるほど、動かずして力を得る手段か……セディの説を証明する方法は簡単だ。魔法陣により魔物が出現地点とは違う所を調べて、何かしらあれば確定だ」

「調査……やるのか?」

「範囲が膨大であることは認めるさ。とはいえ、魔族神族、人材は豊富だ。大地をより精査できるような存在を投入し、調べて見ることにしよう」


 ……いくら魔王軍とはいえ、無尽蔵に資源があるわけじゃない。大陸西部に限定するとはいえ、調査する範囲としては無茶苦茶である。

 果たして、それで問題ないのか……沈黙しているとエーレは微笑を浮かべた。


「無論、ラダンとの決戦に備えてきちんと準備はしておく。セディ達は報告を待っていてくれ」


 やりきるつもりらしい。なら俺としては黙って頷くだけだった。

 よって、俺達は休むことに……次の戦いに備えてというのが名目ではあるのだが、


「大丈夫かな……」


 さすがに今までと比べても無茶な内容だと思う。不安がっていると横からカレンが、


「信じるしかないでしょう……それに、決して分の悪い賭けではないと思いますし」

「何か根拠があるのか?」

「兄さんの仰るように、ラダンは私達が想定していたよりも『原初の力』に近い場所にいる可能性が高いですよね」

「そうだな……」

「ただ、決して勝利が確定しているわけではない。私達は色々と可能性を探って調査をしていますが、ラダンに近づいていることは間違いないでしょう。後は良い結果を待つだけです」


 ……決して断定的な根拠があるわけではなかったが、カレンの表情はそう悪くない。何かしら予感を抱いているのかもしれない。今回の調査で事態が進展すると。

 まあ、エーレも俺の主張に対し何かしら思うところがあったわけだから、賛同して調査しようと考えたわけだしな……俺も不安を振り払い待つことに決める。その時、


「あ、セディ達じゃない」


 クロエの声だった。振り向けば廊下を歩み寄る彼女の姿。


「戻ってきたのか」


 そういえば彼女の意見も、と言っていたのに結局俺達だけで話し合っていたな。


「そちらは魔王と打ち合わせ?」

「結構な回数やっているよ……そっちは?」

「一度休憩を言い渡されたわ。動き回っていたからね。体力は余裕あるけど、疲労が溜まっていてはラダンとの決戦に勝てなくなるし」


 軽く伸びをして彼女は言う……ふむ、改めて彼女にも現状を尋ねてみるか。


「あ、クロエ――」

「意見の聞こうってこと? でも、私は考えるのは苦手だし……戦ってラダンの思惑を見切った、なんてこともなかったわ」


 肩をすくめながら話すクロエ。ただ、


「でも、一つだけ……ラダンは意図的に争乱を引き起こしているようね」

「俺達も同じ見解だよ……休憩ということだから、少し話さないか?」

「いいわよ」


 彼女は承諾。よって、俺の部屋でお茶を飲むことになった。






「私は、そうね……魔物を通してラダンの執念みたいなものを感じたわ。絶対に、作戦を成功させてやるという強い意志を」


 お茶を飲みながら、クロエは俺達にそう告げる。大陸西部全土を戦火に広げる行為に対し、彼女はそんな感想を述べた。


「相手が魔王や主神である以上、その気合いの入れようも納得がいくけれど……」

「なあクロエ、そっちはラダンの目論見がなんだと思う?」

「うーん、さっきも言ったけれど私は考えるのが苦手だし」


 苦笑しながらクロエは語る。


「思うままでいいから」

「そう? なら、言わせてもらうけれど……私の考えとしては、ラダンのやり方は相当戦略的だけれど、身動きができないやり方でもある。大陸全土をマークされている以上、大きなことはできないし……セディの考察は鋭いと思うわよ」


 そう語りながら彼女はさらにお茶を一口。


「こちらのやり方は二転三転としているけれど、真相に近づいているのは間違いないと思うわ」

「そうなのかな……ラダンと『原初の力』のありか。その内のどちらか一つを捕捉できれば俺達の勝利に近づくんだけど、なかなか難しいな」


 手がかりがないしなあ……と心の中で呟いていると、クロエは一つ言及した。


「ねえ、思ったのだけれど……大陸西部でラダンが動いている以上は『原初の力』そのものも西部にあると考えていいのよね?」

「仮に東部にあったとしても、あっちは魔王や主神と連携がきちんと取れているし、何かおかしなことがあれば即座に連絡が入るようにはなっているらしい。だから、西部の動きそのものが陽動であったとしても、ラダンの動きは捕捉できると思う」

「そう……ラダンとしては、居場所は露見する可能性があると思っているはずよ。だって、活動をしていた以上は必ず足跡が存在している。それを辿って接近されるかもしれない、と考慮するのは当然よね?」

「そうだな……ここまで作戦を立てて魔王や主神を翻弄しているんだ。そのくらい想定はするだろうな」

「なら、ラダンは見つかっても問題ないような作戦を立てているか、あるいは何かやり方があるのか……ともあれ、見つからないことに全力を傾けるのは間違いない。でも『原初の力』はどうかしら?」

「ラダンの言葉を聞く限り、動かせるものではなさそうだし――」


 ふいに、疑問を抱いた。俺達は『原初の力』のありかについて、最初は地底奥深くに眠っているような存在だと思っていた。けれど、長い歴史を経て町の近くとか、あるいはありかの上に居城があるかもしれない……などと、推測した。

 そして、もう一つの可能性を考慮していなかった……というより、そんなことあり得ないとさえ思っていた。だってそれは『原初の力』をどうにかできるという状況下でしか成し得ないと考えていたから。


 ただ、俺は一つ体験した……魔族の居城の一室を、魔王城へと転送する魔法。

 もしかして――ラダンは『原初の力』がある場所を、どこか見つからないような場所に移送しているのか?


「……セディ?」

「兄さん? どうしましたか?」


 クロエとエーレが口々に尋ねてくる。けれど俺は思考が止まらなくなり、


「……みんな、少し席を外す」

「何か思いついたの?」


 ミリーの問いに俺は立ちながら頷く。荒唐無稽であるのは事実。けれど、確認せずにはいられなかった。


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