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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編
408/428

前提条件

 カレンの提示した策は、作業そのものはひどく地味であり、ひたすら地図とにらめっこをしてラダンの動きを読もうというもの。絶えず情報が玉座の間へとやって来て、逐一エーレがその場所を記入していくのだが、その結果は、


「法則性がまったくないな……」

「ラダンがそのようにしているのは確かだが、こうまで綿密となれば、周到な準備ができていなければ不可能だな」


 エーレがそう応じる。


「どこまで考えていたのかまったくわからないが……これを一から全て計画の上で構築していたのだとしたら……」

「何か気になることがあるのか?」


 俺の質問にエーレは何も答えない。そればかりか地図から目を離さず、どこにいるかわからないラダンの思考を読もうとしている。


「純粋に、あまりにも範囲が多岐にわたっている気がしてな……そもそも、これほどの魔法陣を仕込むというのは一年や二年では済まされない。下手に大規模なものを仕込めばそれだけで神族側にバレる上、そうした活動をしているだけでも観測される危険性がある。よって、それこそ十年単位の時間を割いている可能性がある」

「そもそも魔法陣は森の奥を始めとして、バラバラになるよう配置されています」


 と、検証作業に途中参加したシアナが俺達へ述べた。


「これは地理的な情報も全て把握している可能性が高いことを表しています。お姉様は十年単位と仰りましたが……下手をするとそれ以上……」

「大陸西部全域に範囲を広げるとすれば、不老であるラダンだからこそできる所業というわけだな」


 エーレは淡々と語るが……その妄執具合が、半端じゃないのはわかる。


「これほどまで周到に準備をしてきた……が、疑問が生じる」

「何?」

「勇者ラダンの目論見は、色々あって私達は理解できた」


 そこはヴァルターのおかげとか絶対に言わないわけだな。


「だからこそ、私達は相手の出方を窺いどう動けばいいかをある程度把握できるわけだが……ラダンとしてはこのような状況は想定していなかったはずだ」

「元々のプランを変更しているんじゃないか?」

「ああ。確かにそうなのだが、重要なのは私達が神魔の力について知っているためラダンは仕掛けているわけだが……この準備は、それよりも前に進められているという点だ」


 ああ、なるほどな……事前準備は何十年も掛かるものだ。けれど、今巻き起こっている戦いはまるで、現状を予想していたかのようなもの。


「仮に私達が神魔の力を知らない状況であっても、ラダンは同じ事をしたとすれば……魔物を発生させることそのものに意味があるわけだ」

「元々計画していたことを、俺達との戦いに利用しているということか?」

「そういうことになるな」


 魔法陣のある場所を調査することで、おぼろげに浮かんできたラダンの行動……とはいえ、これで何かわかるというわけでは――


「私達が何も知らなくたって、ラダンは行動を開始していたとするなら」


 ここでミリーが地図へ目を落としながら告げる。


「騒ぎを起こすことは確定していた……なら、騒ぎに乗じて何かをしているのかしら?」

「その可能性も考慮して調べてはいるのだが……敵の動きなどはないぞ」


 ここで、俺は閃くものを感じた。もしかして、


「なあエーレ」

「どうした?」

「現在、大陸西部に監視の目はあるんだよな?」

「そうだ。もちろん東部を疎かにしているわけではないぞ?」

「ああ、わかってる。ラダンとしては魔王や主神がジクレイト王国などとも繋がりがある以上、東部で何かをするとかは考えないだろ……仮の話だが、魔物を出現させて色々と警戒させている状況下で、ラダンは何ができる?」

「何が……できる、とは?」

「つまり、ラダンは最初から騒動を起こすことを前提に作戦を立てている。これはミリーの言う通りだと思う。なら、ラダンはこの騒ぎに乗じて、魔王にも主神にもバレないよう、何かをするというわけだ。俺達がラダンと接触しなければ、彼はこちらに何も気付かれぬまま『原初の力』を手に入れていたかもしれないが、現在は違う。でも、ラダンはあくまで騒ぎを起こしている……なら、騒ぎを起こしていることこそが目的だと考えることができる。加え、ラダンは魔王にも主神にも絶対にバレないと自信を持って行動しているはずだろ?」

「ふむ……この状況下で、警戒網をすり抜ける行動か……例えばの話、魔物を出現させる魔法陣が気付かなかったように、仕込みなどはこちらも看破できていなかった……まあそうだな、新たに魔法陣を密かに作成するとかなら、こちらにバレない可能性もゼロではない」


 そうエーレは言ったが、俺へ「ただ」と告げて補足する。


「魔物が出現した場所は警戒している……ラダンもわざわざ騒動が起こった場所へ赴くようなことはしないだろう。逆を言えば騒ぎのない場所であるなら、こちらに気付かれず何かをされている危険性は存在する」

「うん、そうだよな……」

「何かわかったのか?」

「いや、俺の考えもあくまで想像だから……」

「話してくれ」


 気付けばエーレが真っ直ぐ俺を見ていた。同じ勇者として……手がかりになるかもしれない、と思っているのか。


「わかった……まず、魔物達が何かに乗じて新たな仕込みを行っている。あるいはラダンの手勢でもいい。魔物が発生している場所から離れた地点で、ラダンが『原初の力』を得るために、活動しているのはたぶん正解だと思う」

「かもしれない。問題はその行動内容だが」

「例えばだが……大陸西部全域に何かしら魔法を行使するとか、可能性はないか?」

「それは……『原初の力』を用いてではなく?」

「あくまで『原初の力』を手に入れるために」

「それだけ手の込んだことができるのであれば、最初から『原初の力』など得ることは容易いと思うのだが……」

「なら、こういう可能性はどうだ? ラダンは『原初の力』を得るべく動いている。俺達はその場所へ赴く彼の姿を捉えようとしている。だが、もし彼が動かずにその力を得る手段を持っているとしたら……?」


 エーレは腕組みをして、考え込む。俺達はラダンの姿を捉えるべく立ち回っている。だが肝心のラダン自身が出てこない……いや、仕込みによって出る必要がないとしたら、かなりまずい。

 魔物を使って西部を混乱させることで、力を得られるという形であったのなら……そういう俺の意見に対し、エーレは口を開いた。


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