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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編
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名もなき戦争

「――それらしい候補は、見つかった」


 玉座の間。休憩を終えた俺や仲間達を呼び、エーレは調査結果を報告した。


「現時点でどこにあると断定できるわけではないが、過去に町が近くにあった場所などで、地底奥深くまで到達できる所が確かに存在する」

「候補はいくつぐらい?」

「全部で三ヶ所。とはいえ、いちいちセディが行く必要はない」

「既に神族が動いているわ」


 これはエーレの横にいるアミリースの発言だ。


「候補となる場所を中心にして、色々と調べることにする。国との連携も行い、人海戦術で怪しいところを調べる予定よ」

「国も手を貸すのか?」

「ラダンがいるということで、協力態勢は敷いていたからな。理由はなんとでもなる」


 本当、敵に回ったら恐ろしい。ラダンは魔族や神族だけでなく、普通の人々まで相手をしなければならないわけだし。ただ、


「たぶん騎士団とかが調査すると思うけど、大丈夫なのか? 危険とかは?」

「ラダンが危害を加えないか、ということか?」


 エーレからの問い掛けに俺は神妙な形で頷く。


「ラダンとて人間を敵に回したくはないと思うけど、最終的に『原初の力』で全てを改変するとしたら、容赦なく行動する可能性も」

「その辺りのことは一通り連絡はしてあるが……私達としても、国側に頼るところが大きいからな」


 ……さすがに魔族や天使が全てに介入するのは厳しいか。かといって俺やクロエが出張るのも、ラダンの思惑にはまってしまう危険がある。

 どうするのか……沈黙しているとエーレは、


「もしもの場合は、セディ。あなたに動いてもらうことになる」

「そっか。それで解決し、なおかつ問題ないと判断するのならいいぞ」

「できる限り、被害が出ないように動くつもりではいる。しかし最悪の事態を想定するとしても、リソースも限界があるからな。最善を尽くすことだけは約束するが……」


 どうにも歯切れが悪いのは、人間のことまで考慮するのは厳しいという考えなのだろう。

 俺もまあ理解はできている。今やっていることは、紛れもなく戦争なのだ。しかも、大陸西部全土を巻き込んだ戦い。人々が知ることのない、歴史に残らない名もなき戦争。手段はどうあれこれはそういう戦いである以上、犠牲者が出てしまうのはやむを得ない。


 現時点でも、魔物討伐のために負傷者などは出ているに違いない。もしかすると俺達のあずかり知らぬところで既に死者が生まれているかもしれない……俺は一度深呼吸をした。仕方のないことだと割り切ることはできないけれど、もし犠牲者が出ても、ラダンを倒すために動く覚悟だけはしなければいけない。


「セディ?」


 名を呼んだエーレに対し、俺は手を小さく振り、


「いや、ごめん……戦いである以上、危険はつきものだ。今は被害が最小限になるよう、祈っているよ」

「ああ、そうしてくれ……現在調査は継続しているし、既に動いているから一両日中には結果が出るだろう。吉報であるといいが」


 その時、玉座の間の扉が開いた。何事かと振り返れば、こちらへ近づいてくるファールンの姿が。


「ご報告が」

「その様子だと、候補となっている場所の調査結果ではないな」

「そちらはまだ結論が出ていません。ただ現時点で怪しい動きなどは存在せず、ラダンがいる可能性は低い、というのが結論のようです」


 ここについては仕方がない。もし『原初の力』が眠っている場所の近くであっても、さすがに魔族や天使がいたらラダンも身を潜めるだろう。


「そして『原初の力』についてもまだ調査中です……ご報告の内容は、魔物の動きです」

「何があった?」

「神魔の魔物ではありませんが、通常の力を持った個体が多数、大陸西部に出現しています。しかも地上のどこからか魔力を得たというわけでもなさそうです」

「ふむ……やはり地中に隠していたか? 残っていた魔物に号令をかけたと」


 見方は二つある。俺達の動きが相当大きなダメージであったため、これ以上傷を広げないよう、魔物を展開してそちらに注力させようというもの。もう一つは魔物の討伐具合から補充したのか。魔物の出現タイミングからして、前者でありそうな気もするのだが、


「ラダンの反応として、どういう腹づもりなのかはわからないな」


 エーレは口元に手を当て、報告内容を吟味する。


「攻めなのか受けなのか判断しがたい……アミリース、どう見る?」

「私達の攻撃により対応を迫られた、というのはおそらく間違いないでしょう。ただ、この場合エーレの言う通り、攻撃に対する反撃なのか、それとも私達の動きを見計らって動かしたのかは悩みどころね」


 もしアミリースの言う後者、タイミングを見計らってというのであれば、下手するとここまで予定通りなんて可能性も考慮できる。ただ、いくらラダンでも神魔の力を研究していた施設をホイホイと差し出すわけはないだろう。それはいくらなんでもリスクがありすぎる。


「……俺達の動きに対し気を逸らすために、というのがポジティブな考え方ね」


 ミリーは腰に手を当て俺達へ告げる。


「で、単に私達の動向を察して魔物を差し向けたのが否定的な見解」

「ふむ、私としてはその可能性が高いと考える」


 エーレがミリーに応じ、俺を一瞥した。


「私達が研究施設を奪取した点は、間違いなく予定外だろうと思う。あれはこちらに明け渡していい施設ではない。純粋に私達の動き方を見て、次の段階へ進むために魔物を出した、と捉えるべきだろう」

「なら、戦いの局面に変化が起きたと」


 俺の言葉にエーレは頷く。


「そうだ。ラダンの反撃がこれなら、さらに大陸西部の戦火を広げる気だ。今以上に神魔の魔物について警戒せねばなるまい」


 ……物量で押し切るつもりなのだろうか? しかし、相手が相手である以上、そんな無謀なことをラダンがするとは思えない。

 今回研究施設を奪われたことは、ラダンにとっても痛手であることは間違いないだろう……ただ、この事実が致命的な状況になるまでには時間を要する。神魔の力の対策を立てられる前に事を決めなんて選択肢もある。


 そう考えると、ラダンにとってはまだ致命傷ではないと結論づけているのかもしれない。時間制限は存在するが、次の段階へと移行した――ならばこちらも動き方を変える必要性が出てくる。

 その中で俺はどうすべきなのか……なおも続くエーレ達の作戦会議。それを耳に入れつつ、俺は自分に何ができるのかをひたすら考え続けた。


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