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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編
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戦火を広げる意味

 その後、調査を開始したエーレ達に対し俺は待機を命じられた。次の戦いがいつ始まるかわからないため、今のうちに休んでおけとのことだった。

 部屋へ戻り、そのタイミングで仲間達がやってくる。事情は把握しているようで、カレンがお茶を用意した直後に口を開いた。


「私としても盲点でした。確かに町中に存在する可能性はあるんですよね」

「俺の考えが当たりかどうかはわからないけど、人もいない場所にあると決めつけるのもどうかと思ったんだよな」

「先入観、ってやつかしら」


 ミリーがカップを手に取りながら俺へと告げる。


「重要なのは、魔王や女神もまた、その先入観に囚われていたこと……セディの視点がなかったら、危なかったかもしれないわね」

「俺の考察が役立てば何よりだけど……」

「兄さんは、どうお考えですか?」


 急に話を振られて俺は黙考する。そうだな……、


「うーん、わからないことが多すぎるし、当てずっぽうではあるんだけど……まず、現段階でラダンは『原初の力』を得るための資格を持ってはいない」

「もし得ていたら勝負はついているからね」

「そうだ……もし資格を持っている場合、後は密かに『原初の力』が存在する場所に辿り着けばいい……相手が魔王や神々である以上、ラダンとしても早々に切り札を得たいところだろう。というか『原初の力』は彼から聞いた限り、魔族も神族も抗うことができないものだ。もしこの状態なら、後は目的地へ到達するだけで済むから、もう既に勝負は決まっている……というかそもそも、魔物を利用して攻撃を仕掛ける必要性がない」

「それもそうだな」


 クッキーを食べながらフィンが応じる。


「ってことは、だ。今こうして色々と動いている以上、まだ勝利条件は満たしてない」

「そうだ。ラダンは今回の魔物を動員することで、何かを成そうとしている……それが力を得るために必要なパートナーを得るためなのか、それとも『原初の力』が存在する場所へ行こうとしているのか……ここが読めないため、エーレ達はあらゆる状況に備えて準備をしていることになる」

「それが現状……で、セディの推測としては?」

「先も言ったように、ラダンは勝利条件が整っていない。だからこそ今回、魔物を動かした。それが何なのかは判然としないところはあるけれど……俺としては、パートナーを得ていないんじゃないかと思う」

「人、か。それじゃあなんで魔物を動かした?」

「あくまで勘だよ。俺も確証があるわけじゃない……ラダンは『原初の力』を手に入れるべく動いているのは間違いない以上、意味のある行為なのは確かだが」

「……意味のあること、ねえ」


 フィンはガリッ、とクッキーを一度強く噛んだ後、呟いた。


「大陸西部をかき乱して、か……もし人を招き寄せるとしたら、いくら何でも壮大じゃないか?」

「それはそうなんだけど……」

「そもそも、西部全土に戦火を広げなくてもいいわけですし、ね」


 ここでカレンから考察が入った。


「私が一番の疑問なのは、なぜこうまで範囲を広げたのか……相手が魔王や主神であるから、というのは一応理屈っぽく聞こえますが……例えば、魔物が出現している場所と出現していない場所、まだら模様に魔物を配置します。これであれば魔王側としてもどこを注視すればいいか迷う……戦火を広げるよりもリソースは少なくて済みますし、ラダンは戦力など明らかに劣っていることがわかっている以上、そうしたやり方を用いる方が効率が良いわけです」

「確かにそうだな……」

「最初、ラダンは戦略的に互角に立っていたわけだしねえ」


 と、ミリーが発言。俺はそこで頷き、


「大陸西部を盤面としたなら、確実にエーレやアミリースの目を上手く欺いていた……というより、目的を悟られないようにしていた。戦火を広げることの効果は証明できたはずだが、他に効率的なやり方はあったはず」

「ラダンは今回の作戦にそれこそ全てを賭けている……余剰戦力を残せるなら、いざという時に備えてやっておくと思うけれど」

「うーん、そうだな……ラダンはあちこちで実験を繰り返していた。そして神魔の力を持てる存在を探していたわけだけど……例えば、自分だけが『原初の力』を手に入れるために動くべく、他には戦火を広げるために色々やらせているとか、かな」

「……つまり、捨て駒ってこと?」


 ミリーからの疑問。俺は頷き、


「ラダンが言うには『原初の力』を手に入れるには神魔の力を持つ存在がもう一人必要……俺を勧誘したことからそこは間違いないと考えていい。それについては何かしら確保できる手段があって、残る者達は邪魔者扱いして、追い払うべく大陸西部で動かしている、とか」

「うーん、それにしたって無茶しているように思えるけど」

「俺のは単なる推測だから、鵜呑みにはしないでくれよ……」

「それじゃあ逆転の発想で考えるか」


 フィンが唐突に発言。逆転?


「大陸西部でなぜここまで魔物を動かしているのかわからない……なら、それをしなければ『原初の力』に辿り着かないってことだろ? 西部全域に被害をもたらすだけの理由が何かを探ればいいんじゃないか?」

「う、うーん……俺としては索敵されないようにするため、くらいしか思いつかないけど」

「あるいは『原初の力』のありかを悟られないように、ですね」


 カレンの言葉に俺は頷くのだが……やはりどこまでも引っかかる。

 フィンの言うように、今の戦況はラダンにとって必要なもの。これだけの規模で何かをやるというのは、確実に何かがある。エーレ達もそれを探るべく調査をしている。


 もし何かあったら、確実にシアナとかが発見するだろう……いや、ラダンはこちらの監視網をくぐり抜ける何かを持っているということか?


「……不明な点は多いけど、確実に言えることは一つだな」


 ため息をついて、俺は決まり切った結論を述べる。


「ラダンをとにかく見つける……俺が提言したことで、町中とかも調査に入るだろ。西部は広いから、見つかるかどうかもわからないけど……エーレはそれをしなければ勝てないと踏んでいる。なら、今は魔族と神族の力が届くことを信じるしかないだろうな――」


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