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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編

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勇者の推測

 話をしながら俺達はさらに移送した部屋を詳しく調べる……もちろん大陸西部の情勢を窺いつつなので、作業ペースそのものは遅めではあるが。

 さらにエーレはアミリースをここへ呼んだ。彼女は神界で動き回っていたようだが、重要な情報ということで飛んできた。


「面白いわね」


 そんな感想が彼女の口から漏れた。いくつもの資料を手に取ると、食い入るように視線を注ぐ。


「うん、ラダンが持つ力の核心部分なのは間違いなさそう……ただ、エーレの言う通りこれを利用して対抗するための技術を編み出すには時間が必要ね」

「もし神界側が作ろうとすると、どのくらい掛かる?」


 俺の質問にアミリースは一瞬視線を宙に漂わせ、


「そうねえ……さすがに一ヶ月は掛かるかしら」

「神族をもってしても、それか……いや、この場合は勇者ラダンが人生を賭けて生み出した技術を、一ヶ月で看破できると見るべきか」

「どちらにせよ、今回の戦いには間に合わないわ。セディやクロエの力を借りる他ないわね」


 どこか悔しそうにアミリースは述べる……と、ここでエーレは腕組みしながら彼女へ問い掛けた。


「ラダンは早急に動くと思うか?」

「可能性はあるわね。ただラダンは神魔の力を得ている以上、この研究成果をつぶさに理解していることでしょう。であれば、いくら魔王や主神であっても、対抗手段を構築するのに時間を要すると考えるはず。私は、まだ動かないと見るわ」

「私達の能力を把握していても、か?」

「彼の仲間には神族や魔族がいる。例え魔王や主神の力を侮っていないにしても、彼らから種族の長の力量については、ある程度情報をもらっているでしょう……なら、どの程度の速度で構築できるかの推測はできるはずよ」

「ふむ、一理あるな……」


 エーレは口元に手を当てつつ、しきりに頷く。


「こうして調査を続ける間も情勢は少しずつ変化しているが……やはりラダンは動く気なしか」

「……なあ、エーレ」


 ここでなんとなく、俺は疑問をぶつけてみる。


「俺達はラダンが『原初の力』のある場所へ向かうのを見計らって、攻撃しようと考えているわけだよな?」

「そうだな」

「なおかつ俺達はその場所がどこかわからない」

「ああ、そうだ」

「……ラダン自身、既に目的地にいるという可能性はないか?」

「そうであればとっくの昔に『原初の力』を発動させているだろう?」

「力のある場所へ向かうにはパートナーが必要……そのパートナーを待っているとか」

「あり得るが、神魔の力については観測している。セディの言うとおりならば、動き始めればこちらの警戒網に引っかかるはずだ」

「そうか……」

「ただ、着眼点は悪くないな……既にラダンが『原初の力』が存在する場所に到達しているとしたら、こちらとしては形勢不利だが……」

「両方とも『原初の力』がある場所にいるのなら、既に力が発動しているわけだよな? だとするとまだそこには至っていないけど……」

「彼らがどういう行動をしているのか不明であるため、私達としても頭に疑問府が浮かんでくるわけだが、もし発見した際、意外に納得できる理由があるかもしれないぞ」

「納得、ねえ」


 ラダンが力のありか……そこに潜伏しているとしたら……ただ、もしそうなら多少なりとも物流など怪しい動きを見せるよな。いかにラダンといっても飲まず食わずは不可能だし。

 今回俺達へ攻撃を仕掛けていることから、確実に策のために動いていたのは間違いない。だからまあ、単純に隠れているだけではないだろうし、今の状態ならば、エーレ達の監視がその動きを捉えられないはずがない。


 もし、魔族や神族の警戒網をくぐり抜けられるものがあるとしたら――


「……エーレ」

「どうした?」

「そういえば深くは尋ねていなかったけど、『原初の力』が存在する場所。それはどういった所を想像する?」


 もたらされた問い掛けに対し、エーレは俺を見返した。


「具体的にこうだ、と断定できるわけではないが……ラダンが語った内容から察するに、人里離れた場所だろう。なおかつ地底の奥深く」

「ああ、そうだな……俺も洞窟の奥とか、勝手にそういう場所を想像していた」

「何か考えついたのか?」

「いや、単純に思ったんだよ……『原初の力』を兄弟が得た時、そこは間違いなく人里離れた地底奥深くだった……『原初の力』そのものは移動できるかどうかはわからないけど、もし固定化された事象であったとしても、あくまで当時の話だ」

「……ふむ、確かに」

「つまり、今の時代は」


 と、シアナは口を挟んだ。


「当該の場所は、人が住んでいる可能性がある、と?」

「あくまで推測だけど。もしこの仮定が正しいとすれば、ラダンは既に『原初の力』がある場所に潜伏していても、長期間滞在できる」

「そうだな……仮にそうであれば、今はパートナーを得るために動いている、と?」

「そんな可能性はゼロじゃない。そもそも大陸西部は戦乱が繰り広げられている。大昔何もなかった場所に国が興るなんて、いくらでもあったはずだ」

「であるなら、私達の調査で見つからなかったのも頷ける」


 と、エーレが俺やシアナへ述べる。次いで、


「そうね、加えて、人のいる場所を魔族や天使が闊歩して調べるわけにもいかない」


 アミリースが続く。俺の推測だって間違っている可能性はあるが……、


「シアナ」

「はい」

「大陸西部の歴史について洗え。兄弟が『原初の力』を得た時期はいつなのか……神族や魔族の出自などを紐解けば、ある程度推測はできるな?」

「魔王城の膨大な資料から調査しなければなりませんし、ある程度人員が必要ですよ?」

「予備役を回すことにしよう。城内で調べる以上は、緊急招集も容易いからな」

「俺の推測に基づいて調べるのか?」

「可能性はゼロではない。やれることはやっておきたい」

「そうね。私も連絡して、神界側の資料も調べ直しましょう」


 アミリースも同調する……思わぬ形で話が動きそうだが……果たして俺の推測は確かなのか?

 まあ魔族も神族も余剰人員で対応するから、現在の戦いに影響はなさそうだけど……もし事態がすぐに動かなければ、まだ余裕がある。その間に、何かしら成果を得たいところだと俺は思った――


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