城内探索
『道中で、手短に説明する』
玉座の間を出て廊下を歩いていると、エーレは俺へ話を始めた。
『神魔の力が存在している以上、何が起きるかわからない。よって、私とセディとの通信が途絶……あるいは転移魔法による送還ができなくなるなど、最悪な事態を考慮した上で、人選させてもらった』
「それでこのメンバーか……魔王城側は大丈夫なのか?」
『多少ならば問題はない。いざとなればシアナが無理矢理転移魔法陣などを形成し、セディ達を戻せるように手はずを整えている』
「シアナが?」
『姉妹であるため、私とシアナとで通常では用いることができない魔法を扱うことができるのだ』
……詳細は語らなかったが、なんとなく想像はできる。血縁という関係性を用いて、エーレのいる場所とシアナのいる場所を強引につなげるとか、そういう手法だろう。血縁というのは魔法の性質としてはかなり強いので、もし転移魔法を防がれてしまっても、それを押し切れるだけのパワーが存在するというわけだ。
「この場所に、ラダンがいた可能性はあるでしょうか?」
シアナの疑問。もしそうなら最悪この場で遭遇なんて事態になるかもしれないが、
『調査してみないことにはわからないが、ゼロではないだろう。とはいえ、長居するとは思えないな。裏切りの魔族である以上、いつ何時見つかってもおかしくないからな』
うん、そこは俺も同意する。場合によっては視察に来る可能性を考慮すれば、ラダンが居座るにしても、ごくごく短時間だろうと思う。
『ただ、神魔の力はラダンにとってもっとも重要なものだ。それをおいそれと誰かに差し出すとは思えないが……そう考えるとセディの感じた何かは、予想以上にすごいものかもしれないぞ』
「安易に提供するわけがないから、逆にそうした力がある以上、ここは神魔の力を扱う上で重要な拠点だった……と、考えるわけだな?」
『いかにも。ともあれ、城内を調べてくれ』
「セディ様、場所はわかりますか?」
シアナが問い掛けると同時、俺達は十字路へと辿り着いた。真正面はたぶん、城の入口方向か。左右に伸びている廊下は……俺は神経を研ぎ澄まして、気配を探る。
「……神魔の力が存在しているのは確かだけど、それがどこかまではわからないな。例えば研究成果とかに力が宿っているのなら、近づいてみればわかるかもしれないが……」
「特定はできないんですね」
「もやが掛かっているような感じだな」
「わかりました。お姉様、この居城について、情報はありますか?」
『ちょっと待ってくれ、今調べているところだ……ふむ、一応城内の見取り図くらいはあったぞ』
早いな……少し待っていると、転移魔法を通じて紙の束が送られてきた。それをシアナは一枚一枚めくり、確認していく。
「……はい、わかりました」
そして送還。もしかして全部記憶したのか。
「左右ですが、どちらも部屋や階段に通じています。シンメトリーに近い構造になっているようなので、どちらに進んでも城内をぐるりと回ることはできるでしょう」
「左右で何か違いはあるか?」
「構造にそこまで違いがあるわけではありませんね」
「なるほど……定番だけど、秘密の地下室とかあったら、そこが一番怪しいが」
「そこは魔王城の資料からは読み取れませんが……もしそういう場所を見つけたら、間違いなく大当たりでしょう」
「なら、早足で城内を見て回ろう。怪しい所があればすぐに言うよ」
「わかりました」
シアナは資料を送還して、歩き始める。俺は意識を周囲に向けながら、彼女の後方を追随する。
近くに行けば、詳細がわかるというのも希望的観測ではあるのだが……俺は呼吸を整えてひたすら歩みを進める。魔力を探すという行為は結構集中力を必要として、隙も生じるのだが周囲にいるのは百戦錬磨の面子。安心して魔力を探ることができる。
やがて、俺はシアナへそれらしい場所を告げる……結果として辿り着いたのは、階段を二階ほど下りて扉を抜けた場所。そこはどうやら倉庫。ただそれほど物が置かれているわけでもないのだが……部屋の床に注目。その一角に地下へと通じる階段が存在していた。
「おそらく仕掛けによって開くようなタイプなのでしょう」
シアナは言いながら周囲を見回す。言われてみれば、階段の周辺には何の用途に使うのかわからない突起物とか、飾りのような物が。
「床板を仕掛けによって持ち上げるような構造なのだと思います。しかし、隠す必要性などどこにもなく、わざわざ毎回仕掛けを作動させる必要もないとして、撤去したのでしょう」
「面倒だったというわけか……倉庫にわざわざ作ったのに」
「お姉様の配下が査察をするようなこともありませんでしたし、油断していたというわけですね……私達にとってはわかりやすいということで、肯定的に捉えましょう。それでセディ様、この階段下に神魔の力が?」
「ああ。ここまで来れば明瞭に感じることができる……ただ、やっぱり魔物とか人がいるような感じじゃない。実験していた痕跡程度かな」
「それを玉座の間という場所で勘づいたのは、驚愕だね」
リーデスが肩をすくめながら話す。
「神魔の力について、多少なりとも分析とかしているけど……遠くでも気付くほど特殊なものかと言われる微妙なんだけど」
「俺の場合、自分が神魔の力……同質の魔力を抱えているのと、戦闘により感覚が鋭敏になっていたからだと思う。もし戦闘がなかったら、気付いていないさ」
「そういうものか……とりあえず戦いにはならないと」
「たぶん、な。もちろん、警戒はしてくれよ」
俺の言葉にリーデスは一つ頷いて、先頭に立った。
「ここからは僕が。ファールン、君は後方を頼むよ」
「承知致しました」
よって俺はファールンの前……三番目を歩くことに。一列になって地下への階段を進んでいく。それにより次第に魔力が強くなっていく。
シアナ達も特殊な魔力であると察することができるようになったのだが……やがて一枚の扉。ただそれは半開きになっており、中を窺い知ることができる。
ふむ、俺達が踏み込むより前、魔族はここで作業をしていて、偵察などに行っていた悪魔が戻ってきたので玉座のまで対応していた……みたいな感じだろうか? ただそれだけで玉座に赴くのか……疑問を感じながら、俺は扉をくぐり地下室へと入った。




