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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
国家潜入編
40/428

竜との決戦

 部隊は街道を外れ、森を右手に見ながら突き進む。俺は馬車の横手に回り、レナと共に行軍を続けた。


 やがて咆哮が大きくなり、とうとうその姿を現し――


「……おいおい」


 俺は目の前の光景を見て、呻くこととなった。

 右手にある森が切れ、目の前は草原が広がっている。草はそれほど伸びていないので、馬を走らせるには問題なさそうなのが幸いだ。


 そして右斜め前方向に、目的の古竜が超然と立ち、周囲に目を向けていた。俺の付けた傷は遠目からでも確認できるが、傷はふさがっているのか出血等をしている様子は無い。

 加え、古竜の周囲には悪魔型の魔物がいた。数は――パッと見て、十を超えている。


 騎士達の空気が、一気に硬質なものへと変わる。悪魔の存在を改めて認知したことで、強い警戒を発し始めたようだ。


「……到着しましたか」


 そんな中、女王が馬車から出現した。横顔を窺うと、悪魔を見て目を細めている。


「悪魔……ですね」


 視界に捉えた後、女王はゆっくりと俺へと首を向ける。


「セディ様、援護をお願いできますか」

「はい」


 俺はすかさず了承。次に女王はレナへ視線をやる。


「レナ、手筈通りに」

「はい」


 彼女が受け答えると、女王は前を向いて朗々と告げた。


「悪魔に対しては予備役の面々と、セディ様に当たってもらいます! 他の者達は事前の作戦通りに動き始めて下さい!」


 ――言葉に従い、騎士が動く。そこで俺は周囲を見て、じっと古竜を注視するロシェの姿を捉えた。

 なんとなくそちらへ馬を進めると、彼は気付いたようで俺のことを一瞥し口を開いた。


「セディ殿、よろしくお願いします」

「いえ……俺は悪魔を倒すことに徹しますが、よろしいですか?」

「はい」


 緊張を伴う声で返すロシェ。


「犠牲が出ないよう、こちらも尽力します」

「ええ――」


 と、返したところで改めて悪魔や古竜を見据えた。

 敵は現状、戦力を結集させているのは間違いない。数による攻撃で混乱を誘い、女王に害を及ぼそうとする腹積もりなのだろう。


 なぜそうするのか――間違いなく、俺が計画を潰し続けたせいだ。これまで何度も魔物と遭遇し……こちらは場当たり的な対処しかしていないのだが、最後の古竜との戦いまで全てを追い返し、形としては敵の策を突破したという結果になった。

 だからこそ、戦力を結集させ盤石の態勢を――改めて考えると、敵から見れば俺はかなり厄介な存在なわけだ。


「……おそらく、この戦いで決着をつけたいのでしょう」


 ふいにロシェが呟く。俺はしっかりと頷き、


「かもしれません……そうだ」


 ならば――頭の中で色々と浮かべつつ、俺は彼に言った。


「騎士の方々には、古竜に対する準備と、防戦に努めるよう言い含めておいてください」

「何か手が?」

「手、というよりは……」


 俺は小さく肩をすくめ、言葉を濁す。


「まあ、その辺は確証がないので伝えないでおきます」

「……わかりました」


 ロシェは追求したそうな顔を示したが、それ以上は訊かず了承し、他の騎士と共に準備を始めた。

 俺はそこから、馬を少しずつ前へと進め、じっと古竜に目を向ける。


「さて、相手はどう出るか……」


 ――先ほど考えついたのは、相手にとって俺が最大の邪魔者であるという点。だからこそここまで戦力を集中させている。ならば短時間で徹底的に戦力を削れば、相手の策を防げるかもしれない。


「それで事態が好転するかどうかは別の話だが……」


 一度、女王へ視線を移す。馬車を降り、レナと共に移動を始める姿。


「女王なら、人命優先と言うだろうな」


 なら、できることは一つしかない。俺は右腕をかざし、シアナからもらった指輪を確認する。

 擬態しているので、見た目は赤い宝石の指輪。けれど力を込めると、それとは異なる感触を覚える。


「よし」


 馬上で呟く。さらに騎士達がせわしなく動くのを見回した後、古竜に目を戻す。悪魔と共に佇むその姿は、俺達を迎え撃つ敵軍のようだった。






 そして、交戦が開始された。


「全軍、攻撃開始!」


 女王の声と共に、騎士達が一斉に散らばり始める。まず俺の目に飛び込んできたのは、五人ほど固まって馬を走らせる一団。それが数としては五つ。

 その騎士達の中に、杖のような物を持った人がいる。あれが古竜を封じ込めるための魔法具――頭の中で推測しつつ、俺は馬を走らせた。


 魔法具を持つ隊とは別に、悪魔や古竜を準備まで食い止める騎士団が前方に一列となって存在している。その集団の中に俺やロシェがいて――距離を詰めたことにより、古竜が吠え悪魔が雄叫びを上げた。

 本来ならば恐れおののく光景。けれど騎士達は馬を走らせる。


 悪魔達はこちらを窺う様子を見せる。対する古竜は動かない。


「――散会!」


 瞬間、ロシェが叫び騎士達が馬を操作し数人単位でまとまり始めた。悪魔はそれに反応し、それぞれが騎士達へと向かい始める。


 数は多いが統率は取れていない――そう直感した。レナが首謀者の動向を監視しているため、悪魔も直情的な攻撃しかしてこないようだ。これが魔王や魔族幹部によって作られた存在ならば思考能力もあるのだろうが、人間の手によって操作している魔物である以上、命令を受けなければ目の前の敵に反応する程度しかできないようだ。


 悪魔は翼をはためかせ、猛然と騎士達へ迫る。移動速度は馬とそれほど変わらない。もし危険があったとしても、退却するのは困難になるだろう。


 だからここで決める――俺は先手必勝で剣に力を込めた。シアナの指輪の力と、さらにフィンから借りた腕輪の力を活用し、刀身に莫大な魔力を生み出す。

 やることとしては、昨夜古竜と戦った時に使った衝撃波の応用。魔族幹部との戦いでは、魔力が拡散しすぎて攻撃に使えなかったのだが、今回の悪魔となれば話は別。


「はあっ!」


 裂ぱくと共に、俺は馬上から手近にいた悪魔に向かって縦に一閃した。すると刃先から白い光が生まれ、それが地面に着弾し――

 直後、地面から剣先と同等の幅かつ、俺の頭上を越える柱が生じ、それが地面を削りながら波のように悪魔へ襲い掛かった。


 対する悪魔は攻撃に反応したか、回避行動に移る。しかし白波が到達する方が早く、直撃しまっぷたつとなる。

 さらにそれだけでなく、奥にいた悪魔二体も巻き込み、塵となった。


「――っ!」


 近くにいた騎士が息を呑むのに、俺は気付いた。けれどそれを無視するかのように手綱を動かし、今度はロシェ達に向かいつつある悪魔へ一閃した。

 方向的には左斜め前――またも剣の幅しかない白波が生じ、ロシェの隊へ迫ろうとした悪魔を横から両断する。ついでに、奥にいた悪魔も巻き込んだ。


 これで五体――途端にロシェが目を剥いて、俺へ視線を注いだ。


 それに応じようか一瞬考えたが、二体の悪魔がこちらへ向かおうとしているのを視界の端に捉え、そちらを注視する。

 さらに手綱を操作し馬を止め、悪魔を迎え撃とうとする。戦い方としては色々思い浮かぶのだが、


「魔法の方が良いだろうな」


 呟き、俺は素早く剣を収め、手綱を持ちかえ左手を接近する悪魔へとかざした。


「来たれ――煉獄の聖炎!」


 言葉の直後、手の先から金色の炎が生み出された。それには悪魔も対応することができず、飲み込まれ消え失せる。

 これで七体。さらに騎士へと襲い掛かった悪魔も数体滅び、残るは……三体となる。


 その悪魔達は古竜の近くで飛び回っていたのだが――他の悪魔が滅ぼされたと見るや、急降下するように俺達へ迫り始めた。


「全員、回避!」


 そこへロシェが号令。騎士達は途端に一糸乱れず馬を操作し、悪魔からの攻撃を避ける。

 しかし、俺とロシェだけは違った。


「来たれ――煉獄の聖炎!」


 まず俺が金色の炎を放つ。それに加え、


「――おおっ!」


 ロシェが渾身の力で剣を馬上から悪魔へすくい上げるように放った。直後彼の握る剣先から銀色の軌跡が生まれ、一筋の矢へと変化し猛然と悪魔へ走る。

 先に俺の炎が到達し、見事悪魔を二体倒す。遅れて銀色の斬撃が一体を捉え、そちらもまた一撃で消え失せた。


 これで、目に見える悪魔は全て倒した。次に俺は古竜を観察にかかり――

 後方から、空気を震わせるような魔力を感じ取った。


「っ!?」


 何事かと思い後ろを見ると、女王の立つ周辺に魔力が滞留していた。


「魔法を使う前段階、というところか」


 俺は呟きつつロシェに視線を送る。彼はこちらを一瞥すると、手で後方を指差した。

 一度戻れ――そういう合図なのだと悟り、俺は馬首を返す。


 直後、古竜の咆哮。間違いなく、女王の魔力に反応している。


「なるほど、餌の意味合いもあるのか」


 どこか納得しつつ、俺は馬を走らせ始める。

 古竜は、自身に一番害意を及ぼす、魔力ある存在を標的にしているはず。そして現在、一番魔力のあるのは、魔法を発動させようとしている女王。ならば、そちらへ攻撃するのが道理。


 古竜の声が耳につき、俺は女王の身を一瞬案じる――しかし、これは紛れもなく作戦の内。なら心配する必要はないと心の中で断じた。

 後方を一度だけ見ると、役目を終えたらしいロシェ達が方向転換をして魔法の準備を行う騎士達の援護に回っていた。この現状で悪魔が来ればかなり危険だが、目に見える範囲でいない上、気配もないので問題ないはず。


「このまま順調にいけば、後は魔法により古竜を――」


 呟いた時、どこからか爆発音が聞こえた。


「何……?」


 慌てて馬上で周囲を見る。騎士達も耳にしたせいか、女王の周辺にいる面々は警戒を始めた。

 一体音はどこから……俺は必死に草原を見回し状況を探る。けれど爆発音に反し、騎士達に問題はない。


 ならば――俺がさらに視線を向けた時、気付く。女王達が古竜を待ち構える後方の森。その一角から煙が上がっている。


「あっちか!」


 間違いなく伏兵だろう。俺は即座に馬を走らせ、女王の下へと近づく。


「セディさん!」


 女王の傍らにいるレナの声。俺は深々と頷きつつ、煙の上がった方向を手で示す。


「どうする!?」

「悪魔もいませんし、ここは問題ありません! 向かってください!」


 女王の声。俺は無言で承諾し森へと馬首を向ける。


「騎士数名は、勇者殿の援護を!」


 さらに女王は朗々と告げた。その助力をありがたく思いつつ――俺はふと、あの煙について思案を巡らせる。


「セディさん?」


 煙を注視し、それによりレナから声が掛かる。けれど俺は答えられない。


 あの煙は――どういう意味なのか。悪魔が奇襲するなら爆発など必要なく、音もなく一気に迫ればいい。女王と森はそう距離が離れていないため、隠密行動ならば奇襲は成功した可能性がある。

 ならば、なぜ――考えたところで、誰かが戦っているのだと悟る。しかし騎士達は全て草原に布陣しており、古竜との戦いに集中している。彼らではない。


 となれば、回答は一つしかない。


「いえ! ここは俺だけで!」


 すかさず進言する。対する女王は眉をひそめ、


「しかし、森の中で悪魔が多数いたら――」

「もし危なそうなら引き返します! それに――」


 言い掛けて、俺は口をつぐんだ。

 思わず言いそうになったから、ではない。わざとつっかえることで、何を意味しているのか無言で訴えようとしたのだ。


 それは見事功を奏し、女王は理解したようではっと瞳の色を変えた。次に森から上がる煙を一瞥。そして、


「……わかりました。騎士は私の護衛に集中させます」

「はい。もし危険があれば、すぐに戻ります」


 俺は答えると即座に馬を走らせた。

 道中には俺を見送る騎士の姿。中には戸惑う人物もいたが、こればかりは俺一人でやらなければならない。


 なぜなら森で戦っているのは、ファールンで間違いないからだ。


「きっと、森で監視していて悪魔の存在に気付いたんだな」


 断定しつつ、俺は森へ急行した。

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