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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編
399/428

魔族討伐

 その日はひとまずラダン側も動き出すことなく、二日目の朝を迎えた。朝食をとって支度をした後、俺はエーレと玉座の間で顔を合わせた。そして彼女は、


「裏切者の詳細がわかった」


 開口一番、俺達にこう告げた。


「よって、まずはここを叩くことにする……攻撃して勇者ラダンにどれだけダメージを与えられるかはわからない。ただ放置しておけば最悪こちら側の情報が漏れる危険性がある」

「よく誰かわかったな」


 俺の言葉にエーレは……なぜか、難しい顔をした。


「そうだな……」

「何でそんな苦い顔をするんだ?」

「いや、情報の出所が……というより、持っていた情報と照らし合わせ、確信に至ったと言うべきか」


 ……これはたぶん、ヴァルターがもたらした情報ってことか。彼女としては不本意……彼の助けは癪だってことなんだろうな。

 別に助けになったのならそれでいいじゃないか……と思った矢先、エーレは俺へ向き直り、


「はっきりと言うが、絶対に頼ってはならないと考えていたくらいだ」

「……何も言っていないぞ」

「顔に書いてある」


 俺が何を言いたいのか予想くらいはできるか……ちなみに仲間達は何のことかわからず頭の上に疑問府を浮かべている。けれどエーレはそのことについて答えを提示することはなく、


「では早速、攻撃を仕掛けたい。セディ、いいか?」

「俺達でやるのか?」

「神魔の力を保有している可能性もある……ラダンからすれば、私達が転移魔法で攻撃を仕掛けてくることはわかっているだろう。よって、セディ達による奇襲を行う」


 手の内がバレている以上、隠し立てする必要性もないってことか。


「裏切者の魔族からすれば、突然勇者に襲われて困惑するだろう。大いなる真実を知っている可能性はあるし、セディが味方にいることも情報として知っていると考えるべきだが……さすがに、突然勇者が転移してくるとは、思いもよらないだろう」

「けどそれ、俺達にとってもリスクはあるよな? 相手は魔族だし」

「できる限りの支援はする。その代わり、短期決戦で頼むぞ」


 無茶言うなあ……と思いつつ、俺は支援について尋ねる。


「具体的にどういう支援が?」

「当該の魔族が住む居城に関する情報。魔族がいる場所近くに転移させるためあまり必要はないかもしれないが……後は、魔族に関する情報を事細かく。とはいえセディはそうした情報をすぐに飲み込んで活用できるタイプではないだろう。これは仲間に伝えておく」

「助かります」


 カレンが述べる。ま、そういう役目はカレンだな。


「ラダンとしては、裏切者を見つけられたにしろ、反撃でこちらの手勢にダメージを負わせる……という期待をしているかもしれない。神魔の力を与えられているのであればなおさらだ。しかし逆にセディで一気に倒す……ラダンが助力できない速度で」

「こっちの力で一気に押し込む、か……かなり危険そうだけど……」

「セディならいける」


 魔族の戦力などを考慮して、エーレは言っているのか……ま、俺はただ戦うしかないし、今は彼女の言動を信じよう。


「わかった」

「頼むぞ……想定外のことが起きる可能性はもちろんあるが、仲間もいる。対応は十分できるはずだ」


 ――そこからカレン達とエーレが情報を基に簡単な打ち合わせをしてから、転移魔法陣のある広間へ移動する。魔族との戦いか……真実を知って以降も魔族と戦ったことはあるが、今回は色んな意味で普通の戦いとは違う。少し緊張するな。


「転移先は魔族がいる広間の手前だ。玉座がありそこで魔物に指示を出している」

「俺達が瞬間的に現われて、奇襲を仕掛けると……広間に転移はできないのか?」

「何かしら邪魔が入っている。ラダンの入れ知恵だろうな」


 そう簡単にはいかないってことか。とはいえ標的の目前に転移できるので十分だ。


「転移したら、可能な限り短時間で決着をつけろ。さすがにその魔族から大いなる真実が漏れるようなことはないだろうが、逃げられたら面倒だ」

「了解」


 返事の後、エーレはカレン達を一瞥。


「そちらに助言はしたが、大丈夫か?」

「はい、いけます」

「ま、頑張るさ」

「今回はカレンが頑張る感じね」


 カレンの明瞭な返事の後、フィンとミリーが相次いで告げる。それを横でレジウスが小さく笑っていると、エーレは手を振った。


「では、始めるぞ……魔族を討伐次第、即座に帰還させる」


 言葉の直後、足下にある魔法陣が光り――目の前に、両開きの大扉があった。

 刹那、カレンは右手をかざすと光弾を放った。それであっさりと扉が破砕され――奥にある広間が見えた。一直線に赤い絨毯が敷かれており、それは人間の王城にある玉座の間を想起させた。


 奥にある玉座に目標の魔族がいる。黒髪を持つ男性魔族で、見た目は……二十歳前後くらいか? 若々しく、新進気鋭の魔族といった風体だ。その周囲には、四肢を持つ悪魔が複数体。護衛のつもりか、それとも報告役なのか。


 状況を見た瞬間、俺達は一気に玉座の間へと踏み込んだ。途端、気付く魔族。一体どういうことなのか――俺達のことを見て驚愕し、周囲にいる悪魔達に対して指示すらできない。

 硬直したままであれば一気に肉薄して倒すのだが……と、ここで魔族が叫んだ。


「こ、殺せ!」


 それだけ。周囲にいる悪魔達はそれに呼応し、一斉に咆哮を上げた。


「兄さんは魔族を!」


 カレンが端的に指示。直後、フィンとレジウス、そしてミリーの三人が速度を上げて俺の前へと出た。

 露払いは仲間達が行う……魔族はここで俺のことを見た。大いなる真実を知っているとしたら、こちらの顔を見てセディ=フェリウスであると理解してもおかしくないが――


「魔王の、手のものか――!!」


 どうやら状況は理解できた様子。さすがに勇者が来るとは想定していなかったようだが……ここで逃げの一手に出られたら面倒なのだが、


「ちっ!」


 舌打ちと共に、魔族は右手を振った。それはおそらく退却するための所作。まずいと判断し――何より魔王に裏切者であると知れ渡った以上、ここにいることはできない、という判断か。

 その決断は間違いなく正しい。こうなればラダンの所に身を寄せるか、それとも誰も知らない場所へ――そんな考えを胸に抱いたはずだ。


 だが刹那、魔族の表情が引きつる……それだけで俺はどういうことなのか克明に理解した。


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