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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編
393/428

悩む魔王

 エーレから話を聞いてからおよそ五日後、事態は大きく動くことになり、俺とクロエは再び玉座の間を訪れる。また今回は俺の仲間達も帯同した。


「神魔の力を保有する個体が、出現した」


 エーレからそのような報告を受ける。どうやらお出ましのようだ。


「とはいえ、勇者ラダンが保有するような強固な特性を持っているわけではない……が、通常の魔物よりも遙かに強い個体だ。ただ神魔の力さえあれば、容易に迎撃はできる」

「数は?」


 クロエが問う。そこでエーレは腕を組み、


「各国に数体……その程度の数ではあるが、魔物の特性から放置しておけば甚大な被害が出る危険性もある。ただ数が少ないため、セディやクロエの力を借りなくとも対処はできる場所は多い」

「魔物についてだけど、神魔の力以外の攻撃を全て無効化するというわけではないのね?」

「ああ、そうだ。国軍が動けば駆除できるし、現段階ではそのようにして欲しいと私は通達している」


 まだ俺達が動くべきではないと……しかしエーレは、


「だが中には、出現した場所によって対処することができない個体もいる。よってその場所に赴いて、セディ達は魔物を倒して欲しい」

「勇者ラダンについてはどうするんだ?」

「兆候が現われた時点で、色々と対策は行った……それで、だ。セディとクロエには多少強引ではあるが、転移を用いて各地に転戦して欲しい」


 この魔王城に存在する魔法陣を使って、か。まあ大陸西部全体で魔物が出現している以上は、そのような形になることは目に見えていたのだが、


「魔物を倒したら即座にここへ帰還。倒したら帰還。その繰り返しだ」

「俺達が転戦するのに良いとは思うし、移動の必要性がないから体力的にもいいけど、そんなことを繰り返すとことによって問題とか生じないのか?」

「魔法陣を酷使することによって、こちらは経済的に痛手が生まれる」


 エーレが述べる……経済的?


「転移はタダでできるわけではないのだ。指定されたポイントであれば、費用はほぼゼロだが、それ以外の場所ならば魔石などを消費する必要性が出てくる」

「……勇者ラダンはそれに気付いているのか?」

「どうだろうな。わかることは、神魔の力を持つ魔物によりこちらがどのように対処するか……もしかするとそれを見極めたいのかもしれない」


 つまり、まだラダンはこちらの出方を窺っている、と。


「そこで、だ。今回はセディとその仲間に動いてもらう」

「クロエの存在は伏せておく、と」

「ああ。ラダンとしては他に神魔の力を持つ者がいないかを確かめたいだろう。それを隠して、切り札として抱えておく」

「光栄ね」


 クロエはやる気を見せる。つまり彼女が動く時、いよいよ本番ということだ。


「相手の出方を考えれば、こちらの手の内をできる限り明かさないようにしておく……情報戦というわけだ」

「俺の方は仕事が多くなりそうだな」


 こちらの言及にエーレは頷き、


「そうだな……さて、セディとその仲間達。これから色々と動き回ることになる。覚悟はいいか?」


 俺が頷くと、合わせて仲間達を頷く。エーレもまた納得したように頷き、


「では、明日動くことにする。その間に、こちらも色々と準備を行うため、もう一日だけ体を休めてくれ」


 指示の後、俺達は解散。しかし、


「セディだけは残ってくれないか」

「ああ、いいけど……勇者ラダン絡みか?」

「いや、少し違う」


 仲間やクロエが離れていく。それを見送った後に、エーレは口を開いた。


「さっきも言った通り、セディが率先して動くことになる。よって、転移を繰り返すことになるが」

「俺や仲間については心配いらないさ。転戦した経験だっていくらでもあるからさ」

「そうか……仲間達が疲労した場合は、こちらで対処する。何か問題があれば言ってくれ」

「わかった……で、俺を残したのはそれを言うためか?」

「それもあるが、これを渡しておこうかと思って」


 差し出されたのはリストバンドのようなもの。革製で、手に取っても魔力を感じない。


「これは?」

「言わば外部のセンサーみたいなものだ。あなたの周辺の魔力をサーチして、この城へ記録する。もし近くに勇者ラダンが現われれば、すぐに対応できるように」

「ああ、なるほど……それ、別に仲間達がいる時に渡しても良かったのでは?」

「……勘づかれる可能性もあったからな。卑怯なやり方だとは思うのだが」


 卑怯? 首を傾げるとエーレは説明する。


「理屈としては、勇者ラダンがどのように動くかわからないため、セディの周辺で生じた異変をすぐさまキャッチできるようにする……というわけだが、本質的にはセディを囮に使っている面もある」

「ああ、なるほど。こんな道具を渡している以上、勇者ラダンが俺に近づいてくるとエーレ達は予想している……俺が囮になっているのでは、と考えているわけだ」

「そうだ」

「その辺りのことだって、別に仲間に話しても良いとは思うけど」

「あなたとしては、私と対等な関係を築けていると認識しているため、問題ないと考えているわけだ。けれど、仲間達はどうか? 囮役として使われているというのは、面白い顔をしないのではないか?」


 うーん、どうかなあ……俺は仲間達にエーレへ弟子入りした以降のことを全て話したし、その中には囮役以上のことだってやっていたはずだ。

 警戒する必要性はどこにもない……と言いたいところなのだけれど、今回の相手は勇者ラダン。万が一警戒されて不信感をもたれたら、ってことかな?


「……私としても、囮役という意味合いの方が強いと思っている」


 ここでエーレは包み隠さず俺へ述べる。


「勇者ラダンが大陸をつぶさに観察しているのならば、絶対にセディのことを捕捉して行動を起こすに違いない。それをわかっている上で、道具を渡して行動させているわけだ。安全策をとるなら、もっと良い手法があるはずだ」

「でも、多少のリスクをとってでも勇者ラダンに先んじる……ということが必要だと考えたわけだ」


 俺の指摘にエーレは首肯。ふむ、難しい話ではあるな。

 見方によっては、エーレが懸念する通りに俺が上手く使われているような感じで、仲間達にとって面白くないかもしれない。話すべきかどうか……熟慮した上で、こういう形にした。


 エーレは色々と悩んでいるわけだ……ということで、俺は彼女へ口を開いた。


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