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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編
390/428

女勇者の決意

 食事の後、俺とクロエは腹ごなしに剣を振る。まあそんなに気合いを入れて動くわけではないのだが、少しずつ彼女の動きが激しくなる。

 真剣を用いているので当たれば大けがをする可能性はある。だから結構力を入れているわけだが……クロエの大剣を紙一重でかわす。彼女としても本気というわけではないだろうけど、その動きは目を見張るものがある。


「一つ、いい?」


 剣を交わす間に、クロエがこちらへ問い掛けてくる。


「セディは勇者として活動していて……自分自身が勇者の中で最も強いと考えたことはある?」

「最強、ということか? いや、さすがにそんなこと思いもしなかったけど」


 返答した直後、クロエの剣が間近に迫る。それをしっかり受け止めた後、両腕に魔力を込めて押し返す。


「それに、俺は人間と戦うなんてことは少なかったからな……魔族に操られていた人間と戦うケースはあったけど」

「勇者と戦った経験はないと」

「数えるほどしかないな……ただ、勇者ラダンの技法をコピーしたように、俺は人間相手なら技術を奪うことができる……それを用いれば、どんなに強くても互角に渡り合うことはできたと思う」

「技術を真似て、動きを解析して、か」

「といってもそれが決定打になるかは疑問だけどさ。真似ただけでは応用も効かないし、相手が驚いている間に手傷を負わせるとかしないと、基本的には不利になる。で、そうした技法を俺が使う相手ってことは、そもそも技量が俺よりも上ということだ。なんとか頭を使わないと勝てない……厳しいのは確かだな」

「勇者ラダンから神魔の力を用いた技法をセディは手に入れたわけだけど、他にも奪える可能性があると?」

「そうだな。でも、ラダンだってこちらの手の内はわかっているわけだから、切り札があるにしても勝負が決まるギリギリまで隠しておくと思うぞ」


 俺の技法……他者の技法を真似るというのは、基本的に相手にそういう能力があると看破されたなら終わりだ。神魔の力のように重要な能力を奪えるわけだが、それをどう使うかは俺の頭次第というわけで、相手としてはこちらが思いも寄らない戦い方を見せれば、虚を衝かれて負ける可能性もある。

 だからまあ、俺としては動揺する間に決着をつけるか、あるいは持久戦に持ち込んで体力勝負にするか……正直、勇者ラダンと戦った時は有効だったが基本的にはその場しのぎの技法だと思っている。


 そして俺にそんな能力があると知られれば、奥の手なんかは隠しておくだろう……神魔の力を奪うとはいえ、こちらの手の内を勇者ラダンには見せてしまっている。そういう意味で、もし一騎打ちをする場合は不利になるだろうか。


「なるほど……でも、どんなに強くても抗えるだけの技法があると」

「逆転勝利するためのものじゃなくて、泥仕合にするための技かな……剣術を極めた勇者なら、よりスマートに戦うのかもしれないが」

「なんというか、セディがそんなタイプにも見えるけど」

「俺が? まさか」


 剣を構えながら肩をすくめる。


「魔族を倒し続け、一応勇者と呼ばれる身だけど……結局のところ、俺は泥臭く戦ってきただけだ。後は、そうだな……とにもかくにも運かな」

「強運ってことかしら?」

「悪運って言い換えるべきだと思うぞ。色んな人に迷惑を掛けているからな」


 正直、いつ死んだっておかしくはなかった……そこでクロエは、


「勇者なんて称号を携えて戦っている以上は、死の危険がつきまとうけど……」

「俺は結構考える先に足が出るタイプだからなあ」

「なるほど、ね」

「……聞きたいんだが、唐突にそんな話をしてどうしたんだ?」

「いえ、他ならぬセディが勇者という称号をどう考えているのか……それと、自分の立場がどの辺りなのだと考え、どう分析しているのか聞きたかっただけ」

「そういうクロエはどうなんだ?」

「私? 私は、そうね……最強とまではいかないけど、実績もあるし自分はかなり強いと思っていた。他の人と比べても功績はあったし、何より魔族を倒していたわけだし。その結果、魔王城を見て暴走してしまったわけだけど」

「今振り返れば、暴走という言葉になるわけだ」

「頭に血が上っていたのは間違いないわね」


 互いに笑う。なんというか、彼女も今になって冷静に考えているわけだ


「……この魔王城が人間に対し優しくなければ、私の旅はあそこで終わっていたわね。ニコラも故郷ではなく、あの場所で倒れ伏していた」

「……クロエ」


 感傷的になっているのかと問い掛けようとした矢先、彼女は構えていた大剣を下ろした。


「ニコラのことを、もう一度考えてみた……今私がやっていることは、肯定してくれると思う。それと同時に、勇者ラダンのことは否定するでしょう。ニコラはそういう考えを持つ人間だから」

「……彼女のために、戦うってことか?」

「そういう意味合いもあるってこと。勇者ラダンのやり方はニコラだって否定するはずだから……あと、なんとなくこの場所にニコラがいたら、と思ってしまうけれど……それはきっと、考えることが無意味なのかな。たぶんだけど、ニコラが生きていたら私はこの場所に立ってはいない」


 断言だった。エーレとかはニコラを含めてどう引き入れるかを考えていたはずだが……。


「魔王城に辿り着いたからの出来事……あの道筋があったから、私はここに立っていると思う。だから、勇者ラダンの所業は……私やニコラのことだって否定することに繋がる」

「世界管理に身を投じるから、だな」

「そう……まだ魔王には伝えていないけど、セディには言っておくわ。私はこの世界管理に、尽くそうと思っている。セディの考えに同意するし、また同時に私も成し遂げたいと思っている」


 ――それはきっと、勇者クロエの答えなのだろう。


「勇者として、私はラダンの所業を否定する」

「わかった……俺はエーレにそれを言うことはない。改めて、クロエから直接言ってあげてくれ。きっと嬉しがると思う」

「わかったわ……なんだか奇妙ね。魔王に喜ばれるというのは」

「俺も最初戸惑ったけど、少しずつ慣れていくさ……クロエ、改めてだが……よろしく」

「ええ、こちらこそ」


 笑みを浮かべるクロエ。きっと、答えを出すまで悩み続けたのだろう。けれど、今の彼女は……それこそ、一点の曇りがない、晴れやかな笑みを見せていた。


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