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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
世界覚醒編
389/428

力の破壊

 勇者ラダンの活動……それは魔族や神族の期限ともなった『原初の力』を利用し、この世界に新たな秩序を生み出すこと……彼自身大いなる真実を知り、この世界の成り立ちが悪しきものだと考え、ならば自らの手で、と考えるに至った。

 それに対し一度彼と顔を合わせた俺は、対決することを選択した。彼が生み出す秩序。それはまさしく、世界を管理する魔王や主神を支持する俺の考えとは相反するものだ。だからこそ俺は勇者ラダンを討つことを決めた。


 『原初の力』については、勇者ラダンにしかありかがわからない。けれど魔王や主神は世界中に監視の目を向け、ラダンが動けばすぐに対応できるような形にしている。だからこそ、次に勇者ラダンがどう動くのか……そこから戦いが始まることになる。

 そして『原初の力』を得るには条件がいる。それは力によって人間を超越した存在となった――神と魔王の起源とも言うべき存在が作り上げた、大きな鍵。神と魔。この二つの力を持っていなければ、開けることはできない。


 なおかつそれは、二人以上が必要となる……結果、勇者ラダンはその力――神魔の力を手に入れ『原初の力』へと繋がる扉を開けることができる人間を戦乱の中で探した。けれど、その中で明確に力を得たのは……俺。そして俺と共に勇者として大いなる真実を知り、この枠組みで仕事をしようとしている勇者クロエ。

 どちらもラダンと対決する姿勢を見せたことによって、彼は目論見を打破する存在を生み出してしまった……けれど彼は、まだ『原初の力』のありかを知っているため、優位と考えているかもしれない。ただ彼自身、まだパートナーを見つけていない様子。よって、彼を出し抜くことができれば、俺達が先に『原初の力』へと繋がる扉をくぐり、破壊することができるかもしれない――


「問題は、破壊できるかどうかよね」


 昼下がり、魔王城の食堂で昼食をとっていると、クロエが対面に座ってきて話を始めた。彼女自身、勇者ラダンのことは説明を聞いているが途中から入ってきたので、多少混乱している様子だった。だから俺が簡潔に説明したのだが……それで、先ほどの言葉が返ってきた。


「私達は『原初の力』を破壊し、勇者ラダンの目論見を防ぐことを第一目標としているけれど、本当に破壊ができるのか」

「確かにそこは懸念ではあるけど……扉を開けることは避け、勇者ラダンの確保を優先すべきなのかもしれないな」


 とはいえ『原初の力』が眠る聖域と呼べる場所がどうなっているのか、俺達にはわからない。だからまあ、ここは臨機応変に動かなければならないってことなんだと思うけど。


「力そのものを破壊……か」


 クロエは自分の目の前にあるスープをスプーンでかき回しながら呟く。


「たぶんだけど『原初の力』を得た神と魔王の始祖……彼らについても、その二つを融合した力を所持する存在、なんて想定はしていないと思う」

「そうだな……二つの力がいるというのは、おそらく互いがその力を独断で使わないように枷をはめたんだと思う。ただ結果として、後世において二人以上に扉を開くためには条件が必要になってしまった」

「たぶん彼ら……兄弟、だっけ? そこも二人は想定していなかったでしょうね」

「たぶんな。彼らは直に『原初の力』に触れ、さらに自らの意志で条件を作ったことで、侵入することができた。けれど今の世界において、条件を満たす人間はいない」

「というか、二人は誰かに使われることは想定していない」

「だからこそ封印だな……もしかすると兄弟は、破壊しようにもできなかったのかもしれない。あるいは、破壊することで逆に世界に対し何かしらデメリットが生じると気付いたか」

「私達は『原初の力』について、知らないことが多すぎるわね」

「そこは問題だけど、情報を漁るにしてもとっかかりがないからな」


 そもそも勇者ラダンだってかなりマニアックな情報を基にして『原初の力』へと辿り着いた。加え、魔王や神々については『原初の力』を用いた後の存在であるため、兄弟が故意に情報を残していなければ両種族から情報を手に入れることは厳しいだろう。


「可能性として考えられるのは、人間の国……それも、相当古い国だ」

「けど、大陸の東側の国は建国したのが魔王や神々がいる時代だし、大陸西部には伝承レベルだけど魔王や神のいない時から存在している……みたいな国もあったけど、今は滅びている」

「滅びたなら情報を得るのは難しいな……ラダンだって偶然見つけたのだろうし」


 勇者ラダンとしては、ここが大きなアドバンテージとなっている。俺達は扉を開ける資格を有しているのは間違いない。けれど、それをすることでどうなるかわからないため、リスクが存在する。

 ある種、ラダンとの心理的な駆け引きの部分でもある。彼は自らの手駒で扉を開ける人間を用意できなくてもいい。破壊目的で俺達が扉を開けた際、そこへ飛び込めば目的を成してしまうなんて可能性もあるわけだ。


「難しいな……クロエ自身はどう思ってる?」

「私? そうね、破壊できると断定できるまでは、放置しておく方が無難だと思うけれど。ほら、ラダンを捕まえたら、そこから情報を得ることができるでしょう?」

「ラダンを倒すのと『原初の力』を破壊するのは同時進行じゃなくてもいいからな……破壊することのリスクなどを勘案して、実行に移すべきなのかを考える、か」


 判断についてはエーレや主神デュガに任せればいいか。二人ならばこの世界のことを考えて動いてくれるだろうし、力を得るべく動くとかはないはずだ。


「なら俺達は、勇者ラダンとの戦いに備えて鍛錬だな」

「そういうことね……それじゃあセディ、付き合ってくれる?」

「ああ」


 魔王城内にいて、来たるべき決戦に備え英気を養っているわけだが、そろそろ体を戦闘モードに切り替えなければならない。

 勘を戻すのに、目の前の相手は不足なし……。


「お手柔らかに頼むよ」

「こっちのセリフよ。二人してヒートアップし、怪我とかしたらシャレにならないし」

「……この戦いが終わったら、一度本格的に決闘でもするか?」

「どちらが上か? 面白いわね」


 彼女はまんざらでもない様子。好戦的だな、と思いながら俺はクロエと共に食堂を後にした。


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