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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編
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遭遇と情報

 手記を受け取り、俺は城を出て……少しばかり、勇者ラダンに思いを馳せることにした。

 主神デュガにも言ったが、俺だって勇者ラダンのようになってしまう可能性は存在していた。そこは間違いなく運であり、俺は色々な人達に支えられた結果、今のような境遇がある。


 勇者ラダンだって、俺と同じようになっていたかもしれなかった……この事実はきっと、世界を管理していく上で重要なことなのだろう。俺は最初、エーレに秘密にしておくのではまずいと語った。言わば世界を管理していく上での歪みと呼べる部分……それがまさしく、勇者ラダンだ。

 伝説的な存在であり、そうした人物が妄執の果てに見つけ出した、世界の真相……『原初の力』を手にしてどのような世界にするのかは定かではないが、現状の世界管理とは逸脱したものになるのは間違いないだろう。だからこそ、止めなければならない。


 俺自身、ラダンについてはどうすべきなのか悩んでいた部分があったかもしれない。最後の最後で斬ることをもしかしたら躊躇ったかもしれない。けれど、その考えは今払拭された。歪みの中に生じた異形であろうとも、この世界の秩序を壊そうとしているのならば……俺は魔王や主神から認められた存在である以上、止める義務がある。今の世界管理をよくしていくために、彼の凶行を絶対に止めなければならない。


 そう心の中で呟いた後に俺は今度こそ帰ろうと足を動かし始めた……のだが、ふいに視線を感じ取った。ただそれは敵意のあるものではなく、どうやら見知った人物がいるからこちらへ注目しているといった感じだ。

 ここに滞在していた期間も長かったし、知り合いだっている。そうした存在か……と思いつつ周囲を見回すと、外套のフードをすっぽり被った長身の人間が近づいてくる。体格からして男性だろうか?


 少なくとも殺気とかはないので声を掛けてくるだけだと思うのだが……と立ち止まって様子を窺い、その人物の顔が見えた時、俺はなぜか脱力した。


「よ、久しぶりだな」


 ……相手は、エーレやシアナの父親である前魔王ヴァルターであった。なぜこんなところにいるのかとか、俺がどうしてここにいると知っていたのかとか、尋ねたいことは山ほどあったのに、先に脱力感を抱いたのは出会いからしてかなり面倒な事態になったからだろうか。


「む、そんな顔をしないでくれよ。一応、重要な情報を持ってきたんだぞ」

「……なぜ、俺がここにいると?」

「そこは偶然だよ。ジクレイト王国周辺で少し情報集めをして、これからどうするか……と思っていた時に、一人で来ているのを見て話し掛けたわけだ」

「情報集め……勇者ラダンのことか?」

「そうだ。とはいえ、この辺りにヤツがいるという話じゃない。勇者ラダンのことを知る手がかりがあるって聞いたからな」

「……これのことか?」


 俺は手記を取り出して見せてみる。すると、


「それは?」

「勇者ラダンの仲間であった人物の手記だ」

「あー、それで間違いなさそうだな。ということはもう俺は必要ないな」

「ずいぶんさっぱりとしているな……」


 俺の言及にヴァルターはニヤリとして、


「情報が手に入れば何でもいいさ……さて、それ以外の情報を伝えておくとしようか。こちらの方が重要だから、エーレに話しておいてくれ」

「直接言えばいいじゃないか」


 と、言及すると彼は、


「はっはっはっ。そんなことをしようものなら処刑されるに決まっているだろうが」

「……一体、どんなことをすればそこまで転落するんだ?」


 疑問をぶつけてみるとヴァルターは笑みを絶やすことなく、


「聞きたいか?」

「……いや、魔族のイメージがさらに崩れそうだからやめておく」

「そうか。ま、別に俺は話しても……いや、何かの拍子にセディからエーレやシアナへ情報が漏れたら、勇者ラダンを倒した後に滅するべく大部隊が派遣されるな。やめておこう」

「そういう言及をされる度に気になるんだけど……」


 でもまあ、訊かない方が身のためという気もしてきたので、尋ねるような気は失せた。


「それで、情報とは? ただ話す以上はヴァルターの名前を出すし、聞く耳持ってくれるかどうかわからないぞ」

「そこは心配ない。勇者ラダンの情報だからな。いくらエーレでもさすがに聞いてくれるだろ」


 変な信用の仕方をしているが……ラダンについて?


「何がある?」

「警告だ。ラダンは動き出す……それも、近い内に」


 断言だった。どういうことなのかと問い掛ける前に、ヴァルターは説明を施す。


「ラダンと仲違いして以降も、俺は彼と関わる存在と接触していた。俺であることがバレないように変装とかもして、な。さすがにラダンと直接顔を合わせることはできなかったし、居所をつかむことはできなかったが、ラダンが信頼においている部下からまだ動いていないという情報は得ていた」

「それは俺達のことを警戒するためか?」

「まさしく。俺がセディとラダンを引き合わせたことで状況が大きく動き出した……神魔の力が魔王や主神に知られたことで、彼も相応の対策を講じる必要性があった。それに加えてラダンが目を掛けていた人物達がやられていく……彼としても窮地だったわけだ」


 俺達の行動により身動きが取れなくなっていたのは間違いないらしい。これについては作戦勝ちか。


「けれど、その膠着状態も終わる……ラダンは仲間内にも『原初の力』について明かしていないが、次の騒動をきっかけにして移動を行うようだ」

「まだ力を手に入れる条件は揃っていないのでは?」

「何かしら打開する方策があるんだろ。というかこちらの動きに合わせて、対応をしたか」


 それは一体……疑問に思いながらも俺は頷き、


「わかった。それほど経たない内に決戦ということだな?」

「ああ。だから準備はしっかりと……たぶん大陸西部で騒動が起こると思う。もっとも『原初の力』の場所がどこにあるのか不明であるため、ラダンが大陸のどこにいるのかは不明だ。そこは魔族と神族が連携して捕捉、だな」

「わかった」


 俺の返事を聞いてヴァルターは踵を返す。


「よし、伝えたいことは以上だ。帰るとしよう」

「帰る? どこへ?」

「現在の拠点だ。ここにいたらいずれ刺客が送られてくるからな。さっさと逃げるに限る」


 ツッコミを入れようかと思った矢先、彼の姿が消えた。それに俺は小さく息をついた後、


「……戻るか」


 呟き、帰るために足を動かし始めた。


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