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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編
385/428

人を救う勇者

 話が一段落したところで、俺は帰ろうかと席を立とうとした……のだが、


「待って、勇者セディ」


 女王アスリ自らが俺を引き留めた。


「あなたに渡したい物があるの」

「え?」

「最初は魔王エーレに託そうかと考えたけれど……今の話を聞いて、あなたの方が適任だと思って」


 一体何を……沈黙していると女王は「少し待っていて」と告げた後、席を立ち部屋を出た。

 渡す物を取りに行っているようなのだが……それからしばし。やがて女王が戻ってくると、一冊の本を持っていた。


「これを」


 差し出された物は、表紙に何も描かれていない……日記のような物だろうか?


「これは一体?」

「とある男性の手記……これをあなたがどうするかについては、あなたの判断に委ねるわ」

「手記……ですか。それってもしや――」

「これは、ジクレイト王国の書庫に存在していた物。なぜこのような物が存在していたのかは正直言ってわからないけれど、推測はできる」


 俺は手記をめくってみる。そこには魔物と戦っていることがしかと記されていた。その中に、ラダンの名前もある。


「誰が書いたのかは名前が登場しないので、わからない。表紙にそれらしい表記もないけれど……ここに登場する勇者の仲間の名前には、憶えがあるのではないかしら?」

「……はい、そうですね」


 勇者ラダンの活躍を記した小説を読んでいた俺なら知っている。ラダンと共にいた仲間達。それがこの手記にはっきりと綴られていた。

 これはどうやら、勇者ラダンの仲間の手記……ここで問題としては、なぜ手記が――


「この手記がなぜジクレイト王国に……と思うところだけれど、おそらくこれは魔王側か神側か……たぶん、その辺りの影響だと思うの」

「魔王や神?」

「勇者ラダンが大いなる真実を知り、魔王や神は多少なりとも対策を余儀なくされた。結局彼は記憶を消されることなく動いていたわけだけれど……もしかすると彼に関する情報を得ようとして、この手記を得たのかもしれない」

「ラダン自身に手を伸ばすのではなく、仲間達から調べたということですか?」

「あるいは、勇者ラダンの人となりを知るために、ということなのかも。どちらにせよ日記を国へ提供するなんてことはしないだろうから、おそらく奪ったのでしょうけれど」


 そこは強引だな……俺は中身を確認する。そこに、勇者ラダンに関する言及があった。


『また魔物を討伐することに成功した。ラダンのことは日に日に知名度が上がっていく。共に戦っている私達もまた同じだ。仲間の中には彼をリーダーとして大規模な戦士団を作ろうと考えている者もいるみたいだが、他ならぬ彼が反対した。自分に多くの人間をとりまとめるだけの力はないと。私自身はそう思わないのだが、彼はそのように考えている』


 徐々に膨れあがっていく名声。ラダンの仲間はその辺りのことについて、困惑しながらも受け入れている様子があった。


「手記の後ろの方になると、勇者ラダンが豹変した事実が書かれている。大いなる真実を知ったことによるものだと思うけれど」


 俺は該当のページまで手記をめくる。そこで、


『明らかにラダンの様子がおかしくなった。魔物の討伐などについては励んでいるが、その動きがずいぶんとぎこちない。仲間の誰かが注意したのだが、それでも彼は緊張したままだ』


 勇者ラダンによれば、大いなる真実を知って、天使が記憶を消しに来た。けれど魔法の道具を用いて再び記憶を頭の中に入れた……以降は、天使や魔族に記憶を保有しているとバレないように立ち回っていたはず。ただ、仲間達からすれば、その様子はおかしかった、ということだろうか?


『私はその様子を見て、意を決して相談した。何か問題があるのであれば、言ってくれと。そこでラダンはゆっくりと話し始めた。体が少しずつ動かなくなっている。いずれ、自分に限界が訪れ、今のような活動はできなくなると』


 ――おそらくこれは、嘘なのだろう。確かラダンは大いなる真実を知ってから『原初の力』を発見するまでに、調べ物をしたはず。


『そして、彼は仲間に勇者としての活動をやめると言い渡した。誰にも相談しないままに発したその言葉になぜ相談してくれなかったのかと憤慨した者達もいた。けれど、最終的には悲しみに包まれた。こうして名残惜しくもあったが、私達はバラバラになった』


 その筆跡は、なんだか悲しそうなもの。ラダン自身が戦えなくなっても、色々とやりようはあったのではないか……そんな悔しさを滲ませるものだった。


『一人で旅を始め一年ほど経過した。そのタイミングで彼の住む場所を訪れた。そこに、大量の書物があった。動かなくなった体で何か調べ物をしている。けれど、彼は何をしているのか答えようとしなかった。むしろ来訪した私を疎んじるような視線を向けてきた』


 一体何が……疑問を抱きながら次の手記を読む。


『彼の部屋で地図を見つけた。どうやらそこに何かがある……彼が調べている内容は、秘匿している部分が多すぎて判断ができない。けれど、どうやらそこに何かがある。ラダンはどうやら近日中にそこへ向かうらしい。私自身同行しようかと提案しようとしたが、おそらく彼は拒否するだろう。誰にも見つからないように……そんな気配が見て取れた。しかし、私としても半ば暴走している彼を見過ごせない。妄執に囚われているかのような彼の態度……だから、私は密かに彼を追うことにする。もし何か成そうとしているのなら……それが悪しきことなのだとしたら、止めなければならない』


 手記はそれが最後だった。続きがないということはおそらく、これを最後に彼は亡くなってしまったのだろう。


「……地図があれば良かったのだけれど、さすがにそれは見つからなかった」


 アスリは語る。俺はその言葉に小さく頷き、


「彼としても、覗き見るのが限界だったということなのでしょう……ともかく、おそらくラダンは仲間をどうにかして『原初の力』を得ようとした。それで間違いなさそうです」

「仲間を……殺めたのかしら?」

「わかりません。けれどもしそうであれば……」


 俺は、はっきりと女王に告げる。


「彼はもう、勇者じゃない。仲間を捨て、力におぼれる……大いなる真実に立ち向かおうとした答えなのかもしれないけれど、仲間を殺めたのならば、人を救う勇者じゃない」


 否定する……同時に、俺は是が非でも勇者ラダンを止めなければと、強く思った。


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