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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編
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さよならの時

 ――その後、俺達は一度城へと戻ることになった……エブンは俺の斬撃によって消滅し、塵すら残らなかったので、これ以上語ることはなくなってしまった。

 ただ、一つ……俺の評価が相当上がったらしい。デュガやアミリースが苦戦する相手に立ち向かい、あまつさえデュガの援護もあったが倒してしまった。その一事で俺に対する見解が変わったとのことだった。


 あの戦いの光景はどちらかというとデュガ達では対処仕切れない相手を俺が倒したみたいな感じだったので、それはそれでよからぬ噂でも立ってしまうのではないか……などと思ったのだが、そこはデュガ達が上手くやってくれたらしい。

 エブンは「神々に対する防御能力」を保有していたとして、あの場は俺達に任せるのが適任だった、ということにした。まあ実際神魔の力はそれに近い内容だし、筋の通った説明としては納得のいくものだろう。


 よって、城内にいる間に天使達の視線が気になりつつも……ようやく、魔王城へ帰る日がやって来た。


「思った以上に長居させてしまって申し訳なかったな」


 俺達は玉座の間で会話を行う。最後の見送りという形なのだが、最初に訪れた時と同様にデュガとアミリース以外に神族はいない。


「だが、今回発生した一連の事件で神族同士の戦いには一区切りついたと言っていい」

「……他に反乱分子はいないんですか?」


 カレンからの質問。そこでデュガは、


「いないとは言わないが、あれほど規模が大きい組織はない。加え最大の懸念は勇者ラダンと通じていて神魔の力を保有していたこと……その障害さえなければ、反乱分子がいたとしても何とでもなる」

「確かに……そうですね」

「よって、神界における問題は一蹴された……勇者ラダンと繋がっている勢力はもう他にいないだろう。もし残っているとしても、エブンのような存在がいないかを見極めるために私達は動くことができるようになった。ラダン側としては神界で悪さをすることは難しいはずだ」


 ひとまず、神界側からこちらの情報が漏れたりする危険性はなくなった、と。


「情報源を断ったのは大きな進歩だが、これはあくまで防御的な一手だ。まだラダンは潜伏しているが、いつまでもというのは難しいはず。捜索範囲を広げるなどして対応はしているが尻尾はつかんでいない」

「よっぽど隠れ方が巧妙ってことだよな……」


 フィンが呟くように声を発する。神魔の力を利用すれば不可能ではないと思う。まだ解明されていない部分も多いため、神族や魔族も探索するのが難しいはずだし。


「ここについてはひたすら単調な作業の繰り返しだし、私達が受け持つ部分だ。では、次の話。魔王エーレがいい加減勇者達を戻せと騒ぎ出した」

「期間長かったからな……」

「とはいえ怒っているわけではない。それに、緊急事態に陥ったわけでもない。滞在している時間が長かったので、彼女としては現状の報告を受けたかったのだろう。こちらが説明すると納得した。ただ、勇者ラダン絡みのことについては伏せていたので、事情を話せと釘を刺されたが」

「まあ……当然だと思うぞ」


 俺の言葉にデュガは笑う――その表情はなんだか、忌憚なく話せる人間が増えて、嬉しそうな感じだった。


「では、これにて神界の見学は終了だ。事件解決まで本当にご苦労だった。何かあれば私達はすぐに駆けつける。遠慮無く言ってくれ」

「ありがとう……ただ、そういう風に頼りにするようなことにならないよう祈っているよ」


 デュガは俺の言葉に笑い……玉座の間を出た。アミリースの案内によって、神界へ出るために歩き始める。


「アミリースはどうするんだ?」

「私は魔界まで赴いてエーレに顛末を直接説明するわ。とりあえず大きな事件が一段落したし、勇者ラダンは手駒を失った……動きが鈍ると思うから、少しくらいはゆっくりできるかもしれないわね」

「だったら管理について勉強した方がいいのかな……とはいっても、具体的にどうするとかは何も決めていないけど」


 アミリースはそこで俺へ向け笑みを浮かべた。向上心があって良い、ってことかな?


「当面こちらは神界にこもって集中しないといけないだろうから、後のことはエーレに任せてあるわ。あ、でも勇者ラダンとの決戦になったらすぐに向かうから」

「そこは心配していないよ……あ、ただ一つだけ」

「どうしたのかしら?」

「カレン達のことだ。今回援護とかしてもらったけど、やっぱりというかなんというか……装備もそのままだし、ラダンとの戦いになったら少し不安な面もあるかなー、と」


 本当はこれ、最初に言っておくべきことだったんだけど……神界を訪れたことで舞い上がってしまい、この手の話題がすっ飛んでしまったらしい。


「あ、そこについてはエーレが準備をしているはずよ」

「エーレが?」

「仕事をする以上は、相応の装備が必要でしょ、ということでシアナが色々と研究を」

「魔王達から武具を提供される日が来るとは思わなかったわ」


 ミリーが思わず呟いた。確かに、無茶苦茶な話だよな。


「ふふ、神魔の力についても考慮に入れて作成しているそうだから、期待してもらっていいと思うわよ……後は、そうね。何か質問はあるかしら?」

「では、私から一つだけ」


 カレンが小さく手を挙げた。


「勇者ラダンとの戦いが終わったら……同じように仕事をするんですよね?」

「エーレがそう判断したのだから、私達もそれに準ずる形よ」

「場合によってはこちらで仕事をする可能性も?」

「あり得るわね。あなた達は信用できそうだし、仕事の内容をそれぞれ勉強してもらうのも良いかもしれないわね」

「勉強かあ……」


 フィンがぼやく。勉強、というフレーズそのものに嫌な感覚を抱いているようだ。

 わからなくもないけどな……と、俺はフィンへ告げる。


「俺と一緒に仕事をする以上は、覚悟を決めてくれ。ただ、勉強といっても机に向かってという話じゃない。学ぶことも楽しいさ」

「それなら良いんだけどな……ま、わからないことだらけで楽しみもゼロってわけじゃない。セディ先輩がそう語っていることだし、ここはおとなしく受け入れることにするか」


 冗談めいた口調に全員が笑う……神界の最後は、ずいぶんと朗らかに迎えることとなった。


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