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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編
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神魔の一閃

 刃が漆黒の体躯へ入った瞬間、確かに手応えを感じた……のだが、仕留めるには足りていないと悟る。反撃が来るか……と思ったがエブンは金切り声を上げると大きく後退した。

 追撃するかどうか判断に迷うところだったのだが、俺は立ち止まる選択をした。予感があったのだ。こちらが好機だと判断して攻め寄せれば、手痛い反撃が待っているだろうと。


「……賢明な判断だ」


 と、俺の予感に同調するようにデュガが言った。


「魔力を体の内に収束させていた。あのまま突っ込めば、魔法が来ていただろう」

「さすがに避けることはできなかっただろうな」

「気付いていたのか?」

「直感だよ」


 答えながらデュガは目を丸くする。


「なるほど、感覚的なものか……そういう判断で戦術を決定するのは危険だと語る者もいるが、私はそう思わない」

「……仲間でも無茶だと止められるようなことがあるんだけどな」

「そういう状況に幾度となく遭遇し、助かっているのだろう? なら君は、手に入れている……敵が何をしてくるのか、判断できる力を」


 力、と表現するには弱い気もするけど……エブンが吠える。魔力を拡散させ、俺達を威嚇する。

 ダメージはしっかりと残っていることが魔力を探ればすぐにわかる。だがそれでもなお、エブンはこの場における主神を倒すだけの力を持っているだろう。神魔の力……これは野放しにしておくことはできないな。


「……もし」


 俺はエブンを見据えながらデュガへ問い掛ける。


「俺達が来なかったらどうしていたんだ?」

「淡々と戦っていた。それだけだ。手痛い反撃を食らって負傷してしまったが、エブンの動きは予想の範疇を超えていなかった。おそらく持久戦にシフトして魔力切れを狙っていた」

「……あいつは暴走状態に近いし、それが最善手か」

「神魔の力を用いている以上、こちらは致命的な傷を負わせることは難しいからな……ただその場合、犠牲者が出ていた可能性は高い」


 周囲にいる天使達。あるいは、


「私か、それともアミリースか……死ぬまではいかないにしても、大怪我は十分あり得た。死ぬ可能性は……低いとは思うが、どれだけ慎重になってもゼロにはならないな」

「そっか……でも、俺が立ってもそれは同じじゃないか?」

「少なくとも君を守りながら死なないよう立ち回りはできる……やりやすくなったと言うべきか。あと、確実なのは……周囲に犠牲者が出ることはおそらくないこと」


 刹那、エブンが駆ける。先ほどデュガへ接近した技法だが、既に魔力などを発してそういう行動が来ることを予測していた俺とデュガは、即座に対応した。

 動きは速く、常人なら目で捉えるだけで精一杯のはず。だが俺は対応できる。動きは直情的で、エブンは腕を振り上げ放とうとしていた。


 しかし予測できていれば――俺はエブンの攻撃に対し、神魔の力を収束させた剣で対抗した。刃と腕が激突し、魔力が周囲に弾け飛ぶ。旋風が生じて周囲の天使達を動揺させる。

 だが……俺は耐えきった。そればかりではなく俺の剣がエブンの腕に入り込んでいる。このまま勢いよく振り抜けば、腕を両断できる。


 だが、それよりも先にエブンは退いた。俺の攻撃を受けて一方的な展開になっている……そのことに対し、戸惑っているような雰囲気もあった。


「……彼は神魔の力について、わかっていない」


 そうデュガは俺へ語る。


「同じ力でも、本質的に理解しているかそうではないかで、ずいぶんと差が出るものだ……加え、天使であることも関係している」

「その二つによって、俺の方が上回っていると」

「そうだ……加え、エブンにはもう一つ問題がある」


 ピシリ、とエブンの体から乾いた音が聞こえた。見れば右腕に細かいヒビが。


「どうやら彼は、能力を使う度に体を破壊する……神魔の力は普通に考えれば神々と魔族の両方の力を行使している。つまり」

「魔族の力を使っていることで、反発していると」

「そうだ。我々の成り立ちを考慮しても、神魔の力は本来あり得ない融合……その片方の力を所持している天使が持つのは、厳しかったというわけだ」


 エブンはさらに吠える。おそらく体が壊れているのは自覚しているはずだ。だが、それでも――


「短時間行使するくらいなら問題はない。使えば体に変調あるいは違和感くらいは生じていただろうが……今はこれだけ暴走した上で発動し続けている。体が限界を迎えて当然だ。持久戦を行う場合でも、これはあまり想定していなかった。反発することは考慮に入れていたが、甘い予測で死にたくはなかったため、作戦上考えないことにしていた」

「このまま交戦していれば、俺達は勝てる……けど」

「引導は、渡すべきか」


 デュガは呟く。このまま自壊するのを待つのではなく、自分達の手で決着を付ける……それが正しい筋書きのように思えた。


「やるなら付き合う」

「助かる。それでは次の衝突で――終わりにしよう」


 エブンが迫る。ヒビの入った腕を振り上げ、渾身の一撃を見舞おうとする。

 それは完全に自分の力を無視したものだった。おそらくエブン自身も暴走している中で長くはないと悟っている。いや、意図的に神魔の力を使用し、これがどういうものなのか、おおよそでも理解したのかもしれない。ともかく、長くないと悟った。


 ならば、せめて俺やデュガを道ずれに……もはや魔力収束もままならないほどの規模が右腕に集まった。それを薙ぐのではなく、叩きつける勢いで――エブンは振り下ろした。

 それに対し俺は神魔の力を全力で発揮。同時、デュガや近くにいたアミリースが光を放った。なおかつカレン達も……全員が一丸となって迎え撃つ。


 その時、少しばかり予想外のことが起こった。俺の剣がそれらの力と混ざり合い……一つになろうとする。もした神魔の力は、他の魔力を取り込む性質がある?

 疑問はあったが、俺は好機だと判断して押し通す。主神や仲間達が放った力が渦を巻くように俺の剣へ収束し――神魔の力を強化して、エブンの腕と激突する。


 仲間達の魔法により動きを鈍らせていた腕。それに刃が触れた瞬間――紙でも斬るかのように抵抗なく、真っ二つにできた。そして勢いを維持しながら振り抜き……エブンの体を両断した。


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