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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編

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真実を知る勇者として

 話も一段落して、俺自身尋ねたいことも聞けたので部屋に戻ろうかと思った……その時、ノックの音が。

 私室に来訪者か……アミリースが扉に近寄って応対。どうやら警備などを担当する天使のようだが、


「……デュガ」


 アミリースは何か報告を受けて扉を閉めると、主神の名を呼んだ。


「少しばかり、面倒が起こったようね」

「何があった?」

「エブン=ジェロクアが脱走したと」


 その言葉にデュガは目を細めた。


「脱走だと? 誰かが手引きしたか?」

「彼を支持する者から……あるいは、組織の構成員が残っていたか」

「居場所はわかるのか?」

「魔力探知は継続しているから、追うことはできるけれど」

「わかった。ならばすぐに捕縛しよう」


 デュガは行動を開始。俺はどうすべきかと思い尋ねようとした矢先、


「勇者セディは城にいてくれ」


 機先を制するように、デュガは俺へ言った。


「脱走についてはこちらの不手際だ。組織を打倒するために手を貸してもらったが、ここから先は私達の問題だ」

「そうね。心配しないで」

「神魔の力を持っている相手だ。何をするかわからない以上は俺も出るべきじゃないか?」


 提言したのだが……それでもデュガは首を左右に振る。


「大丈夫。色々と拘束魔法も施してあるからな……それは解除されていないのだろう?」

「ええ。身一つで逃げているし、魔力探知も継続している以上はこちらの魔法は効いている」

「なら問題はない。すぐに向かおう」

「私も行くわ」


 ――そういうわけで、俺は部屋を出て二人と別れる。廊下を歩んでいく姿は今までにないほど緊張しているように見えた。


「……予定外ってことだもんな」


 エブンを拘束する牢屋だって相当厳重だったはずだ。それをあっさり脱走されてしまったのだから、デュガの顔が険しくなるのは納得がいく。魔法がまだ効いているらしいけど、神魔の力はまだ保有している……やっぱり、手伝った方が良いのではないだろうか?


「うーん……でも、迷惑だよな?」


 そう思いながら部屋へ戻る。すると廊下にカレン達が立って話をしていた。


「あ、兄さん。戻ってきましたか」

「ああ。どうしたんだ?」

「なんだか城内がバタバタしている様子です。何かあったのでしょうか?」


 ――そこで俺は手短に理由を説明。すると、


「あの天使が……それはまずいかもしれませんね」

「アミリース達は大丈夫だと言っていたけど……変に出しゃばるのもまずいよな」

「行きたい、って顔をしているわね」


 ミリーが告げる。俺は素直に首肯して、


「神魔の力が絡んでいるから、抵抗されれば主神が傷を負う可能性もありそうだし……さすがに滅びるなんてことにはならないだろうけど」

「そうとも言い切れないんじゃないか?」


 と、俺の言葉を否定したのはフィンだった。


「そうなる結末はゼロじゃないだろ?」

「……根拠があるのか?」

「いや、一切ない。ないけどさ、神魔の力が異質なのはわかる。魔王や主神が完璧に解明できていない力だ。反抗される可能性は十分あるって話だ」


 ……勇者ラダンがもたらした、異様な魔力。しかも神魔の力は特性上、魔王や神々には扱えない。

 だからこそラダンは目をつけたし、人間が魔王や神を超えるための力だと位置づけている……うん、まだまだ未解明だからこそ、それを手にしたエブンがどうなるのかも予想がつかない。


 しかし、俺は……どうすべきか決めあぐねていると今度はミリーが、


「いつもの調子はどうしたの?」

「……いつもの?」

「前のセディなら……私達と一緒に旅をしていたセディなら、脇目も振らず首を突っ込んでいたはずよね? それとも、主神が相手だから怖じ気づいたのかしら?」

「それは……」


 大いなる真実を知り、教えてもらう立場となって俺は幾ばくか自重するようにもなった……と思う。確かに以前の俺なら……魔王に挑んでいた時の俺なら、問答無用で走っていたことだろう。


「その時の無謀さを思い出せって言っているわけじゃないの。セディは今、どうすべきか迷っているのよね? なら、自分がどうしたいのか……それを信じて突き進めって言っているのよ」

「信じて……か」

「嫌な予感がするんでしょう? 神魔の力……まだまだ得体の知れない力だからこそ、自分が動きべきかもしれないと考えている。けれど神々に迷惑を掛けるかもしれない……両天秤ってわけだけど、私はセディの思うようにしたら良いと思う」

「それは……」

「それこそ、対等の関係ってことじゃない?」


 対等の……ミリーの言いたいことはわかった。


 エーレもデュガもアミリースも、俺が教えを請う立場であるにも関わらず、対等な目線で接してくれている。

 つまり戦闘面とか、普通ならば人間が劣っている部分でも、自分の意思で……対等な立場として、考えろと言っているわけだ。


「もちろん、セディが責任を負える立場じゃないのはわかってる」


 そうしてミリーはさらに俺へと告げる。


「私達と一緒にいた頃のセディは、責任を全て背負っていたからこそできた……でもさ、セディ。今のセディは自分で考え、動くべき立場でもあるとは思う」

「……俺が動いた事による不利益は、誰が責任とるんだ?」

「それはもちろん、皆だよ。大いなる真実を知った人達……魔王や神々。もちろん、私達も」


 ……まったく、良い話のように聞こえて、結局は丸投げする気満々なのが笑えてくる。

 だが、ミリーの言うことも一理ある。今回の戦いは絶対に負けられないし、なおかつ魔王や神々でも手に負えない力が存在している。なら、リスクを背負ってでも……対抗できる力があるのなら、やるべきだろうとは思う。


「……怒られるとしたら、一蓮托生だぞ」


 俺の言葉にミリーは笑う。さらにフィンも頷き、カレンは微笑を浮かべた。


「そうだね。後ろの方で怒られるセディを笑って上げる」

「お前……まあいいさ。ミリーの言葉で踏ん切りはついた」


 そして俺は仲間へ告げる。


「デュガ達へ加勢しにいく……全員、ついてきてくれ」

「はい」

「出番があるかどうかわからないけど」

「それでもセディが行くんだ。ついていこうじゃないか」


 仲間達は相次いで表明し、俺達は走り出す。まずは城の外へ。そこから先は、魔力を辿ればすぐに見つけられるだろう――


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