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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編
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執政を担う者

 建物の近くに戻ってきた時、既に戦いは終わっていた。デュガとアミリースが外に出ており、俺達を見つけて手を振った。


「そっちはどうだ? 交戦したようだが」

「気絶させて拘束しておきましたけど……」

「そうか。なら部下に命じて回収しておこう」


 即座に近くにいた天使へ指示を送る。次いで、


「しかし、思わぬ存在が寝返っていたものだな」

「……ん? それは建物の中の敵がですか?」

「違う。君達が戦った者だ」


 もしかして、結構名の知れた存在だったのか?


「名はエブン=ジェロクア。神族の中にも一応血統を誇るような存在がいてだな……ジェロクア家は代々執政に携わってきた存在だ」

「……そんな家系って、本来なら大いなる真実に関わっていてしかるべきなのでは?」


 俺のもっともな疑問に対しデュガは肩をすくめた。


「管理の世界が始まり、運営を行う際に省かれた……らしい。どうやらその当時、信用に置けなかったようだ」

「執政に触れているのに?」

「後ろ暗い噂でもあったのではないか? 人間の政治と同じく、神族の政治だって真っ白というわけではない。時には危ない橋を渡ることだってあるのだが……言わばジェロクア家はそういう部分に触れすぎた。神族の暗部とでも言うべき家系だな」


 なんというか、神々や天使のイメージとはかけ離れた存在だな。


「そういう家系だからか、結果的に管理の世界とは無縁だった……まあ、決して冷遇していたわけじゃない。実際に重要な仕事を任せているし、この一族の働きは長年神界を支えてきたという経験もあって安定している……だが、最後の最後まで大いなる真実を伝えることはできなかった……それについては、悔しい気持ちもある」


 おそらくデュガもジェロクア家を管理の世界に組み入れたかったのだろう。だからこそ、苦々しい表情をしている。けれど、調査をしてそれは無理だと判断した。神界の暗部に触れているから……というのも理由の一つにはなるだろうけど、おそらく大きな理由は俺達に見せた態度だ。自分達は神々を支えてきたという自負がある。だからこそ、人間達を見下していた。

 大いなる真実を知って価値観が激変したとしても、数多の存在を下に見るということは、おそらく直らないだろう……それはジェロクア家にとって悪癖と呼んでもよいものだったかもしれない。結果的に別の形で真実を知って反旗を翻すことになったし。


「……ジェロクア家はどうなるんですか?」

「正直、無傷というわけにはいかないな。エブンは現在の当主でもあるため、責任はとってもらわなければならない」

「しかしそれは、会議に参加していた者達全員ですよね?」


 疑問はカレンからのものだった。デュガは「当然」と応じた後、


「そうだな……この一件を機に下手すれば神界が大きく変わるかもしれない。それが良いことなのかどうかは今のところわからないが」

「良いものにしなければいけないわね」


 アミリースの言葉。デュガは「そうだな」と重々しく頷いた。


「さて、仕事はこれで終了だ。城へ戻って休むことにしよう。後の作業は部下達が行うため、勇者セディ達も戻って問題ない。私達と共に帰るとしよう」

「そうですね」

「ねえ、ちなみにだけど」


 ふいにアミリースが俺へと尋ねる。


「エブンと戦ってどうだった?」

「……相手は俺が神魔の力を使えるにしても、油断しきっていた。俺は単にそこに狙いを定めて戦っただけ。もし全力だったらどうなっていたか」

「慢心というわけか。エブンはどうやら大きな病に蝕まれていたようね」

「病?」

「神族に存在する特有の病気よ。名前はないけれど……全ての生物の頂点に立つ存在だという自負。それは普段良い効果をもたらすものだけど、同時に傲慢さが現われてしまう」


 まさしく、俺がエブンと戦っていた時に考えていたことだった。


「執政を担当していたにしろ、戦闘能力は決して低くはなかった。神族全体において高い位置にいたと言ってもいい。けれど、神魔の力を用いてなおセディに勝てなかったのは……やっぱり、彼の油断が関係しているし、苦戦しようともその態度は崩さなかったでしょう」

「それは正解だ」

「だからこそ、私達は苦労している……大いなる真実を伝えることを」


 ――なるほど。これは神族特有の問題なのか。


 魔族側の問題点は多数見てきたけれど、神族側は表面上何も問題はないように見えていた。けれど実際は違う。今回噴出した裏切り者達のように、いつ何時現状が覆されてもおかしうはないし、また同時に大いなる真実を伝えるべきかどうか、非常に難しい判断に迫られる。

 デュガやアミリースも、きっと現状が続けばいつか壊れてしまうのではないかと懸念を抱いている。魔族側が魔王が消えれば成り立たなくなってしまうように……神界側もまた一枚岩でないため、砂上の楼閣なのだ。


「……やっぱり、管理する世界というのは、秘密にしていては駄目なんだろうな」


 そんな呟きが俺の口から漏れた。聞こえていたようでデュガやアミリースは一瞬視線をこちらへ向けた。


「決して、優しい道ではない」


 デュガが俺へ、返答を行う。


「だが、この世界のためを思うのであれば、やはり絶対的な存在がいなければ成り立たない今のやり方はまずいだろうな」

「……一つ、お伺いしたいのですが、俺が現われず、このまま魔族と神々の間で管理を行っていたら、どうなっていたと思いますか?」

「隠し通せるだけの制度構築はできている。だからまあ、このまま何事もなく運営していける……と思っていた。しかしそうはならないな」

「何故ですか?」

「勇者ラダンの存在だ。実際、私達は目の当たりにしている」


 ここでデュガは天を仰いだ。


「結局のところ、私達はエブンのことを言えないのだ。なぜなら勇者ラダンが保有していた情報を何一つ把握していなかったのだから。おそらく勇者セディがいなければ神魔の力に抵抗できず、敗北に喫していただろう」


 ……ラダンのことや『原初の力』を重く見ているか。まあ、これは当然と言えるのか。


「今回は問題なく対処できた。しかし、油断はいけない。もし敵に次の一手があるのなら、敗北するのはこちらの方かもしれないのだ」

「気を緩めるのは、もっと先ね。勇者ラダンを倒してから」


 アミリースが告げる。その言葉はラダンと決着がつくまで戦い続ける。それをしっかりと表していた。


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