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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
国家潜入編
37/428

討伐方法

「……では」


 レナがいなくなり俺と二人きりになった直後、女王は声を発し右手をかざす。


「セディ様。こちらに回って下さい」

「はい」


 ガージェンと連絡を取り合う魔法具を使うのだろう――思いながら女王の近くに赴く。

 次に女王の正面に円形の光が生まれ、やがてそれが像を成す。


 見えたのは城内の一室。最初誰もいなかったのだが、少しすると靴音がしてローブ姿のシアナが現れた。


「シアナ、お疲れ様」

『セディ様も、お疲れ様です』


 互いに言葉を交わした後、女王が口を開いた。


「シアナ様、まずはこちらの状況をお伝えします」


 前置きをして簡単にシアナへ説明し――終えた後、彼女へ尋ねた。


「そちらの状況はどうなっていますか?」

『魔物は出現しました。以前話した特殊な魔物となります』

「被害の方は?」

『ゼロです。ただ、女王の部屋近くへ進むみたいですね。今日見つけたのは一匹だけで、それは倒しました』

「ふむ……」


 女王は何事か考え始める。けれどその間にもシアナは続ける。


『魔物が出現するという事例から、敵はまだ城内にいるという見方もできます。しかし魔物はあくまで魔法陣の魔力によって生み出されているため、予め仕掛けておけば生み出すことは可能でしょう』

「私もそう思います」


 女王が同意。双方の間で結論が出たようだ。


「ここからは推測となりますが……もし魔法書を盗むのが目的ならば、敵は二通りの可能性を考えているはず。一つ目の方法は部屋に忍び込み盗み出す」


 言いつつ、女王は懐から何かを取り出す――それは、金色の鍵。


「部屋は施錠の上結界を使っているので、入り込むには二つを破壊する以外にない。けれどそんなことをすれば誰かが気付く。そうなれば城内の者達が大騒ぎするはずで、魔法陣なども見つかり犯人がたちまち露見してしまうでしょう。ただその過程で大いなる真実が露見する可能性を考慮に入れれば、私達としては望まない展開です」

『私は破壊されるのを防ぐということでよろしいのでしょうか?』

「その方針でお願いします。ちなみにですが、魔法陣のある場所等は把握していますか?」

『日中歩いていて、何箇所かは見つけました』

「それを破壊すると敵が別な反応をする恐れもあるので、今のところは発生した魔物だけ倒すようにお願いします」

『わかりました』


 シアナは了承。女王は続いてもう一つの可能性を語り始める。


「そしてもう一つ……こちらはもっとシンプルで、私を殺して鍵を奪う。奪い取った後ほとぼりが冷めるまでどこかに隠しておき、誰にも見つからないタイミングで魔法書を奪う。露見する可能性も低く、敵もこちらを望んでいるはず。そして、私の命そのものを奪うことが目的の場合は、それほど深く考えなくてもいいでしょう」


 女王は言葉を切ると、一度目を瞑り僅かに思案した後、口を開く。


「魔物の件ですが……これは城内でしかあの魔物を生み出せないと仮定するのが一番納得できるでしょう。技術的に難しいとシアナ様から窺っているので、城の魔力を使って生み出しているのかもしれません」

『そうだと思います。しかし現存する魔物を生み出す能力を持っているのは……』

「ああいった特殊な魔物を扱うノウハウがある以上、むしろ当然のことでしょう。ここでの問題は、果たして敵が城か野営地、どちらにいるかということです」


 敵が――俺は内心同意しつつ、女王の言葉に耳を傾ける。


「個人的には、こちらにいる方が有力だと思います」

『となると、騎士団の中に裏切り者が?』

「はい」


 シアナの問いに女王はにべもなく頷いた。


「その中でロシェに話したのは、呼び水とするためです。もし裏切り者がいれば、何かしら行動を起こしてもおかしくない。魔物の襲来は、その一端かもしれません。今後、より注意していきます」

『では、城にいる場合は?』

「騎士団に怪しい者がいないと確定したならば、対応を行います」


 それが無難か――胸中で再度同意した時、シアナが進言した。


『女王、もし確定したならばご一報ください。私が捕まえます』

「シアナ様、それは――」

『大いなる真実に関わる部分ですし、何より私も協力者ですから』


 彼女はにこりと微笑む。女王はその気に当てられたか、驚いた表情を示した後頷いた。


「……わかりました。気を付けてください」

『はい』

「お願いします」


 女王は告げると、魔法を介助した。


「……さて」


 彼女は小さく呟くと、俺に向き直る。


「ここからが正念場となります。セディ様、よろしくお願いします」

「わかりました」


 答えた時――突如、天幕の外から声がした。


「女王!」


 声の主は見えなかったが、それがケビンの声であると俺は認識した。


「入りなさい」


 女王が応じ、天幕が開かれ彼が現れる。俺は邪魔にならないよう横に一歩移動しつつ、事の推移を見守る。


「どうしましたか?」

「ご提案が」


 ケビンは女王から多少距離を取りつつ跪いて話し始める。


「敵は魔物を城内以外でも使役できる様子……ロシェとも相談しましたが、やはり護衛がセディ殿とレナだけでは不安です」

「二人では力不足だと?」

「そうは言っておりません。ただ二人では対応しきれぬ部分もあるでしょう」


 ――彼の言うことは一理ある。護衛というのは当然人数が多ければ楽になるのは確か。

 けれど、女王は難色を示した。


「事情はケビンも理解しているはずです。隙を見せるのは非常に危険。私の命を狙っているのかわかりませんが……鍵を奪われる可能性も、出さない方が良い」


 女王の口上にケビンは何か反論したい様子だったが――やがて全てを押し殺し、頭を垂れた。


「出過ぎた真似、申し訳ありません」

「いえ、あなたが万全を期するよう行動するのは理解できます。セディ様とレナの二人で内側は守ります。あなたはロシェと共に、外を守ってください」

「はっ!」


 彼は指示を受けると素早く立ち上がり、メリハリのついた動作で天幕の外へ出て行った。


「……良かったんですか?」


 俺は確認のために問い掛ける。すると、


「誰が味方であるかわからない以上、こうするしかありません」


 女王はどこか沈鬱な面持ちで返答した。

 態度から理解できたのは、女王がロシェやケビンにも疑いをかけているということ。隙を見せないというのは、そういう意味合いからきているようだ。


「討伐まで、気を緩めるべきではありませんね」


 改めて女王が言う。俺は同調の意思を示すため首肯しつつも、どこか辛そうな女王の姿を、しかと目に焼き付けた。






 ――以降の行軍は、襲撃も無く行われることになった。二日目に入り朝と昼は何事もなく進み続け、やがて空が茜色になる。

 敵の正体は不明だが、俺の戦いを見て魔物をけしかけるのは無意味だと判断したのかもしれない。


「セディさん、討伐時の説明をしましょうか」


 ふいに、横で馬を進めるレナが言う。俺は耳を傾け、言葉を待つ。


「本来は、古竜を狭い洞窟の中で迎え撃つのが定石です。狭い場所で結界を張りつつ古竜の体力を削っていく。これなら確実に被害が出ません。実際、そのやり方で過去古竜を追い返している実績もあります」


 レナはそこまで語ると、少しばかり不安げな表情を浮かべる。


「ただ今回、報告によると外に出たり入ったりしているそうです。もし外部に出ていれば、こちらの混乱は必至。犠牲者を生む可能性がある」


 レナは語りながら視線を真正面に向ける。そこには、女王の馬車。


「前回は洞窟内の戦いを想定していましたが、外にいる状態で遭遇し、古竜が暴れ回った結果犠牲者が出てしまいました。なので、今回はその辺りの対策を厳重に行っています」

「例えば?」

「まず少数精鋭で戦うこと。前回は兵士も多く従軍していましたが、いたずらに混乱を生むだけでした。却って人数を減らすことで、古竜が内外どちらにいても即対応できるようにしています」


 レナは一度言葉を切り、今度は周囲にいる騎士達をぐるりと見回す。


「そして聖騎士団は元々守護を目的とした部隊……全員が結界などの魔法を習得しており、いざという時に自衛できます」

「生存率が高くなるわけだな」

「はい。そして今回の作戦上、リスクはありますが野戦である方が古竜を滅する可能性が高いかもしれません」


 そう語った彼女は、やや顔を険しくしながら続ける。


「外で戦う場合、まずは古竜の動きを封じ込める。その方策として、女王が使用する結界を使います」

「女王の、結界?」

「はい。女王の魔法の中には、騎士達との連携によって発動する魔法があります。これは魔法具によるもので、前代の女王から引き継がれている物。騎士達の魔力を予め封じ込めておくことで、その騎士と魔力の共有が可能となるのです」

「ああ、なるほど」


 解説に俺はどういう作戦なのか理解し、言葉を紡ぐ。


「つまり騎士団が古竜を取り囲むように動き、女王がその魔法を使用して、大規模な結界を構築。古竜を封じようというわけだな」

「はい、そうです……しかし取り囲む時点で犠牲者が出るかもしれない。だから女王としては洞窟での戦いを望んでいるはず。しかし倒せる公算は高い……理由は、女王の持つ切り札です」

「切り札?」

「これも女王の魔法ですが、拘束する間に騎士と大地から魔力を汲み取り、大魔法を生み出す……野戦の時だけ使用できる魔法であり、古竜を倒せるはずです。もし倒せなくとも、虫の息となるでしょう」

「なるほど、な」


 俺は彼女の説明を受け、頭の中で思案する。古竜を倒せるような手持ちの攻撃は、騎士団にもほとんど存在しないだろう。なら野戦の場合、女王の魔法が犠牲者をゼロにできる唯一の手立て――この点を女王が考慮したため、討伐に赴いているのかもしれない。


 で、最大の問題は俺はどう動くべきなのか。フォローに入るべきなのか。

 どうするべきなのか思考しようとして……これはシチュエーションによって変わってしまうのでどうとも言えないのが実情。例えば騎士がやられてしまい、俺が結界維持のフォローに回る――という場合もあるだろう。


 そこでふと、俺は古竜を討てるかどうか検証にかかる。手持ちの武器――女神にまつわる武具は魔王を倒せる力を秘めている以上、可能であるような気もする。

 とはいえ魔王と古竜では力の成り立ちが違うので、断定的なことは言えない。けれど、少なくとも古竜を牽き付け時間を稼ぐことくらいはできるだろう。


 それに、俺が古竜を倒してしまうとなると、一つ大きな問題が生じる――


「セディさん」


 ――俺の思考に気付いたのか、レナが改めて口を開く。


「セディさんは基本、女王の護衛に集中すれば良いかと思います」

「直接古竜と戦わなくてもいいと?」

「作戦中予定外の事象が起きれば仕方ありませんが」


 彼女の表情からは、聖騎士団に確固たる信用を置いている風に見える。


「確かに古竜相手に苦戦は免れないでしょうけれど、聖騎士団はそうやられる面々ではありません」


 強い口調で話すレナ――俺は「わかった」と頷いた。


「なら俺は女王の護衛に専念するよ……指示があれば別だけど」

「きっと女王もそのようにおっしゃられると思いますし、大丈夫です」


 彼女が俺にそう告げた――直後、どこからか獣の鳴き声が聞こえた。


「……ん?」


 周囲に目を向ける。騎士達も気付いたようで、馬上から空を見上げるように首を動かしていた。


「今のって、もしかして……」

「古竜、ですね」


 レナが断定する。


「行軍は明日まで続きますが、明日の朝の時点で目的地には到着します。今日は古竜の活動範囲からやや遠くに野営を張る予定ですが……距離的にそう遠くありませんから」

「そうなのか……」


 いよいよ決戦は近い――俺は気を引き締め一度深呼吸をした。


「勇者殿」


 そんな俺に、傍らから声。目を向けると緊張を帯びた騎士が一人、眼差しを向けていた。


「どうしました?」

「ご依頼したいことが……女王も了承済みだそうですが」

「依頼、ですか」


 女王の許可ありならば、ということで承諾の意を示す。


「わかりました。何をすれば?」

「はい。実は――」


 騎士が説明したのは、避難誘導の協力をしてくれということだった。

 これから明日に備え野営に入る。けれど夜の間に、古竜の住処に近い場所の住人を避難させる必要があり、騎士数人が野営地へ入る前に向かうらしい。


「昨夜の戦いぶりを拝見し、こちらが陛下に協力を願い出たのですが」

「俺の協力が欲しいと?」

「はい。勇者殿のご助力があれば避難誘導に集中できるので、短時間で終わらせられるはずです」


 ふむ、そういうことか。俺なら単独で魔物と戦えるわけだし、一理ある。


「……一応確認ですが、女王はなんと?」

「村の方々の避難を優先してもらいたいと」


 俺の協力が必要、と言いたいのだろう。


「わかりました……で、レナ」

「はい。見張りは任せて下さい」

「頼んだよ。それで、俺はどうすればいいですか?」

「今から隊を離れ行動を開始します。場所は私が案内致します」

「はい、わかりました」


 了承し、騎士が手綱を操作し列から離れ始める。俺は一度レナへ視線を送り、彼女が小さく頷くのを見て、移動を開始した。

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