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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編
367/428

彼女の忠告

「私は、兄さんがこうだと思い行動している以上、それに従うつもりでいます」


 カレンは俺へそう語る。


「もちろん私自身、これでいいのか判断をした上で、ですが」

「間違っていたら遠慮無く言ってくれ。ただまあ、この状況下で正解も不正解もわからないと思うけど」

「そうですね」


 苦笑するカレン。神界のベンチであれこれ喋っている状況だが、これで合っているとか違っているとか、考えるのが馬鹿らしくなってくるな。


「兄さん、ミリーさんやフィンさんにも同じ問い掛けをするでしょう?」


 そして俺がやろうとしていたことを予見するようにカレンは語る。まあ、予想できるよな。


「二人とも、兄さんに従うつもりでしょうし、何より判断は間違っていないと答えるでしょうけれど」

「そうだとしても、聞いておかないといけないさ。これは……大いなる真実に関わることだ。エーレもアミリースも、必死に活動している。俺は今勉強中だし、余計な負担を掛けさせないように配慮はしているのかもしれないけど……覚悟くらいは、示さないと申し訳ないから」

「なるほど……そうですね。私も、もし問われても明確に答えられるようにしておきます」

「ああ、それがいい……それじゃあ、ミリー達の所へ行くか」


 ここで俺とカレンは一度部屋へ戻る。そこで偶然ミリーと出くわした。


「お、ミリー……フィンは?」

「女神様に目をつけられて色々案内受けているわよ」

「目をつけられて?」

「興味のある場所があったらしいのよ。女神様も暇みたいだったし、それで一緒に行こうかとなって、私の方は辞退したの」

「そうなのか……まあアミリースがいるのなら心配ないか。ミリー、今から時間はあるか?」

「ええ、いいけど」


 ――そういうわけでカレンと別れ、俺の部屋でお茶でも飲みながらミリーへカレンと同じ質問をぶつけてみる。すると、


「感想ねえ……まあ砂漠にあった遺跡の段階で、なんというか……この世界は複雑怪奇だなと思っていたし、それがさらに複雑になった、ってところかな」

「思考をまとめるので精一杯だと」

「そんなところ。はっきり言って無茶苦茶よね……でもまあ、こうすることで人間を守っていると考えれば、否定なんかできないわね」


 ミリーはそう述べる。彼女の言う通り、魔王や神々の行動は人間を守っている、と言える。


「ただ、半ば騙すようなやり方で……というのは、納得いかない人だって現われるはず。だからこそ、人間でも王様とか極一部の人にしかこの真実を伝えていないのもわかる」

「不満か?」

「まさか。セディの言うとおり、これが完全無欠の正解と言えるかどうかはわからない……けど、これが現状の最善なのは理解できる。ただ問題は、この最善から一歩も進んでいないこと、よね?」

「そうだな」


 俺は小さく頷いた。魔王や神々の活動は秩序の維持に貢献しているのは間違いないが、そこから先……言ってみれば改革するとか、変革するとかそういう方向にはない。


「セディとしては自分が変化の呼び水になれば……って思っているってことかもしれないけど」

「そこまで大層な感じではないけどな。俺としては最初のきっかけくらいのつもりでエーレに弟子入りを志願したわけで」

「魔王に弟子入りするなんて相当無茶よね」

「……彼女の人となりを知ったが故の結論だったが」


 そこでミリーは沈黙する。どうしたんだ? と思いながら俺はお茶を一口飲んで、


「――魔王エーレのことをどう思ってるの?」


 ぷっ、と思わずお茶を噴き出した。服にかからなかったのでよしとして、


「……それ、どういう意味だ?」

「噴き出したってことは予想できるわよね? そういう意味よ」

「俺としては魔王エーレは、師匠みたいな位置づけだからな」


 そういえばシアナについては何も伝えていない……バタバタしていたから仕方がないにしても、それが知れ渡ると面倒なことになるか。

 けどまあ、こうして魔王とかと組んで仕事をすればいずれバレるか……変に隠し立てしていると面倒事になりそうだけど……とりあえず黙っておくか。


「ふうん、そう……ならそうね、妹さんだっけ? 彼女については?」


 しかしミリーはそこについて言及してきた。これはさすがに誤魔化すのはまずそうだな。

 というわけでシアナについて現状を説明してみると……なんというか、呆れた顔をされた。


「別に仕事にかこつけて、とか立場を利用してとかそういう感じではないみたいだけど……なんというか、外堀が埋められている感じねえ」

「なんだか楽しそうだな」

「そう?」


 にこやかに――俺は深いため息をつく。


「俺としては、きちんと仕事を理解できるまでは何事もなければと思ってるんだけど……色々な意味で立場を明確にしてしまったら、余計な軋轢が生じるだろ?」

「確かに、今セディがこうして上手に立ち回れているのは、魔王に属さず神々に属さず……と、人間としての立場を崩していないから。仮にシアナさんに接近してしまったら魔王側の影響が濃くなってしまう。だから避けるべきだと?」

「シアナも神界に出入りしているくらいだから、問題は無いと思うけどな……けど、管理の世界に人間がこういう形で入るのは初めてみたいだし、余計な厄介事はできる限り背負うべきじゃないだろ」

「それじゃあ」


 と、ミリーはニッコリと笑みを浮かべ、


「その辺りのことが落ち着いたら、結論を出すのね?」

「え……? あ、まあ確かにそうかもしれないけど。どのくらい時間が掛かるのかわからないぞ?」

「そうかな?」


 何だ? どうもミリーはそれほど時間は掛からないと考えているみたいだけど。


「ま、セディとしてはゆっくり結論を……と思っている雰囲気だけど、気をつけた方がいいわよ。もしかすると、予想よりも早く決断しなければいけないかもしれないから」

「何でミリーが悟った風に語るんだ?」

「それは当然」


 と、ミリーは前置きをして、


「セディがこんな立場に置かれているのは一度や二度じゃないから。これまではどうにか引き延ばしてきたけど、いよいよ進退窮まる状況になるでしょうね。覚悟しておきなさいよ」


 なんだか怖いことを言う。そして当の俺は困惑したままなのだが……生むも言わせぬその雰囲気に気圧され、俺はただ頷くことしかできなかった。


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