神魔の一撃
一瞬の内に神魔の力が俺の全身を駆け巡る。こちらが何をしようとしているのかデュガもこれで認識できたはずだが……ここからは時間との勝負だ。
彼自身、神魔の力については完全に理解できているわけではない。よって、対応する前に押し切れば――という目論見が俺の中にあった。成功するのか微妙ではあったが、タイミング的はギリギリ。これで届かなければ、俺の負けだ。
デュガは、それに対し槍を構えて対応した。どうやら真正面から迎え撃つようだ。こちらの動きを捉えているためなのか、それとも何か他に――だが、こっちとしては選択肢がない。よって、さらに力を高めデュガへと迫る。
それは……まるで嵐のような魔力だった。俺としては体の奥底から力を引き出しただけ。主神が相手であるため、全力で力を発揮した結果。
この行動により、俺は神魔の力を引き出す際に無意識の内に力を抑えていたことがわかった。勢いというのもあって俺は主神に挑んでいるわけだが、自分でも信じられないくらいに力を出している。それは下手すれば攻撃が終わった後に倒れ込んでしまうのでは、と思ってしまうくらいのもの。ただ逆に言えば全力ならば、瞬間的にこれだけの力を出すことができる……この事実を知れたことは何よりも大きい。
もしや主神はこうなると予想していた……? と思ったが、その疑問を押し殺して俺は前に出る。放たれた剣が槍と噛み合う。その瞬間、俺は抜けると直感した。
罠が来ようとも、神魔の力を全身にまとった俺ならば対処できる。そう考えた俺は、さらに攻め立てる。もしここでデュガが後退して距離を置くような選択をとったのなら、俺に追撃できる余裕はなく勝負が決まる。けれど主神はそうしなかった。いや、それはもしかするとできなかったのかもしれない。
俺の猛攻が功を奏して、回避不能の状況に繋がったか……デュガが動く。槍へ魔力を注いで俺の剣戟を真正面から受けようとする。
だが、それでも俺は押しの一手――その時、新たな変化が。槍に備わっていた魔力が神魔の力によって相殺していく。それはどうやら、俺の力が尽きるよりも早い速度で槍の方がなくなるか……無論、そう判断した矢先デュガも魔力を注いだのだが……俺の力が注ぐよりも早く、魔力を消し飛ばしていく。
勝負が決まる――そう予感した直後、デュガが持っていた槍が、パキンと折れた。そして次の瞬間、俺と彼の間で、白い光が生まれ――広間を覆い尽くした。
「――兄さん!?」
カレンの声が聞こえた。白い光に飲み込まれたことによって、思わず叫んでしまったようだった。俺はそれに光を脱して応じる。
「怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫だけど……」
少しだけ、ヒヤッとなった。というのも、槍を両断してそのままデュガの体へ剣が流れていったのだ。
手応えはなかった、というかギリギリで俺が押し留めたのでたぶん当たっていないと思うのだが……考える間に光が消える。そこには切られた槍を眺めるデュガの姿があった。
「ふむ……これが神魔の力か」
「さすが、といったところかしら」
感心するようにアミリースが呟く。
「直に受けてどうだったの?」
「そうだな……まず訊きたいのだが、先ほどの力。全力なのは間違いないようだったが、少しばかり制御が甘かったようにも思える」
「自分でも驚くほど、力を放出したので」
「今まで加減していたと?」
「無意識の内に、ですが」
「なるほど。体の方が本能的にセーブをかけていた。しかしそれを私との戦いにより無理矢理引き出した結果が、先のものか」
納得の声を上げた後、デュガは俺へ向け笑みを浮かべる。
「神魔の力……異質な力を用いた戦いであったが、槍を切られたのは明瞭な事実。こちらは敗北を認めよう」
「いや、あの」
「まさか主神にまで勝つとは……」
フィンが感心したような、呆れたような声を上げる。一方でミリーとかはなんというか肩をすくめている。なんだその反応は。
「二人はどういった感想なんだ?」
「いや、話が大きすぎてなんだか実感がないだけだ」
「俺の方もないよ……」
「先にも言ったが、こうした決闘という形式で戦ったことによる結果だ。例えば戦場で遭遇した時とかでは、おそらく状況も変わる」
と、デュガは解説する。
「言い訳をすると、私の方もそれこそ神界を無茶苦茶にするほどの力を出せば勇者セディが触れることもなく倒すことは可能だ……決闘という形にしたからこその勝利。とはいえ勝ちは勝ちだ」
「いいんですか? そんなあっさり認めて」
「ここで事実を受け入れることもできず否定するなど、往生際が悪いだろう。まあそちらにとってはこれで主神に勝った、などと考えている様子ではないが……少なくとも、私の力を打ち破るだけの力は持っているのだ。そこは自信を持っていい」
「はい……あの、槍なんですが……」
「ああ、これか? 私が普段使う槍……この神界における最強の槍の模造品だ。気にすることはない」
「模造品?」
「力が大きすぎるため、普段宝物庫に起きっぱなしだからな。そもそも戦闘する機会など稀だが……いつ何時戦えるように備えはしてある。模造品とはいえその力はかなりのものだ。これを破壊するだけの力……やはり神魔の力というのは異質だと断言できる」
主神にそう言わせるだけの一撃だった、ということか……。
「最後、すみませんでした」
「うん? ああ、意図せず当たってしまいそうになったことか? 気にしなくてもいいぞ。ただまあ、私としてもヒヤリとした。直撃すればタダでは済まない力だったからな」
「これは、間違いなく切り札になりますよね?」
「そうだな。勇者ラダンとの戦いで、紛う事なき切り札となる」
述べた後、デュガはまとめるように話を続ける。
「さて、これで決闘は終わりだ。付き合ってくれてありがとう。そして、今は相手の出方を待つだけ……勇者セディ達が滞在中に何か動けば、対応してもらう可能性はあるが……今は待ちの時間だ。それまではこの神界でゆっくりしてもらえればいい。落ち着かないという返答が来てしまいそうだが、そこは滞在すれば慣れてくるだろう。他にも案内したいところはあるからな……その辺りは、アミリースに任せるとしようか――」