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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編
363/428

主神に対する戦術

 間合いを詰めた俺の剣に対し、主神は槍で真正面から受ける。途端、訓練場に金属音が響く。

 ギリギリと金属同士が噛み合う音。主神デュガの実力もそうだが、手に握る槍についても警戒しなければならない。果たしてどのような効果があるのか。


「この武具が気になるのか?」


 剣を受け止めながら、デュガは俺にそう告げた。


「主神が持つ武具ですからね……とはいえ、詳細を告げるような必要性はありませんよ」

「戦いの中で解明するというわけか。そちらも全力で来てくれ。神魔の力も構わないぞ」

「なら――」


 遠慮なく……! 俺は魔力を高め、その力をデュガへぶつける勢いで解放した。

 刀身に神魔の力が集まり、まずはデュガの槍を弾く。次いで放たれた剣戟は、主神の胸部を狙った一撃だが――叩き落とされた。


「単純な力と力の勝負であれば、神魔の力をまともに受けて沈んでいたかもしれないな」


 そんな風にデュガは語る……相手が人間であると侮った結果、神魔の力により足下をすくわれる……大いなる真実を知らない神族であれば、そのような結末を迎えてもおかしくはない。


「神族がこの城の中で地位を上げるためには、武芸などを極めることも一つの手だ……つまり、人間と同じように剣術や槍術など、様々な技法を習得している」

「あなたの場合は……槍術ですか?」

「いかにも」


 ヒュン、と一度軽く素振りをするデュガ。


「確か魔王エーレも同じように技能を習得していたな」


 彼女の場合は体術だった……しかし、槍術か。

 根本的に剣と槍ではリーチに差があるため根本的に相性が悪い。その上相手は主神である……まともに戦って勝てるのか、正直怪しいのだが。


 ともかく、胸を借りるような勢いでやるしかないか……間合いを詰める。即座にデュガは槍をかざしたが、俺はそれを見極めてかわした。

 立て続けに放たれる刺突。それをかいくぐるように俺は攻撃を避けながらさらに踏み込む。剣の間合いに到達した瞬間、懐に攻め込まれ対応しようとするデュガへ向け、剣を薙ごうとした。


 しかし……俺はすんでの所で中断。半ば無理矢理後退して、距離を置いた。


「……思い切った行動だな」


 と、槍を構え直すデュガは告げる。


「どうやら罠に気付いたらしいが……そこまで無理矢理戻るか」


 彼の言う通り、俺は罠の気配を感じて退いた。デュガにとってはさしたる内容でもなかったかもしれないが、一撃もらえば俺は確実に窮地に追いやられる……そう確信したからこそ、強引にでも後退した。

 問題はその罠が何なのかだが……少なくともデュガの挙動で怪しいところはない。上手くこちらを騙しているという可能性も十二分にあるわけだが、なんとなく俺は魔法か何かで体を保護しているのでは、と思った。


 具体的には俺が剣を決めるとその魔力が跳ね返ってくるとか……目を凝らすとデュガが体にまとっている気配は濃密ではあるが何か仕掛けがあるようには見えない。見えないのだが……、


「もしや、罠の全容に気付いているのか?」

「いえ、勘ですよ……とはいえ、何なのか判断できなければこちらが負ける以上、迂闊に攻めることはできない、というだけです」

「その警戒心についても、君が生き延び戦歴を重ねた理由かもしれないな」


 と、デュガは俺のことを考察する。


「魔族との戦いで無茶もする。しかし、本当に危ない状況になったらすかさず退避か……ふむ、危機感知能力はなかなかのものだな」


 そう述べると、デュガは槍を構えた状態で動きが止まる。


「では、どうする?」


 ……あえて待つのか。彼としてはこちらの出方を見たいということなのだろう。

 仮に俺の推測が正しければ、攻撃した瞬間に返り討ちに遭うってことなんだろうな。これを打開する方法としては二つか。一つはデュガの結界をすり抜ける技法で攻撃すること。


 これは一応候補がある。基本的に魔族も天使も……というか人間やエルフもそうだが、攻撃を防御するのは基本的に魔力を用いる。物理的に防ぐ場合は鎧などが必須となるが、それだけで足りるかというと……魔物相手ならばまだしも、魔族相手では心許ない。よって、基本的に多くの場合は防御力の高い武装を魔力によって強化するのが普通だ。

 デュガもおそらく同じだと思うが……罠というのは魔力で防御する部分なわけで、ではそれを無視すればいい――手持ちの技にそういうものも存在している。それを使って罠を抜かせれば、デュガに一撃決められるかもしれない。


 これはデュガに対し油断させることでより効果的になる。俺がどういった攻撃をするのかデュガは見定めたい様子なので、ここから考えて俺が攻め込んでも守勢に回るだろう。攻撃を当てられるだけの隙が生じるのかは微妙だけど……もしかするとあえて攻撃を受けるような所作を見せてくる可能性もある。そうなったら一気に勝利……できるかもしれない。


 問題点としてはそもそもこの技法は対人で扱われるもの。主神に通用するのか不明だし、失敗したら後がない。それに技を出すのに一瞬ではあるが時を要する。最初からそんな技法を使えばデュガが気付いてしまう可能性がある。よって、技を行使するなら攻撃が当たる直前か、隙が生じた時。敵の隙を見計らってこちらの技法を当てる……タイミングが非常にシビアである。


 と、通用するかを含めこの手法はかなり厳しいという結論に至る。とはいえ俺としてもこの手法は一度きりで後戻りのきかないものなので、俺としてもあまりやりたくはない。あくまでこうした方法がある、程度の認識でいいだろう。

 よって残るもう一つの手段を用いることになる……のだが、これは恐ろしく短期決戦を要求される。簡単に言えば俺の持ちうる力で強引に罠を食い破る方法なのだが……開いては主神である。果たして力押しなんてものが通用するのだろうか?


 ただ俺にとれる選択肢はこれくらいしかない以上、やるしかないか……まさか主神と戦うだけでなく、力押しなんて手法で挑むことになるとは。

 ま、そういう結論ならば、逆に踏ん切りもつく……呼吸を整える。こちらが動き出すと悟ってかデュガもまた警戒を露わにした途端――俺の魔力が、広間に拡散した。


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