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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編
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体に宿るもの

 会話をしながらずんずんと俺達は進んでいくわけだが……どうやら地下へ向かっている。こうなるとどういう展開になるか、おおよそ予想がつき始める。


「地下もあるんですね」


 カレンの言及にアミリースは「そうよ」と応じ、


「色んな施設をこの城に作り、中だけで仕事ができるようにしているからね」

「地下には何が?」

「それはもう多岐にわたるわ。宿直的な施設があったりするけど、よほどのことが無い限り基本的に使わないようにしている」

「使わないようにしている?」

「城内ではそれこそ、暮らすことができるからね。下手すると地下にある一室で寝泊まりして居着いてしまう可能性すらあるから。実際、そういう事例もあったようだし」

「ものぐさな天使もいたもんだな」


 俺の言葉にアミリースは笑い、


「天使どころか神と呼ばれる者でそういう事例が」

「……そういうのを聞くと、やっぱり人間を始祖としているって思えてしまうな」

「不思議な気分だけどね」


 ミリーの呟き。フィンなんかは「まったくだ」としきりに頷いている。

 程なくして地下の階層に入る。アミリースの言う通り、廊下がいくつも分岐している。その中で彼女は迷うことなく一本の道を選んだ。


 地下にわざわざ呼ぶということは……人の気配が周囲にないので見られないようにする配慮とか最初考えたけど、だったらもう少し厳重な場所でもいいはず。

 ということは、やはり……推測が確信に変わった時、俺達の前の前に両開きの扉が。どうやらここが目的地らしい。


 アミリースは止まることなく扉に手を掛け、開けた。最後に辿り着いた場所は――ずいぶんと広いホールのような空間だった。

 何もない、ただひたすら広い空間。建材は相変わらず大理石のような物であるが、ここは他の場所とは異なりずいぶんと魔力を感じられる。


 そして俺達が入ってきた入口の反対側には通路が存在しており、俺達以外に誰もいなかった。


「ここは……?」

「すぐにわかるわよ」

 カレンの疑問に対しアミリースが答えた矢先、反対側にあった扉が開く。奥から現われたのは、主神のデュガだった。

 で、玉座にいた時とは大きく姿が異なっている。全身を鎧に固めた騎士のような出で立ち。ただデザインとしては戦場を駆ける騎兵というよりは、本陣で采配を振るう指揮官のような感じでもある。兜だけは身につけていないのだが、主神のそうした姿は異様なまでの威圧感を放っている。


 注目すべきなのは右手に握られている物。うん、見事な槍だ。

 で、ここに至り仲間達も気付いたらしい。


「あの、これはひょっとして……」

「そういうこと」


 カレンの言葉にアミリースはにこやかに答え、


「よく来てくれた、勇者セディ」


 次いでデュガが声を出した。


「大いなる真実を知り、答えを出し、また私にも意志を伝えた……けれど、もう一つ足らない。魔王を打ち破った力……それを、直接この目で確かめなければ、と常々思っていた」


 俺は隠す余裕すらなく、深いため息を吐いた。つまりこのだだっ広いこの地下施設は訓練場で、アミリースはデュガと引き合わせるためにここへ案内したわけだ。嫌な予感の正体はこれである。


「主神と戦うわけか……」


 興味深そうにフィンは呟く。仲間達としては予想外だったのかそれ以外言葉を発することはないのだが……俺はデュガへ言及した。


「あの、一ついいですか?」

「どうぞ。質問なら何でも答えるぞ」

「あなたと模擬戦闘という形式みたいですが……」

「可能であれば本気で来てくれ。それで実力を認識できるというもの。こちらも相応の力を出す……いや、現魔王を倒したのであれば、全力を出すべきか?」

「いやあの……その、どうあがいても勝てないと思うんですが」


 その言葉に他ならぬデュガが訝しげな視線を送る。


「思わぬ言動だな。魔王を倒したのだ。そうであれば主神相手であっても戦えると自負しているものかと思っていたが」

「エーレとの戦いは、偶然に偶然が重なった形なので……」

「ふむ……そうだな、君から意見を聞いた時に言おうか迷っていたが、ここで私見を述べておこう。運というのは実力だと私は思う」


 先ほど会話をしていた事にも関する話題だった。


「大いなる真実に関連する出来事もそうではあるが……勇者セディが成してきたことにより、運が味方をした、とか運を引き寄せた、とか色々な言い方があるかもしれないが……私は運というのは宿るものだと思っている」

「運が……宿る?」

「人間の歴史において、偉大な人物というのは多数いる。内乱を鎮め国をとりまとめた戦士、数々の魔族を打ち破った勇者、戦場をかけ続け生き残った傭兵……これは神界においても同じだ。神界の歴史に名を刻んだ者は長い歴史を見れば多数いるが、そうした者達は運を味方につけている……人によっては運を手にしていたからこそ歴史に名を刻むことができた、と解釈するかもしれない」


 そうデュガは述べると、俺を見据えた。


「私の考えだが……その者が行ってきた所業により、運というものは作用すると思っている。勇者セディが得てきた経験などにより、魔王を倒せるほどの力と、何より運を手にしているのだと思う」

「その言い方だと、運というのは魔力や筋力のようにずっと所持するもの、みたいに聞こえますね」

「私はそう考えている。でなければ、英雄など生まれないとも考えている」


 ……なるほど。


「魔王エーレを倒すことができたのは、勇者セディの言うとおり運、なのかもしれない。詳細を詳しく知らない以上、評価をすることは難しいが……私としては運は宿るものと解釈しているので、勇者セディは魔王を打ち倒した者だとはっきり明言できると考えている」

「けど、エーレは俺に合わせるような戦い方をしましたし」

「勇者セディが倒せるよう、一対一の決闘に持ち込んだ、ということか? それならば、君の思惑が届いたということだ」

「思惑?」

「もちろん君が意図したものではないが、白黒つける形で君がもっとも勝てる形になった、ということだ。勇者セディとしては、魔王エーレが遠くから魔法を連打し続けるだけで勝てる勝負だった、と言いたいのだろう? けど、そうはならなかった。それは勇者セディ、君がそういう形にしなかった、ということを意味している」


 ……どうやらデュガは、俺が意識的ではなかったにしろ、魔王を策にはめたと解釈しているようだ。


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