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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編
360/428

勇者の無茶

 俺達は一通り城内を見回ってから、部屋へと戻ってきた。目的は達成したので後は自由に、という流れのはずだったのだが、


「二人はこの後予定はあるのかしら?」


 唐突にアミリースが問い掛けてくる。そんなものはないので首を左右に振ると、


「それじゃあもう少しだけ、付き合ってもらえないかしら?」


 何だろう。こちらとしては断る理由がないのでカレンと共に従うことにする。よって俺達は再び歩くことになったのだが……、


「この方向は……」

「城の下層部分ね」


 アミリースの解説通り、上階ではなく、下へ進んでいる。しかも天使達が働いている場所から離れているな。


「今から向かう所には何が?」

「行けばわかるわよ」


 アミリースは屈託のない笑みで応じるのだが……ここで俺は直感する。怪しい。


「どうしましたか?」


 俺の様子を見て即座にカレンが問い掛けてくる。こちらは、


「いや……あのさ、アミリース。一ついいか?」

「何かしら?」

「歩き出してから言うのもあれだけど……昼過ぎとかでは駄目か?」

「ああ、あなたに会いたいという神族がいるのよ」


 そうアミリースは答えた……うん、彼女の言葉が本当であるように聞こえてしまうのだが……なんとなく嫌な予感がする。


「兄さん?」


 なおも尋ねてくるカレン。俺の様子がおかしいことに対し、眉をひそめている。


「どうしたんですか?」

「いや……アミリース、何か隠していないか?」

「何を?」


 キョトンとした顔で聞き返してくる。俺はもしこのまま進めば厄介事になるのでは……と思っている。それは別に根拠があるわけではない。ただ、俺の足の動きが鈍くなる。

 それは本能、とでも言うべきか……こんな気分になる時は、勇者として活動していた時に結構あった。そしてこの予感はほぼほぼ正しく、突っ込んだらトラブルに見舞われた。


 神界で、なおかつ主神や女神の保護を受けている身で、問題などあるはずもない……うん、確かにあるはずもない。しかしこの嫌な予感がとある内容であったなら、俺の直感は正解になる。


「時間が頃合いだったから、部屋に辿り着いたタイミングになってしまったのよ。そう時間も掛からないだろうから」


 彼女としてはどうしても俺を連れていきたい様子。強制という雰囲気はまったくないのだが、女神であるアミリースが言うものだから、逆らえないような気持ちにさせる。

 自分が言えば従ってくれるとわかった上で案内しているのだろう。それは間違いないし、俺としてはついていくしかない。ついていくしかないのだが、


「兄さん、何か懸念することでも?」


 カレンがなおも訊いてくる。俺の様子がおかしい時、予感を抱いていることがわかっているので質問したのだが、


「いや……ごめん、俺の考え違いだった」

「そう、ですか。何かあればご相談ください」

「私も相談に乗るわよ」


 アミリースが同調する。俺が懸念しているのはこれから起こることだぞ、と思いながらも口には出さない。

 これから何が起こるのかについては、おおよそ見当がつく。というか、一つしか考えられなくなった。そう思うとため息をつきたくなるが……ここは我慢しよう。


「あれ、セディ達じゃないか」


 ここで、別の廊下からフィンとミリーが現われた。


「案内はまだ続いているのか?」

「一度部屋に戻ったんだが、アミリースから会わせたい神族がいるってことで、こうしてついていっている」

「あなた達も一緒に来てもらえるかしら?」


 さらなるアミリースの要望。フィンとミリーは首を横に振る理由もなかったため、四人でアミリースの先導による歩むことに。


「セディ、作戦は――」

「成功したよ。後は結果待ちだ」


 ミリーの問い掛けに俺はそう応じた後、


「ま、これからのことはアミリース達がどうするかによって変わるから、俺達はただ待つしかないな」

「そう警戒しなくてもいいわよ」


 と、笑いながらアミリースは話す。


「神魔の力を持っている懸念があるため、私達としてはあなた達の力を借りる必要があるかもしれないとは思っている。けれど、こっちには切り札もあるからね」


 女神や主神の特権のことか。


「セディ達は一種の保険のようなものよ。神魔の力については恐ろしい武器になるのは間違いないし、私達を傷つけられる明確な手段ではあるけれど……こちらだって勇者ラダンの一件から情報を得ているし、対策も立てている。身構える必要はないわ」

「そうであったならいいんだけど」

「心配性ねえ。ま、それがあなたの良い面なのかしら」

「たまーに、あらゆる心配をかなぐり捨てて無茶な行動するけどね」


 嫌味っぽく、ミリーが語る。それに俺は、


「それはどのことを言っているんだ?」

「両手の指どころか両手両足を使っても数え切れないわよ、そんなの」

「それは大丈夫だ、という判断をセディがしているからではないの?」

「結果的にそうなってはいますね」


 アミリースの指摘に、カレンがフォローになっていないフォローを行う。そこでフィンが、


「そうだな。結果的だな。今まで危ない局面は運で乗り切ったって感じか」

「フィンまで……まあ、否定はできないけどさ」


 確かに、かなりまずい局面は運で乗り切った部分もある。人によっては「運も実力の内」だと言うかもしれないが、俺としては……うーん、必死に戦った結果運をたぐり寄せたという解釈だってできるけど、俺の場合は違うかな。

 だからこそ仲間達は「無茶するな」と俺に口酸っぱく言っていた。けれど戦いの時にその言葉は忘れ、結局また無茶をやってしまう。その繰り返しだったような気もする。


 ただ、今回の場合……勇者ラダンの場合は、そんな運に頼り切った戦いではまずいとわかっている。下手すれば彼に世界の命運を握られてしまうのだ。そんなことは絶対に防がなければならない。

 これまでは俺が例え死んでも他の勇者がなんとかしてくれる――そんなどこか投げやりな考え方だって存在していた。けれど今回は違う。


「……再三このやり取りはしたけどさ」


 俺は肩をすくめながら述べる。


「無茶はしないと約束するよ……まあ、エーレやアミリースのことだ。俺に無謀なことをやらせるつもりはないだろうけどさ」

「そうね。勇者ラダンについては……絶対に仕損じないよう、そして目論見を潰すため、全力で動くから」


 頼もしいと同時に、狙われた側からすればこれほど恐ろしいことはないな――そんな風に俺は女神の言葉を聞いて思った。


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