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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編
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神の特権

 俺達は資料室を出た後、再び城内を見回ることに。結果が気になるけど……、


「ルーノについては追跡調査をするから、報告を楽しみにしていて」

「わかったが……もしルーノが派手な行動をとったら、どうするんだ?」

「どうするも何も、そこから上手いこと敵の根城をつかむのよ」

「具体性がないんだけど……」

「兄さん、そこは懸念しても仕方がありませんよ」


 と、どこか達観したようにカレンが言った。


「この神界のことを私達はほとんど把握していませんからね。アミリース様には私達が見えていない方策がしっかりと見えている、ということでしょう」

「そういうこと……そうね、情報を教えるなら、現段階でルーノは既に私の毛髪について採取はしたわね」

「今からでも行動を起こす可能性が?」

「低いと思うわよ。私達が訪問した後に即座に動くというのは……いくらなんでも怪しいし」


 と、アミリースはにこやかに続ける。


「私達が勇者ラダンのことを知らないにしても、怪しい動きを察知していることは敵側もわかっているのよ。でも誰が内通者なのかについては、私達はわかっていない……と、認識している」

「ちなみにだけど、アミリース達はなぜルーノが怪しいと?」

「それは秘密。私やデュガにしかわからない、魔法を使ったとだけ言っておくわ」


 特権、というやつか。


「その特権というのは、敵側はどんなものか認識できていないのか?」

「ええ。そういった事柄は書類などにまとめることはなく、口伝のみで伝わるものなの。文書自体存在していなければ、把握は難しいでしょう? 口伝する対象については、様々な条件があるのだけれど……その一つに大いなる真実に関することが含まれている」

「それを知ったら……と?」

「もちろんそれだけではないわ。大いなる真実に加え、様々な条件が必要になる……世界のあらゆることを知るが故に与えられた魔法……これは責務と言い換えてもいいわ。神界の秩序を守るための、必要な措置」


 ――アミリースやデュガは、それこそ神界の全てを背負っている。だからこそ、特権があるということか。


「そして敵側は、この特権について知っている素振りを見せないことから、少なくとも魔法を知る者が敵でないことは間違いない。もしわかっていたら、こちらを欺くような手法がいくらでも作れるだろうし」

「そうかもな……ただ、神魔の力を用いれば話は別じゃないか?」

「その可能性も一度は危惧したけれど、勇者ラダンが持つ神魔の力……それは現段階で精密に扱えるわけじゃない。私達の目を欺くような精巧な魔法を作れる段階には至っていないというのが結論よ」


 ……まあ、ラダンだってそんな風に力を使う想定はしていないよな。あくまで『原初の力』を手に入れるための鍵として力を得たわけだし。


「神魔の力は恐ろしいけれど、それは決して万能ではない。私達すら倒せるだけの力を得ることは可能だけど、私達を騙す力はない」

「切り札になるけど、邪魔立てするとか、そういう効力はないってことか」

「そうね」


 頷くと同時、俺達は庭園を訪れた。昨日赴いたのとは異なる場所だ。


「……こうして話をしたことですが」


 ふいに、カレンが口を開く。


「私達に教えて良かったんですか?」

「ええ、大丈夫。さすがにあなた達から情報を得ようとするなんて、彼らは考えない……というより、この神界で活動している間に干渉することは、危険だからね」

「逆を言えば、俺達が神界にいる間に決着をつける……と」

「そうね。あなた達を神界に招こうと思ったのは事実。これは今回の作戦とは関係のないものだった。けれど、勇者ラダンの存在が公になり……結果として、あなた達にも協力をしてもらうことになった」


 そう言って、アミリースは苦笑する。


「そこについては……仕事の一環とはいえ、ちょっと申し訳なく思っているわ。本当はこの神界について、もっと綺麗な部分を見せておきたかった……こうして何もかも包み隠さず話すのは、協力してくれたお礼もあるわね」

「……俺達が誰かに話をしてしまう、なんて可能性は危惧しなかったのか?」


 俺はアミリースへ向かって問い掛ける。


「この情報、魔法を知る者以外で把握しているのは……ほぼいないだろ?」

「そうね。神族以外だとエーレとシアナくらいかしら。魔王とその親族以外に情報を渡したのは、初めてね」

「……情報を知らなかった以上、俺達はそのことについて知らなくても咎めることはなかったはずだ。そもそも俺達にとって必要な情報でもないからな。けれど、伝えたというのは……」

「セディとしては、自分から話すことはないにしても、誰かに口を割られてしまうとか……そういう危険性を考慮しているのかしら?」

「あり得ない話じゃないだろ? 特に勇者ラダンなんかは、最大の脅威だし」

「セディの言うことは一理あるわ。でも、それよりも私は話すことを優先した」


 確固たる口調。そこには強い決意が秘められていた。


「これは、変化だと私は捉えている……人間という存在が管理の世界に加わった。だからこそ、私達もあなたの覚悟をしっかりと受け止め、こちらのことを話すことにした。でなければ、管理の世界で人間が動くことなんてできないでしょう?」

「……そこまでする必要はないと思うけど」

「セディは、エーレとの出会いから色々あって理解できる思考の土壌が存在するわ。でも、管理を突然任された人間ならどうかしら? 何か隠し事があると知ったら、それこそ納得がいかないと感じてもおかしくないでしょう?」


 言われてみれば、確かに……話す必要性のないことであっても、引っ掛かることだってあるかもしれない。


「共に歩むために行動するというのは、非常に難しいもの……だから、私達もきちんと内情を伝える。今回の仕事はそのきっかけになればいいと思っているわ」


 ――そしてアミリースは俺達に期待している。エーレが見定めた俺のことを、管理世界に携わる俺が変革を起こすことを願っている。

 女神や魔王が秘匿し続けたことで、どうにか管理してきた世界。それを人間の手で……並大抵のことではない。俺だけで結果を出せるような簡単なことではない。あくまで俺は礎になることしかできないけれど――


「……アミリースの、そしてデュガの期待に応えられるよう、頑張るよ」

「ええ」


 柔らかい微笑。それと共に向けられた眼差しは、とても暖かいものだった。


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