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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編

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女神のたくらみ

 翌日、俺とカレンはアミリースの案内の下で城内を回ることになった。昨日の時点で好き勝手に歩いていたわけだが、今度はより詳しく……という名目である。

 行くことができなかった場所へ案内され、中には天使達がデスクワークをしている場所まで訪れた。天使達は微動だにしなかったけど……。


「天使というのもやっぱり性格があってね」


 と、アミリースは笑いながら話す。


「人間の前に出るときはもちろん清楚かつ潔癖な様子を見せるものだけど、実際は人間と同じよ。というより、人間と成り立ちは同じなのだから当然よね」

「……そういえば、天使達の由来は――」


 カレンが気になって言及すると、アミリースは、


「成り立ちまでは古の話だから私も詳しくは知らない……いいえ、語弊があるわね。より正確に言えばその辺りのことは何もわからない」

「それはつまり……」

「可能性としては二つ。一つは原初の力による影響で誕生したため、隠匿された……まあ、原初の力をもってこの神界を形作った最初の御方が、隠蔽まで考慮していたかというと疑問に残るのだけど」


 まあ、元々は普通の人だからな……。


「もう一つの可能性は……例えばエルフなんかの由来は、推測だけど後ろ暗い部分があるようね」


 実験……だったかな。


「となると、天使達も普通の人とは異なる以上、その成り立ちももしかしたら――」


 後ろ暗い部分があるというわけか。なぜ天使を生み出したのかも、予想できる。

 広大な神界を管理するために天使という存在を生み出した可能性だってある。ともあれ由来などを考慮すれば最終的に行き着くのは実験云々なのは間違いないかな……勇者ラダンの話を信じれば、だが。


 ただ、エーレもアミリースもこの論については一定の理解を示している。彼女なりに何か察するものがあったということなのかもしれない。


「けれど、一つ言わせてね。どういう経緯で誕生した存在であろうとも、天使達はこの神界における仲間よ」

「わかっているさ……天使達を大切に思っているのはわかる」

「ええ」


 にこやかに語るアミリース。天使達を紹介するその姿はどこか誇らしげであった。


 そうやって話をする間に俺達は目的の資料室へと辿り着く。前回は完璧に偶発的なものであったが、今回は必然。さて、アミリースを前にしたルーノはどういう態度を示すのか。

 中へ入ると昨日と同じくルーノの姿が。こちらに気付いた矢先、女神がいるのを理解すると居住まいを正した。


「アミリース様――」

「改まらなくていいわ。昨日彼らがここを訪れたということで、ちょっと立ち寄ろうということで」


 ここで警戒されてしまったら至極面倒なのだが……ルーノは「わかりました」と応じるとこちらに視線を向け、


「また会えましたね。とはいえ昨日も言いましたがここは統計資料などが中心の部屋です。あまり面白みはないと思いますが」

「この空間を見るだけでも満足ですし」


 と、広い資料室を見回しながら告げると、ルーノは「そうですか」と優しく応じた。


「もしよければ、ご覧になりますか? アミリース様、ここの資料については把握していますか?」

「ええ、ここを訪れたのは少しばかり紹介したい資料があったから」


 そう言ってアミリースは書物の名を告げる。ルーノは「それでしたら」と棚の名を告げた。

 さて、ルーノからすれば千載一遇のチャンスなのは間違いない……彼が例えばアミリースの毛髪などを採取すれば、何k歳ら行動に移す可能性が高いということなわけだが……。


 俺とカレンは事前にアミリースから「任せて欲しい」と言われている。なので、ここでは状況に身を任せることにする。


「ご案内致しましょうか?」

「そうね、お願いするわ」


 アミリースの言葉にルーノは一礼し、案内を始めた。

 物腰などは丁寧で、何か事を成そうとするようには見えない……が、これは当然か。もし露見したらそれだけで終わりを迎えるのだ。細心の注意を払い、絶対に露見しないよう立ち回る。


 階段を上がり資料室の上部へ。そこからいくらか棚を見ていると突然角を曲がる。そこから資料をルーノは差し出し、アミリースはそれを確認。


「ええ、これね」


 満足げな様子。


「この資料を読みたいのだけれど」

「でしたらこの棚から少し先にテーブルがありますので――」


 案内されると木製のテーブルがいくつも。たぶん資料を確認しに来る者に向けて用意されたものだ。

 ルーノはそこで「資料を持ち出す際はお声かけを」として立ち去る。それを見送った後、アミリースは小声で、


「さて、始めましょうか。といってもやることはそう大層なものではないけれど」


 そんなことを呟いて大丈夫なのかと思っているとアミリースはこちらの考えを読んだようで、


「聞き耳を立てられている可能性はないわよ。神魔の力により偽装できるかもしれないけど、魔力を用いるのは間違いない以上、仕掛けていたら察知されるから」

「……さすがに公の場所でそんな大それたことはしないか。で、どうするんだ?」

「適当に髪を数本ここに残していくだけよ。ま、私のものならすぐに察知できるでしょう」


 と、彼女は数回手で髪を撫でる。すると髪が数本テーブルの上に落ちた。


「これに一つ細工をして……と」

「細工?」

「髪の居所がわかるようにするのよ」


 また大それたことを……。


「それ、敵に気付かれないのか? いや、アミリースなら気付かれないよう処置できるにしても、ここで魔法を使ったらルーノにバレるのでは……」

「私やデュガなら、バレないよう魔法を使えるのよ」


 ……例えば魔法を使った場合警報のようなものが鳴るとしよう。しかしアミリースとかデュガはそれに含まれない、とかかな?

 権限があるからこそ、何かしらこの城内でも特権のようなものを所持している、ということなのか。


 まあそういうことなら、と俺もカレンも黙って見守ることにする……作業そのものはおよそ五分で終了。そこからアミリースは律儀にも手に取った本に関する解説を行う。それはどうやら神界の歴史の一端らしい。

 その話自体、結構興味深く俺とカレンは聞き入るくらいのものだったが……やがて話し終えるとアミリースは書物を本棚へしまった。


「では、あとは結果を待ちましょう」

「場合によっては戦闘……だよな?」

「できることならやりたくはないけどね。神魔の力が出てしまうかもしれないから、セディ達も同行ね」


 俺とカレンは同時に頷く。正直戦力になれるのか疑問だけど……その時が来たら、全力で応じる心構えを行った。


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