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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編
357/428

神界における作戦

 昼間尋ねた資料室の司書が、敵――思わぬ展開だが、俺とカレンは図らずともデュガやアミリースの目的に沿った動きをしていたようだ。


「二人とも、もしかして何かしら情報を握っていたとか……そういうことはないのか?」


 俺とカレンは一斉に首を横に振る。当然知るわけがない。というか、知ってたらむしろ相手が名乗った時点で警戒していたはずだ。


「……ふむ、この辺りで説明しておこうかしら」


 と、アミリースが何やら呟き、


「この神界について、勇者ラダンに手を貸す者がいる……その調査について少し手伝ってもらおうと思っていたのは事実だけれど、事情を知らぬ時に引き合わせて、どう感じるかを確かめたかったのだけれど……」

「あ、そちらの目論見を潰す結果に……」

「とはいえ、別に構わないわよ。それで一つ聞きたいのだけれど、あなたはルーノに何を感じたかしら?」


 問われ、俺はしばし考える。


「そうだな……首筋にチクリとするような感触が。あれはもしかして――」

「セディのことを知っている、というわけではないはずだ」


 と、デュガが俺へ述べる。


「知っていたらそんな気配すら出さないようにするはず。絶対に怪しまれないように。そのくらいの演技はできるだろうからな」

「ということは――」

「私やアミリースが招待した人間ということで、何かしら思うところがあったんだろう。真実を知らない存在である以上、良いように扱われるし、彼の目的を妨害してくるかもしれないと考えた……敵意に満ちた感情を抱いていたと言うのであれば、もしかすると危害を加える可能性もあったか」

「あの資料室で?」

「いずれ、の話だ。さすがにこの場でそれを行えば、即座にバレる」

「このまま元の世界に戻った際、何かしら影響があると?」

「勇者ラダン辺りに連絡をして、何かしら利用するとか、そういう計画が浮かんだのかもしれない」


 それはまた……けど、そんな目論見であるのなら、合点もいく。


「思わぬ形で私達の目的も達成できてしまったわけだが……それならそれでいい。ならルーノに接触して、上手い具合に敵組織壊滅にもっていこう」

「いや、ちょっと待ってください」


 俺はデュガを手で制する。


「あの、俺達を利用して敵組織を暴くってことですか?」

「といっても君達に何かをしてもらうわけじゃない。もう一度接触してもらって、相手がボロを出すのを待つことにする」

「具体的には?」

「先ほど、敵の目的が私の弱点を探る、と言ったはずだ。これはアミリースなども該当する……神族同士でしか通用しないのだが、実を言うと神族には同胞を抑え込むために使う魔法がある。それを使えば、私やアミリースでさえ拘束される」

「え……」


 そんな魔法が……!? 驚愕する間にデュガはさらに解説を続ける。


「とはいえ、そんな魔法が簡単に使えるはずもない。それを成功させるために必要なのは、魔力のデータだ。私やアミリースの魔力の質、量などを解析することで、弱点を見つけ出し、拘束魔法を使う」

「……本来、その魔法はどういう主旨で作られたものなんですか?」

「神族であっても罪を犯す。しかし神族は多大な力を有するため、戦うだけで甚大な被害が出る。それを防ぐため、確実に拘束して戦闘を終わらせる魔法があるわけだ」


 へえ、なるほど……神族が秩序を維持するために製作した対神族魔法ということか。


「極一部の者は、この魔法と共に相手の能力をすぐに把握できる解析魔法を所持する。解析し、即座に拘束魔法を起動できる……この術式については特に秘匿され、扱える者は非常に少ない。これが露見すれば致命的だが、そういう事態には陥っていない。そして敵としてはその情報を得ようとしている……あるいは拘束魔法を使うために私やアミリースの情報を集めている」


 そう解説した後、デュガは息をつく。


「先ほども言った通り拘束魔法には魔力の質や量など、とにかく膨大な情報が必要で、例えば私やアミリースの近くに控えてその魔力を調べても早々に作れない。体表面に出る魔力は多寡が知れている。そんな調査では、いつまで立っても解析することなどできない」

「もっと核心的な情報が必要だと」

「その通りだ。ただ接近するだけではない……例えば私の毛髪や皮膚のカケラなど、言わば体の一部を採取して、情報を抜き取る」


 そうすることで、魔力の質についての情報も得られると。


「ただ、そうして得た情報でも、さすがに体の内部にある魔力を完璧に分析することは不可能だ。よって、拘束魔法を作っても効果があるのはせいぜい数秒足らずくらいか……しかしその数秒が生死を分ける」

「魔法を作成し、暗殺などを仕掛け……ってことですか」

「そういう可能性が高い。だからこそ、この城の中で虎視眈々と情報を得ようとしている」

「――ああ、なるほど」


 と、ミリーが納得の声を上げる。


「そこでセディ達が出てくると」

「そうだ。ルーノが怪しいのは間違いない。というよりほぼ黒なのだが、決定的な証拠をつかんでいないし、ここで捕まえても他の構成員がルーノを見捨てて終わるだけだ。よって、餌を撒く」

「餌?」

「アミリースが案内役ということで、勇者セディを伴い再び資料室を訪れる……普段アミリースがあんな所を訪ねることはないからな。それをするだけで怪しまれるのだが、セディ達が事前に顔を出していたのなら、問題はない」

「そこで何かしら……例えば毛髪とか、そういうのを落とす?」


 ミリーの言葉にデュガは頷く。


「そう。ルーノにしてみれば値千金の情報だ。それを収拾し、組織の者に伝える……が、この城を容易に抜け出すことはできないため、機会を窺うだろう。その行動を監視し、芋づる式に彼らを捕縛する」

「ちなみに、私については大丈夫よ」


 と、アミリースは口の端に笑みを浮かべた。


「もし敵に逃げられて魔力を解析されても問題ないように手は打ってあるから」

「そういうわけで、勇者セディにはもう一度あの場所を訪れて欲しい……頼めるか?」

「調査とは主旨が変わってきましたね」

「さすがに魔王に具体的な話を持ち込むのは、という私の意見にアミリースが同意した結果だ」


 なるほどね……ただこれに俺達が必要というのもわかる。よって、


「わかりました。俺達にできることなら、協力させてください――」


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