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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編

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会食

 その後、俺達は一通り白亜の城を回ってみたのだが……天使と遭遇しいくつか話をするのだが仕事中らしく、大した情報を得ることはできなかった。


「俺達を歓待するのに人払いをしたのは間違いなさそうだけど、たぶん普段もこのくらい静かなんだろうな」

「事務仕事が多いようなので、見えない場所にいるのでしょうね……やっていることは人間のお城と変わりがないようで」

「法律とか存在しているんだろうし、一つの国として定義もできるからな。その頂点が主神か……」


 最初はただ臆するだけだったが、実態を把握し始めると段々と神界そのものに親近感すら湧いてくる。やっぱり実地で見なければ、わからないことは多いな。

 とりあえず一通り見回った……と思った時、日が傾き始めていた。それほど経たずして夕刻になるだろう。


「一度戻ろうか」

「そうですね」


 カレンの返事を受け、俺達は部屋へと戻った。見慣れない大きな部屋に辿り着いた後、俺は窓に近寄り外を眺める。


「神界か……」


 思わぬ形でここを訪れることになってしまったが……真実を知り女神とも手を組んで活動していたこともあってか緊張も抜けた。ただ問題はこれからか。何かしら勇者ラダンに近しい一派が行動を起こそうとしていることを考慮すれば、緊張が抜けた今から本番だと言える。

 そこから少しの間部屋の中で過ごした後、夕食ということで呼ばれた。案内役の天使の先導に従って通された部屋は、食堂などの類いではなく賓客を迎えるような大部屋だった。


「どうぞ」


 部屋には円卓が中央に一つ。そこに主神デュガとアミリースが既に着席していた。


「今日一日、城の中を見回ることはできたかい?」

「はい」


 答えながら着席。仲間達が座ると、料理が運ばれてきた。


「……あ、一応言っておくけれど私達も食事はするぞ」


 そんなフォローがデュガからなされる。


「神々という存在は、食物すら口にしない高尚な者だと思われるかもしれないが、事実はそうじゃない」


 そんなことを言いながら食事を始める。俺も近くに置かれたパンを手にとって口にしてみる。

 香ばしい匂いが口の中に広がった。美味しいとは思うけど、神界だからといって悶絶するようなものではない。


「食事は、この大地で作られているのですか?」


 スープを飲みながらカレンが問う。それにデュガは首肯し、


「ああ、この地には農地もあるからね……ここからずいぶんと離れているが。君達が訪れた地点とは反対の場所がそうだ」


 そう言いながら彼はフォークで鶏肉を突き刺した。


「私達は人間と同じく、こうして食事を行い生きている。家畜を飼い、作物を育て、豊穣を願い祈りを捧げる……それらの命をいただきながら、私はこの世界の主神として生きている」


 そうやって話すのは、自分も特別な存在ではない、ということを知らせたいのか。あるいは、人間を原点にした存在だと改めて認識してもらい、緊張をほぐそうとしているのか。


「城を歩き回り、誰かから話を聞いたかもしれないが……私達の営みは人間のものと変わらない。ただ、私達は絶対的な力がある。だからこそこの神界という場所で、暮らしている」


 デュガが解説する間も食事が進む。綺麗な盛り付けがされた料理が運ばれてくるので、優れた料理人だっていることだろう。それは天使なのだろうかと想像した時、アミリースが口を開いた。


「今回、城を回ったと思うけれど、感想はあるかしら?」

「あー、そうだな」


 と、先んじて声を上げたのはフィン。


「なんというか、仕事内容はともかくとして動き回っている天使様とかは、人間で言う役人と変わらない雰囲気だったな」

「実際同じよ。ここは行政を司る場所でもあるからね」

「ああ、やっぱそうなのか……セディ、そっちはどうだ?」

「資料室を見た。ずいぶんと蔵書が多いみたいだな」

「あれは神界の歴史が積み上がっていくことで増え続けている、という感じよ。古い物は処分するべきでは、という意見だって上がっているけど」

「ひとまず城の中で上手く調整すれば入りきるから、今のところは保存しておくということになっているな」


 デュガは述べる。この様子だとアミリースは残すことに否定的で、デュガは残すべきだと考えているのか。

 主神が王様と同じであるなら、基本的にはデュガの意見が尊重されるということかな? そんな疑問を抱いていると、アミリースがこちらに尋ねてきた。


「ちなみにだけど、どこの資料室へ入ったの?」

「えっと、第二資料室だ。司書さんも快く応対してくれて――」


 その時、アミリースとデュガが一斉に目を丸くした。え、と内心思った矢先両者は即座に表情を戻し、


「あの場所は……統計資料とかばかりだったし、面白みはなかったのではないかしら?」

「確かに書いてあることはわからなかったけどさ……ただ、この神界という場所がとにかくスケールの大きい場所だというのは克明にわかった」

「あ、それは私も思った」


 俺に続きミリーが手を上げた。


「私達は人間の国……お城を訪れたことはあるけど、決定的に違うのはスケールの大きさだと思う」

「神界ほどの領土を持つ国はないからな……領土の規模が多ければ当然、管理する器も大きくなる。この城もまた相応に大きくなければならない……その結果がこの城だな」

「あなた方からすると、人間の城はちっぽけに思える?」

「大きさで判断するようなことはしないさ。大事なのは器を制御できるだけの力があるのかどうか……この城よりも小さくとも、その政治力が優れていれば何の問題もない」


 そう語った後、デュガがナイフとフォークを置く。食事が終わったようだ。

 こちらも会話をしながらほぼ終えた。残る面々も同じような感じであり、


「……では、本題に入ろうか」


 本題――勇者ラダンに関することか。食器が片付けられ、給仕がいなくなった後、デュガは語り始める。


「勇者ラダンと手を組む神族……怪しい存在は多少なりともマークはしている。もっとも確たる証拠がない上に、向こうとしてもボロはほとんど出さない。その中で……この城にいる者もいる」

「スパイ、ってことですか?」


 カレンが問う。それにデュガは肩をすくめ、


「目的は……私を倒すのであれば、弱点を得ようとしているということだ。ともかく、その神族……実はそこへアプローチを掛けてみようかと考えていた。そして、どうやらそれは正解だったようだ。何せ、その神族は……勇者セディが資料室で遭遇した司書なのだから」


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