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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編
353/428

滞在方針

 謁見の後に通された部屋は、魔王城で間借りしていると一室と似たような、広く大きな部屋だった。


「だから落ち着かないって……」


 これは仕方がないか、と割り切ることにして俺は荷物をベッドの傍らに置いた。さて、夕食まで時間が空いたわけだが、どうすべきか。

 とりあえず仲間達がどうするかを聞いて考えるのもいいか……なんとなく窓際に近寄ってみる。窓の外はベランダになっており、部屋の構造は魔王城とか、人間の城とかとあまり変わっていない。


「似たような間取りになるのは、これが最も汎用性が高いからかな」


 などと呟きながら窓の外を見ると結構な高層であり、また同時に眼下には白い建物が建ち並ぶ神の大地の景色が見えた。


「……本当に、神界なんだな」


 改めて呟く。なんというか、現実味がない。

 魔界にいても似たような心境なんだけど、この辺りはまだまだ夢見心地ってことかな……と、いけないいけない。勇者ラダンのことを含め、ここには任務的な意味で入った側面があるんだ。気合いを入れ直さないと。


 ただ主神に会うという最大の山場が終わったので気が抜けているのも事実。うーん、アミリースやデュガの言葉からすると、一両日中に何かがあるような雰囲気ではない。加え、神族達がこの場で騒動を起こすのは主神やアミリースの顔に泥を塗るようなもの。下手な干渉はしてこないと考えてもいいし、今日ぐらいはゆっくりしてもいいだろうか?


 外に出るか休むか、迷っているとノックの音が聞こえてきた。リズムでわかる。ミリーだ。


「はい、どうぞ」


 呼ぶと扉が開き予想通りミリーの姿が。彼女を見て、夢見心地だった意識が現実へと戻ってくる。


「お疲れセディ。なんというか、やりきったって感じね」

「あ、わかるのか?」

「気が抜けてるのはわかるわよ。ま、見た目は普段と変わらないから判別できるのは私とかカレンくらいだろうけど」


 さすが、と言いたいところだが俺のことをずっと見てきた以上は至極当然なのかもしれない。


「それで、相談だけど……これからどうしようか? 少なくとも夕食までは時間があるけど」

「まだ日は高いよな……アミリースの解説によれば神界の一日は俺達の世界と同じとのことだし、少しは散策する時間があるけど」

「セディは休んどく? 色々と重大なことをやりきった後だし、疲れてない?」

「いや、俺もミリーとかカレンとかと話をしようかと思ってたくらいだし……ただまあ、俺としてはどっちでもいいんだけど」

「――今日一日ゆっくりしても、問題はなさそうですしね」


 カレンの声だ。見れば開け放たれた扉から入ってくる彼女と、その後方にはフィンがいた。


「兄さん、お疲れ様です」

「カレンも……全員集まったし、どうするか決めるか?」

「自由行動でいいと思うけどな」


 部屋を見回しながらフィンは語る。


「セディの部屋も内装は同じか……で、セディ。まだアミリースさんから何も聞かされていない状況だろ? だったらまだ動く必要はないんじゃないか?」

「まあそうなんだけど……あの様子だと、明日の朝に語ろうって雰囲気でもないよな」

「少し時間を空けてから、かもしれませんね」


 カレンの言葉。うん、その時が来るまではひとまず気にしなくていいとは思う。ただ、


「俺達は神族についてほぼ何も知らない状態でここに来た。よって、先入観なしに神族達を見定めて欲しい、なんて思いだってあるかもしれないが……」

「なんだか、こちらを試しているようね」


 ミリーが肩をすくめながら話す。そこで俺は、


「女神の仕事と称しながら俺のことを見定めていたこともあったからな。よって俺達に何も知らせていないこと自体、意味があるのは間違いないさ」

「そういうことなら、部屋にこもっていないで行動するべきかしら? 何も知らない状態で神界を眺める……そうして欲しいと願うなら、部屋にいては駄目よね?」

「さすがにスケジュールが詰まっているわけじゃないし、歩くのは今日じゃなくてもいいさ。俺達の様子を慮って詳細を話すつもりだろうし、今日一日ゆっくりしたって別に問題はないと思う……ただまあ、そうだな」


 俺はそこで窓の外を眺める。


「ここへ来るまで、浮ついた感情だったけど……それは取り払っておいた方がよさそうだな」

「ということは、動く?」

「城内を散歩して回るくらいだけど、な。そのくらいの権利はあるようだし、ならその特権は是非とも活用しないと、な」


 俺の言葉でカレン達も同じ気持ちになったのか、表情を引き締めた。


「あ、ただし俺達はあくまで功績を称えるために呼ばれただけだ。表情自体は緩めになるようにすること。そうじゃないと何かあるのかと怪しまれるからな」

「大いなる真実について勘ぐられるってことですか?」

「そうじゃない。大いなる真実については、アミリースが言った通りこちらから話をしなければ問題はないはずだ……懸念しているのはしかめっ面でいると、俺達が何かやらかすのではと、警戒する神族が現われるってことだ」


 俺達はあくまで女神に導かれてやって来た。そこについては疑われないようにしないと、アミリースにも迷惑が掛かるはず。


「だから、例えば大いなる真実について知っている、などと表明する者がいても付き合わないこと。こちらからは絶対に話をせず、とぼけるように。で、そういう出来事があったということで、後でアミリースに報告しよう」

「わかりました」


 カレンが賛同。ミリーやフィンも俺の意見に同意し、話はまとまった。


「で、これからについてだが……全員で行動してもいいけど、二手に分かれよう。単独よりもドジッたらフォローできるし、なおかつ全員が固まるよりも動きやすいし」

「セディとかが口を滑らさないように、ね」


 ちょっとイタズラっぽく言うミリーだが、


「うん、そうだ」

「同意するんだ、そこ……」

「別に口が軽いわけじゃないけど、内容が内容だからな……というわけで、組み分けはどうする?」

「男女で分けましょうか。カレンはセディに同行する?」

「それでいいですが……兄さんは?」

「ああ、俺もそれで」


 あっさりと決定。よって俺とカレン、そしてミリーとフィンで動くことに。俺達は廊下に出て、反対方向へと足をやる。


「大丈夫だとは思うけど……一応、気をつけて」

「セディもね」


 俺とミリーは互いに言葉を交わした後、背を向けて歩き始めた。さて、行動開始だ。鬼と出るか蛇が出るか……ここは神界なのでそんなものは現われないという可能性もあるけど、ひとまず何が起こるのか不明な探索の始まりだった。


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