勇者としての返答
「……まず、この大いなる真実を知り、驚愕しました。その中で自分の……勇者という存在を否定されたのでは、という思いがあったのは確かに事実です」
俺は、デュガへゆっくりと語り始める。
「勇者ラダンとの決定的な違いは、最初の時点で魔王や神族が友好的であったこと……フォシン王国の王が事実を説明した流れで、俺は魔王と話をする機会に恵まれた……状況による違い。それが一番大きなところでしょう」
「もし勇者ラダンと同じような状況であったなら、同じようになっていたかもしれない、と?」
「その可能性は十分あります」
誤解を恐れず述べる。嘘をついても意味はないし、こんなところで嘘をつくのは逆効果だ。
「だから、俺は運に恵まれていたと言えるでしょう。その中で俺は、自分の持てる選択として魔王に戦いを挑んだ。周囲に人がいれば何をしていると言われてもおかしくない状況でしたが……結果としては俺は魔王に勝ち、弟子入りしたいと表明した」
「うん、そうだな……その点について、ずいぶんと思い切ったことをやったと真実を知る者は言っていた」
笑い始めるデュガ。
「魔王ではなく、こちらに話を向ければ良かったのに……と主張する者もいたが」
「魔王と話していたので、そういう流れになってしまいました。確かに神族側に打診することも一つの手段だったんでしょうけど、その時の俺にそこまで頭が回るような余裕はなかったです」
「なるほど……つまり、現状の状況は偶然の産物だと言いたいのか?」
「そうですね。もし魔王に負けていたら記憶を消されていたでしょう」
あっさりと肯定。ただし、
「ですが、重要なのは選択肢を手に取った後のことでしょう。どういう結果であれ、勇者ラダンのような形にはならなかった……運でつかんだものとはいえ、それを生かすのは、自分次第」
「運によって得た結果を、生かそうと考えたわけだな……うん、言いたいことは理解できる」
納得するようなデュガ。ただ引っ掛かるような物言いではある。
「勇者ラダンのようになってしまう可能性はあった。ただしそれは自分の強い意思などではなく、単なる運だと」
「そうです」
「自分の強さです、と言ってもおかしくないと思うのだが」
「そこまでうぬぼれていませんよ……納得できませんか?」
「いやいや、私としては十分な回答だ」
にこやかに答えるデュガ。彼としては十分な答えだったようだ。
「話は終わりでいいのかしら?」
アミリースが問い掛ける。そこでデュガは「ああ」と応じ、
「わざわざ時間をもらって悪かったな。では次の話だが、君達にはしばしの間この神界に逗留してもらう。といっても難しいことは考えなくていい。こうして君達がここへ来たことは既に通達は済ませているため、怪訝な視線を向けられるようなこともないはず。また、基本的にこの神界内での移動は自由。広すぎるので、転移を使う場合は私かアミリースへ連絡をしてくれればいい。あるいは、勇者セディが管理の世界で顔を合わせた天使などでもいい」
頭に浮かぶ天使の姿もある。そういえば、関わったことがあったな。
「連絡手段はおって伝えることにしよう。何か質問は?」
「見学……だけではないですよね」
俺の言及にデュガは見返し、
「確かに、こちらとしては思惑がないこともないのだが……ま、現段階では気にしなくともいいぞ」
アミリースに続いて彼もまた同じようなことを言っているな……これは一体どういうことなのか。
どういう目論見なのかを聞いてもはぐらかされるんだろうなあ……俺は仲間へと視線を移す。カレン達はこっちを見返している。どう動くかなどについては俺の判断に任せようってことなのかな?
それはそれでキツいなあ……ただ判断すべき人間がいないのも確かなので、この反応は至極当然と言えるか。
「……わかりました。それで、滞在中の宿とかは?」
「この城内に用意している」
城内で過ごすってことか……見回ってもいいのかという疑問はあるのだが、デュガの様子からしてよほどのことがない限りおとがめはなしという雰囲気っぽいので、存分に見学させてもらうとしようか。
「……最後に、一ついいですか?」
ここでカレンがデュガへ向け口を開いた。
「今回、様々な要因で私達はこの神界を訪れたわけですが……騒動に発展する可能性はどのくらいあると考えますか?」
「難しい質問だな。私の見解としては五分五分といったところだろうか。敵の動向……勇者ラダンと連絡を取り合っているとは思えないが、もし取り合っているのなら、勇者セディのことは把握しているだろう。となれば私を含め神族の上位層を味方に付けていることはわかっているはず。手出しは厳しいと判断して、行動を起こす可能性は低いだろう」
「連絡を取り合っていない場合が、危ないと?」
「そうだ。私に謁見した勇者である以上、敵だとみなす危険性がある。なおかつ君達に危害を加える者が出現し、勇者一行が負傷でもしたら私の責任にもなる……直接勇者を狙うような輩が出てくるとは考えにくいが、何かしら干渉してくるかもしれない」
嫌がらせみたいに、自分達の仕業だと悟られないように、ということか。面倒だな。
「無論、こちらも相応の対策はとっているから、部屋で休む分には安心してくれればいい……よし、では早速部屋へと案内しよう。アミリース、頼む」
「ええ」
彼女の先導に従い、俺達は玉座の間を後にする。緊張する場面もあったが、感触的には良かったと思っていいだろう。
「なんだか、想像していたのとは違っていたわ」
ミリーがふいに言葉をこぼす。
「威厳はあったし、主神という存在なのだと確信できたけど……どこか人間くさかったというか」
「俺達は神格化しすぎなのかもしれないな。それこそ神というのは全知全能の完璧な存在……そんな風に思っているけど、実際は人間であり、俺達と同じように感情が存在する。誰も彼もが完璧というわけじゃない」
「そういうことね」
アミリースが笑いながら喋る。
「その事実を認識してくれただけでも収穫よ……さて、部屋へと案内するけど、その後のことは自由にしていいわ。部屋から出て探索するのも自由。夕食の時間などは指定されているから、そこだけ注意してくれれば問題ないから――」