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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者と神界編

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呼び水

 丘の頂点から俺達は下り、海岸へと向かう。やや遠くに浮遊する巨大な島に加え、キラキラとした白い砂浜。正直おとぎの国だと思ってしまうほど、俺達人間にとっては非現実的な光景だった。


「……そういえば」


 ふいに、カレンは島を眺めながら口を開く。


「浮遊している島についてですが……下の部分も明るいですね」


 あ、言われてみれば……普通、島の上部――言わば城が建っている大地については当然ながら太陽に照らされている。けれど空中に浮いている以上、下の部分……陸地で言えば地中の部分がむき出しになっているのだが、そこは太陽に当たらず普通なら影ができるはずだ。

 けれど、そうした場所も光っている……何か照明があるのか?


「ああ、あれは光る魔石によって、影をなくしているの」


 と、アミリースは律儀に答えた。


「光あるところに影がある……神界において影というのは太陽の影響が及ばない場所ということで、忌み嫌われている。もちろんこの世界には昼夜が存在しているから、影ができないわけではないのだけれど、日中も暗い場所というのはあまり好まれないし、良くない存在を呼び寄せるという宗教的な観念を持つ神族も存在する。まして、神界の頂点に立つ者達が集う場所の真下にそれがあるのは……ということで、魔石によって昼は影をなくしている」

「昼は?」

「夜でもピカピカ輝くのは目立つのだけれど、それを好まない神族もいるから、昼間の間……つまり太陽によって影が生じる間は光る特性を持ち、夜になれば自然と消えるようになっている」


 そういう仕組みを開発したってことか。


「……ねえ、一ついい?」


 と、ここでミリーが小さく手を上げた。


「あれだけ大規模な島で、かつ地中部分に該当する場所はいくらでもある。そこに何かしら空間があれば、下手すると地上部分よりも遙かに広大かもしれない……地下に何かしら施設がある可能性は?」

「十分あるわね。というより、そういう場所は数多く存在すると考えていいわ」


 そうアミリースはミリーへ返答した。


「過去、自らが神族の頂点に立とうと色々画策し、力を蓄えていた者がいた。そういう者達は決まって地下に武具などを隠した。彼らが捕まれば当然地下施設も暴かれてしまうわけだけど、中には見つからず放置されているものだってあるでしょう。それに、地上ではどうしたって見つかってしまうし、隠し事をするに地下はうってつけということもあるわ」

「……今回、勇者ラダンと内通している者がいるかもしれないって話でしょう?」


 ミリーが問い掛けるとアミリースは何が知りたいのか意を介したのか、


「地下に何かあるという可能性は考慮して調査はしているわ。けれど、範囲も広いからすぐに探し出せるというわけではない。女神の力を使えばあっという間に、と言いたいところなのだけれど、この場合相手もまた私と同じ神族。かくれんぼするのだって当然、上手いというわけ」


 はあ、なるほどな……敵も強いからすぐに探し出すのは厳しい、というわけか。


「ただ、現在かなり急ピッチで調査していることだけは伝えておくわ……さて、そろそろ出発したいところだけど……あ、いたわね」


 と、俺達から見て右側……そこに一隻の船が見え始めた。綺麗な帆船で、幾人かのクルーと、こちらに手を振る男性が一人。


「……船があるとは」


 俺がそんな感想を述べると、アミリースは肩をすくめ、


「そりゃあ海があるのだから船くらいはあるでしょう。言っておくけど神族だから誰も彼もが飛べるなんていうのは幻想よ」

「なるほど……けど、船で島に近づくのか?」

「ここからだと見えにくいけど、島の真下に浮遊する島へ移動できる魔法陣があるのよ。なぜ真下に、という疑問はあるだろうけど、取り決めで安易に外部から転移できないようなルールになっているし、そもそも魔法的な処置も施している。誰もが飛べるわけではないけれど、抱える魔力が多いため転移しようとする者が多いのは事実。よって、安易に踏み込めないようにしているというわけ」


 ああ、対策はしているのか。けど、


「アミリースは特例なのか?」

「そうね。審査を経てどこからでも転移できるような資格を持つ者はいるわ。私の場合は大いなる真実を知っているから、という面もあるわね」


 特別、というわけだ。そこで俺は船に視線を送り、


「船のクルーは当然、知らないよな?」

「大いなる真実を? ええ、そうね。だからその辺りは注意してね」


 アミリースが俺達を先導する形で船へと歩み寄る。そして船が海岸に停泊すると、船長らしき男性が砂浜に降り立った。その格好などは人間のそれとほとんど変わらない。


「お待ちしておりました」

「すぐに向かうことにするわ。彼らを船に」

「はい」


 アミリースの指示により、船長は魔法で船へと渡る階段を作る。俺達はそれを使い船へ。

 全員が乗ったところですぐに船が動き始める。神界へ赴くだけでなく、まさかこの場所で船に乗るとは……想像もしていなかった。


 船は予想以上の速度で浮遊島へと走る。風はほとんどないのだが、魔法を用いて動かしているのか。


「……まさか自分がこんなところに来るとは思っていなかった、って顔をしているな」


 ふいにクルーの一人が俺へ話し掛けてきた。


「まあ無理もない。どれだけ事情を把握しているのかわからないが、こうして人間をこの場所へ招き入れることなんて、最近はなかったからな」

「……神界では既に、そうした話が回っているんですか?」


 なんとなく尋ねてみる。俺達についての認知がどの程度かを確認しておいても損はないだろう。


「俺達はあの聖域に関連しているから話が早く耳に入ってくる」


 聖域とは、あの浮遊島のことか。


「だからまあ、町とかに住んでいる同胞達の中には知らないという者だっているだろう。でも、聖域で暮らす方々の大半は知っているんじゃないか?」


 なるほど、つまりそれだけ目をつけられているというわけだ……良い意味でも悪い意味でも。今確実に言えるのは、俺達のことが呼び水になって何か起こるだろう、ってことだ。


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