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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者試練編

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仕掛け人

 レジウスの話が終わり、次は……と、前に出たのはケイトだった。


「次は私でいい?」

「ああ、構わない」

「……個人的には難しい話で、完璧に把握できているわけじゃない。ただ一つ聞かせて欲しい」


 そう言いながら彼女は、首をアミリースへ向けた。


「パメラは、どういう経緯で大いなる真実を知り、仕事をするようになったの?」


 ――内容によっては反発しそうな気配だったが、アミリースは朗らかな口調で答えた。


「彼女は、そうね……まず私があなた達の暮らす場所を訪れたのは、無論勇者ロウのこともあるし、さらに言えばパメラのこともあった。あの時あの場所に私がいたのは、必然的なことだった」

「パメラのことを見出し、こうした仕事をさせようと?」

「事情はもう少しだけ複雑だけどね。結論から言えばそういうことよ」


 ……ロウやケイトには、パメラの身に起こったことについて真実を説明していないからな。

 これについても、全ての種明かしをした後に話すべきか……ただこの役目は俺じゃない。パメラがやることだろうな。彼女の判断に委ねることにしよう。


「そして、彼女の力を見定めている内に大いなる真実を知ってもらいたいと思った。そうして今、彼女はこの場にいる」


 パメラは小さく頷いた。様々な事情を抱えていた彼女だが――そこにいるのは、間違いなく本物の天使となった彼女だった。


「……なら」


 ケイトは結論を述べる。


「なら、私からは何も言うことはない」

「パメラの一件で納得したということかしら?」

「例え必要な仕事でも、無理矢理やらされていたのなら、嫌だなと思っただけ……パメラは少なくとも、嫌がっている風には見えないし、ね」


 そう語りながらケイトはロウへ視線を向けた。


「で、勇者ロウはどう?」

「何でわざわざ勇者ってつけるんだよ……俺はその、確かに勇者としての存在意義とかが吹っ飛んだから戸惑ったけど……最終的な結論は、一つだった」


 言いながら彼は、パメラやケイトを一瞥した。


「俺は俺の仲間が、平和に暮らせる世の中になるのなら、どういう真実であろうと構わないってさ」

「シンプルな言葉ねえ。でも、そのくらいで丁度良いのかもしれないわね」


 と、ケイトが苦笑しながら応じる……最終的に、折り合いを付けることができたってことなのかな。

 そうなったら、残るのはレナとカレン。エーレはそちらへ視線を向け、


「あなた達はどうだ?」

「……陛下はきっと、認めるよう求めるでしょうね」


 と、レナが語る。するとエーレは、


「答えを聞いているだけだ。納得がいかないのであれば、こちらが理解してもらえるよう努力するだけだ」

「……そうですか。私は、城に仕える者として大なり小なり納得がいかない部分はあります。魔族によって犠牲になった民のことも知っていますから」


 エーレは沈黙する。反論するわけでもなく、かといって同調するわけでもない。


「しかし、だからといって拒絶はしません。ただ私がこの場で明確な答えを出すことができないのもまた事実……この真実は、長きに渡り世界そのものを守ってきたこともあります。ですから、私としては完全に納得できたわけではありませんが、理解はしました」

「それでいい」


 エーレは彼女の言葉に頷いて見せた。


「この場で全てを飲み込む必要はない。そもそもこの管理の世界であっても、世の中は理不尽に包まれている……罪のない者達が魔物に蹂躙される光景。あるいは真実を知らぬ者達による攻撃……具体例を挙げればキリがないほどに」


 エーレは、どこか無念そうだった。


「魔王や女神というのは、全知全能の存在に映るかもしれない……だがそれは真実ではない。私もアミリースも、この世界を土台にして生きる存在であり、それ以上でも以下でもない。しかし世界で暮らす人々とは異なり、私達には力があった……この世界を少しでも良くするための力が。でも、私達の手のひらがからこぼれ落ちてしまう命は、多数いる」


 アミリースを含め、この場における全員が沈黙する。そうした中でエーレは、自嘲的に笑みを浮かべた。


「魔王である私が世界の平和について語ることは滑稽に思うかもしれないが……私自身は、人を殺めたくはない。信じられないかもしれないがそれが私の心情であり、だからこそ未来は今よりも良いものにしたい」

「……その一歩として、俺達をここへ呼んだのか?」


 フィンが問い掛ける。それにエーレは小さく頷き、


「そうだ……無論あなた方の意思を尊重する。今はそうだな、そうであったらいいという願望を大いに含んでいる」

「だ、そうだ……カレン、どうだ?」


 最後に残ったカレンは一歩、魔王に対し前に出た。


「……私達が知ったのは、あくまで過去に起こった事実です。それを基にして現在は世界を管理している。そこは理解できます」

「ああ」

「少なくとも、あなたの言葉は誠実さが見て取れます。女神という存在が手を組む以上、それが本心に近いことはまた事実なのでしょう……ただ」

「何か引っ掛かるか?」


 エーレの問いにカレンは多少沈黙し、


「……女王アスリが発端だった今回の旅、あなた方が色々と仕組んでいたことは理解できました。ただ、疑問があります……どこからが、あなた方の計画だったんですか?」


 勇者バルナのことなどについてはどうなのか……その辺りを婉曲的に尋ねている、か。

 これを説明するには、まず仕掛け人である俺のことなどを語らなければならないのだが……エーレは少し黙った。次いで視線をカレンとは別の方向へ。


 そこには俺も含まれていた――どういう風に核心部分に触れるのかわからなかったが、カレンに問い掛けられて、話すべきだと考えたのか。

 ならば俺のできることは……そう心の中で決意をした矢先、


「ああ、それについて話そう……ただ事情説明をするためには、もう一つある事実を語らなくてはならない」

「それは?」

「――今回の出来事、仕掛け人はアミリースとパメラだけではない。それを知られるとあなた方の本心が聞けなくなるため、あえて伏せておいた。そこについては、謝罪しよう」


 カレン達は全員沈黙する。果たしてそれは誰なのか――仕掛け人以外の全員の目が、眼差しでそう魔王へと問い掛けていた。


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