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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者試練編
336/428

最大の戦果

 とうとう砂漠の主を打ち破る魔法陣が発動――その瞬間、空気が震えた。それは巨大な砂竜をも震撼させるものだったか、動きを止められた砂竜の体がその魔力に反応し鳴動する。

 そして魔力が俺の剣へと吸い込まれていく……それと同時に剣の光が天へと伸びた。魔力であるため重さなどは感じないが……剣を握り締める腕から、凄まじい力が伝わってくる。


 これを振り下ろし、砂竜へ叩きつける……それこそ、エーレが仕込んだ攻撃手段というわけだ。


「――魔力が完全に収束した瞬間、合図を送る」


 エーレは俺にそう告げた。


「無理に制御しなくていい。神魔の力……それを思い出し、最低限の維持だけでいい。無茶苦茶な技法だからな。むしろ無理をしたら逆に体が危険になる」


 確かに現在収束している魔力量を無理に制御しようとすれば、体に支障を来すだろう。

 俺は彼女の指示通りに動く。剣にはなおも魔力が集まり続け、さらに膨らんでいく。砂竜もまともに当たったらまずいと悟っているのか拘束を解こうと身じろぎしている。


 だが魔王と女神の魔法を抜け出す気配はなく……やがて、


「セディ!」


 号令が掛かった。それと同時に俺は剣を――振り下ろす! ほぼ垂直に薙がれた俺の剣戟は、しかと砂竜の頭部に……直撃した。

 咆哮が俺の耳に届く。それによって体を軋ませながら、俺はさらに剣を振り抜こうとした。


 けれど、動かない……砂竜の抵抗は凄まじく、押し切ろうとした俺の斬撃に対し、逆に押し返そうという勢いだった。


「拘束されていながら、これほどの力を出せるとは……驚異だな」


 エーレが感嘆の声を漏らす。敵を褒めるのは現状を考えればおかしくないのだが、


「エーレ! 俺はどうすればいい!?」

「そのまま状態を維持してくれ」


 おそらくさらに魔力を注いで決着をつけるつもりなのだろう……とはいえ現状エーレは魔法で砂竜を拘束し、なおかつ俺の剣の制御を行っているはず。もし光の剣の制御を手放せば暴走する危険性があるため、無理なことはできない。かといってこのまま持久戦はできるのか……いくら魔王と言えど、無尽蔵の魔力というわけではないはずだ。

 こちらの心境をよそに、エーレはさらに魔法陣へ魔力を注ぐ。それによってさらに力が加わるのを感じ取る。ただ――これでもまだ、足りないように思える。


 その予感は……的中する。頭部を光によって灼かれながらも砂竜は堪えている。それどころかこちらの攻撃が成功しなかったら反撃に転じるという気を満載にしていた。

 エーレやアミリースがさらに魔力を注ぎ込んでくる。砂竜は必死に抵抗であり、ここから急速なパワーアップはないはずだ。


 となれば、まだ魔力を注いで来るエーレ達が有利か……そう思った矢先、凄まじい力が下からやって来た。下手すれば腕が両方は弾き飛ばされるような力の圧を感じた。これは――


「エーレ、この砂竜はまだ何か隠し持っているのか?」

「わからない。とはいえ攻撃を受け続けている状況では、反撃に転じる余裕はないはずだ。このまま畳み掛けることができれば」


 そうエーレは言うが、状況は完全に拮抗している。ここで下手に俺が剣を手放せば俺やエーレ達は確実に飲み込まれる。それでも無事に生還できる……というか仮に飲み込まれてもエーレ達ならなんとかしてくれるか?

 と、ネガティブな思考に至った矢先、俺は首を左右に振り握り締める剣に神経を集中させることにした。ここで倒してしまえば、何も問題は――


 その時、握り締める剣から凄まじい抵抗が感じられた。砂竜が押し返そうとしている。この魔力剣は力で潰しているわけではないのだが、それでももし光の剣を弾くようなことがあれば、非常にまずい。

 剣が横へ逸れるだけでどうなるかわかったものではない……だからこそ俺は剣に魔力を注ぐ。神魔の力を使う時のような感覚で……その瞬間、刀身が一瞬だけだが輝いた。それにより、砂竜の抵抗が若干緩む。


 最後はやはり力と力の勝負か……エーレやアミリースがなおも魔力を注いで来る。俺はそれを束ね、さらに自分の力を追加することで一つにして砂竜を圧倒する。


 気付けば、砂竜の体が少しずつ歪み始めた。抵抗はしているようだが剣を受け続けたことで次第に体力も落ち始め、抵抗の余地が少なくなっていく。

 これなら……そう思った矢先、砂竜が吠えた。威嚇し、俺の攻撃を少しでも和らげる意図があるのか……けれど、俺もエーレもアミリースも、加減する気はなかった。


 さらに剣が砂竜へ食い込む。それがわかった瞬間、あらん限りの力を込め、魔力を注ぎ――剣を、振り抜いた。

 刹那、光の剣が砂竜の体を薙いでいく。その中で断末魔の悲鳴のようなものが聞こえ……砂漠の中に、溶けて消えていった――






 そして最後に残ったのは砂竜の残骸とでも言うべきもの。体は両断され、なおかつ光の剣により大半が消滅したためか地上に出ている分はもうあまり残っていない。


「ご苦労だった、セディ」


 眼下に存在する砂竜の死骸を眺めていると、エーレが声を掛けてきた。


「作戦完了だ。遺跡の方へは被害もなく、最大の戦果を上げることができた」

「……正直、俺はエーレ達の作戦を助けただけで、主役はそっちじゃないか?」

「何を言う。私とアミリースの魔力を束ねることができたのは、神魔の力を所持するセディのおかげだ。あなたがいなければ作戦は成功しなかったのだ。もっと胸を張っていい」


 そんなものかなあ……胸中で呟きながら俺は剣を鞘に収めながら遺跡を見やる。

 砂竜も砂漠の主が倒されたせいで姿を消していた。遺跡そのものは守れたし、俺達は今から転移で移動する。問題はなさそうだな。


「さて、魔王城に移動してから改めて話をしようか」


 エーレが言う。いよいよである。

 ただ、こうしてエーレやアミリースの存在を認識したわけだし、悪い方向にはならないだろう……俺のことについて説明する際、一騒動起こるかもしれないけど。


「それでは戻るとしよう。セディ、体は大丈夫か?」

「怪我もないし魔力的にも大丈夫だ……ところで、今後どうするかについてだが――」

「ああ、その辺りは既に決まっている。ルウレが捕まったこともあり、ラダンに動きもない。よって、セディには一つ別の仕事……もしかするとラダンに関係するかもしれないが、仕事をやってもらいたい」


 それは一体……と尋ねようとしたが、ここで話をしなくてもいいな。


「わかった。それについては魔王城に行って落ち着いてからだな」

「ああ」


 そうして俺達は遺跡へ向かう。最後の最後で厄介事が生じたわけだが、ようやく一つの旅が終わろうとしていた。


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