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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者試練編
333/428

魔王の作戦

「え?」


 アミリースの反応に、驚いたのはロウだった。だがそれに答えることなく、彼女は続ける。


「説明をする前に、一つばかり補足しておこうかしら。あなた達が最初に疑問を感じる部分が出てこなかったから、まだ頭の中できちんと整理できていないようだし」

「ど、どういうことですか?」


 ロウが思わず尋ねる。それに対しアミリースは微笑を浮かべ、


「私は皆をここへ来させるのが主な役割だったのだけれど、これ以前にもう一つ役割があった。それが勇者セディの一件に関して。姿を消して、彼の仲間達はとある出来事に遭遇したわね?」


 そこでカレンは「あっ」と声を上げる。


「そういえば、兄さんは……あれ、でもそれだと辻褄が合わないのでは」

「そう。勇者セディが仲間達の所から離れて以降の話……私はエーレの依頼を受けて、彼と接触したの。とある目的のために」


 ……大いなる真実を知った後だと、俺が操られて仲間達と戦ったことについて矛盾が出るからな。そういえば俺の方も失念していた。確かにそこの説明が上手くいかなくなる。


「とはいえ色々と問題があって、私の権限でも彼のフォローが難しかった……そこについては先に謝っておくわ。ごめんなさい」

「なぜあなたが謝るんですか?」


 カレンの問い掛け。それにアミリースは、


「私の姿を見れば、わかるわ」


 そう語った直後、彼女の姿が一瞬にして変化する。気配が漏れ、仲間達やロウが呆然となる。

 それもそのはず……アミリースが変化したのは女神。カレン達はアミリースを女神として見たことは当然ないのだが、そうだと明瞭に感じさせる雰囲気を発していた。


 なおかつ、パメラもまた天使へと変化。それによりロウが驚き、


「パメラ、もしかして」

「ごめんなさい。私は最初から知っていて、アミリース様に同行したの」

「改めて自己紹介を。私の名はアミリース=ニーメルシア。神界で執政を担う者……さて、先に謝ったのは、女神の私が動いたにも関わらず、勇者セディに色々と厄介事を背負わせてしまった」

「それは、兄さんが……」


 カレンの言葉にアミリースは皆まで言わせず小さく頷いた。


「そのことについては、戦いの後でしっかりと説明しましょうか」


 ……なんというか、絶妙に嘘は言っていない感じになっているな。確かに仲間達と戦った件については厄介事と言えるものだったわけだし。

 そして女神の登場により生まれた疑問点について、仲間達はひとまず棚上げするらしい。とにもかくにも砂竜の方が重要だからな。


「それでは始めるとしよう……ただ、あれだけの質量を持つ魔物が相手だ。それなりに気合いを入れる必要性がある」


 そう述べた後、エーレは俺へと視線を向ける。


「そうだな……砂竜にトドメを刺す役割は、勇者セディに担ってもらおう」

「俺が?」

「遺跡を無傷の状態で砂竜を倒すのに、多少なりとも仕掛けがいる……一撃で倒せなければ魔物は暴れだし、収拾がつかなくなるわけだ。かといって、私やアミリースの技法では倒せるにしても、例えば砂竜の体が横倒しとなって遺跡をたたき壊す可能性も否定できない」

「でも俺ならどうにかできる……と?」

「大質量を持つ魔物をどう倒すか……今回の場合は、消滅させるしかあるまい。つまり、最強の一撃を叩き込んで、砂竜の体を滅ぼす。さすがに全身は厳しいかもしれないが、地表に出ている部分さえ滅せば、遺跡への被害は免れるだろう」


 ……はっきり言って、無茶苦茶である。確かに理屈はわかるのだが、


「それを、セディがやると?」


 疑わしげにミリーが問うと、エーレは頷き、


「そうだ……手法について説明しよう。リーデス、今から言うポイントに魔力を撃ち込め」

「それを起点に魔法陣を形成でしょうか」

「その通りだ。構築した後、私が陣を起動させ魔力を地面に蓄える。アミリースは空にパメラを用いて陣を形成してくれ」

「わかったわ。その二つを束ね、勇者セディへと力を収束させる……と」

「そうだ。女神と魔王の力……その二つを制御できるのは、人間しかいない」


 人間、というより神魔の力か。つまりこの作戦は俺かクロエのどちらかしかできない。その中でエーレは俺を選んだ。


「二つの力を制御させることについては、陣の制御と同時にやる。リーデスとパメラは陣を起点となる場所へ魔力を撃ち込んだ後、状況に応じて動いてくれ。判断はそちらに任せる」

「わかりました」


 承諾するリーデス。次いでパメラもまたアミリースからいくつか助言を受けた後、首肯する。

 リーデスはともかく、パメラにとって荷が重い話であるようにも思えるのだが……覚悟はできているのか、表情は引き締まっていた。


「そして勇者セディの仲間達の中で、魔法を行使できる者」


 エーレの指摘にカレンやシアナが反応する。


「陣の魔力を双方が束ね、セディに魔法を収束させろ」

「わ、私達が……!?」

「他の魔法と同じように制御維持して、セディの持つ剣に注ぎ込めばいい。制御手法などについては後で簡潔に説明する。あなたが普段使う魔法とそう大差あるものではないから心配するな」


 そう述べた後、エーレは他の仲間達へ視線を向け、


「残る者達は、他の砂竜を迎撃してくれ。現在は巨大な砂竜しか見えていないが、こちらの魔力に反応して地中からさらに砂竜が出現するだろう。それらを遺跡に近づけさせないよう戦ってくれ。もし対処できない大きさならば、こちらがどうにか援護しよう」

「魔法陣を制御しながら、か」

「無論だ」


 フィンの呟きにエーレは律儀に反応。そこでフィンは唾を飲み込んだ。魔王の力……その一端を理解したようだ。


「そして勇者セディ。飛行魔法の類いは持っているか? 高速で動けるものが望ましいが」

「飛べるものはあるけど、高速ともなると……」

「ならば相応の道具を提供するか」

「私がやるわ」


 アミリースは言いながら手を軽く振る。すると空中に光が生まれ、そこへ手を伸ばすと腕輪が現われた。


「制御法については簡単に説明するわ」

「……ありがとうございます」


 正直、魔王と女神という存在がいなければ、どうにもならなかった作戦だな……そう思っているとエーレは号令を掛けた。


「では、始めるとしよう……遺跡を守護する作戦だ。そして勇者セディ。この作戦は誰一人犠牲を出さずに終わらせる……それが絶対条件だ。まずいと思ったらすぐに引き返すこと。それは肝に銘じておけ――」


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