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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者試練編
330/428

観察者

「――この真実というのは、情報を手に入れた時点で一定の責任を負うものなんだろう」


 そう俺はミリーに伝える。途端彼女は渋い顔をしたが、構わず続ける。


「ただ、なんというか……心情的に納得できない面もあるけれど、俺はそれでも構わないかなあ、と思う」

「どうして?」

「俺の目的は魔王を打倒するとかじゃなくて、それこそ復讐だった……現在はその動機だけじゃなく、いつしか俺と同じような悲劇を繰り返さないために戦おうなんて考えを抱くようになった……復讐という観点から言えば、確かにこの真実の内容は納得できない内容かもしれないけど、悲劇を繰り返さないためという見方をすれば、上策と言える」

「魔物を管理していることを踏まえれば、魔王や神と手を組めば、大陸の秩序安定に貢献できるってこと?」

「そういうこと……無論、全部納得できるわけじゃないけど」

「なるほどね。でもまあ、今まで以上に窮屈になるのは確定だからなあ」


 ミリーはどこか面倒そうに語る。


「私達で相談して仕事をするか、誰かに押しつけられるかでは、同じ仕事でもテンション変わるのよね」

「結局、ミリーは自由にやらせてくれって言いたいんだろ?」

「そうね」

「そこは、交渉次第かもしれないな……神々がどこまで話を聞くのか疑問だけど」


 ミリーの言う観点だと面倒事という解釈もできるよな……うーん、けどその辺りについては俺に決められるものじゃないから、納得してもらうしかないか。


「ま、ここは話を聞いてからだな……で、ミリー。カレンは?」

「奥の方にいるわよ。呼べば来ると思うけど――」


 その時、階段を勢いよく下ってくる音が聞こえてきた。何事かと俺とミリーが階段方向を見ると、フィンが現われる。


「どうしたんだ? 魔物が出たのか?」

「いや、そうじゃない……まあ急いでくる必要性はないのかもしれないが」


 そう述べた後、彼は呼吸を整えて、


「唐突に砂漠の向こうから人影が現われてこっちに来ている」

「こっちに? けど、こんな砂漠のど真ん中で俺達以外の人なんて――」

「姿からして、たぶん魔族だ」


 その言葉に俺は押し黙る。どうやら案内役が来たようだ。


「で、この遺跡の情報を考えると、魔族は味方だよな?」

「……俺達のいるタイミングで来たのは、女王アスリから連絡を受け、ここを観察していたのかもしれないな。いくらなんでも偶然にしてはタイミングが完璧だ」

「実際、相手も俺達の存在に気付いているみたいだけど、悠長に歩いている」

「わかった……どうやら、否応なしにどうするか選ぶことになりそうだな……ミリー、カレンを呼んできてくれ。俺はフィンと一緒に先に行く」

「わかったわ」


 行動を開始する。フィンと共に階段を駆け上がり遺跡の入口まで赴くと、遺跡に向かう人影があった。

 で、その輪郭がはっきりと見えつつある……のだが、うん、見覚えがあるぞ。あれ絶対、リーデスだ。


 彼が案内役か……まあ妥当な人選ではあるな。


「どうしますか?」


 近くにロウがいて問い掛けてくる。俺は目を細めながら魔族を見据え、


「こっちの存在に気付いているけど、仕掛けてくる様子はないな……警戒は必要だが、こっちから何かする必要性は薄そうだ」

「戦いになりませんよね? さすがにこんな場所で戦闘になったらかなり大変そうですが」

「この遺跡の情報からすればたぶん大丈夫だろ」


 楽観的に語りはするが、もしもの場合に備え俺はレジウスなどに戦闘態勢に入るよう伝える。その途中でミリーやカレンも戻ってきて、全員で魔族を見据える。

 その時……俺は足下に何か感じた。それは振動の類いだとわかったが、気のせいかとも思いつつ、意識をリーデスへ戻す。


 やがて――リーデスは遺跡の入口までやって来て、俺達と対峙した。


「どうも、勇者の方々」


 まずは挨拶……よくよく考えれば勇者三人は全員仕掛け人なのが面白いな。


「この遺跡は常に観察されていて、もし来訪者が現われれば使者を派遣することになっている……うん、僕に対し警戒感は消えないが、かといって襲い掛かってくる雰囲気もないね。遺跡内の情報に対し、一定の理解を持っているようだ」

「どういう意図でここに来たんだ?」


 俺がまず問い掛ける。質問の内容としてもこれが一番いいだろう。


「意図、か。簡単に言えば、この遺跡を訪れどういう考えを持つに至ったのかを確認したかった」

「もし意に反することを言ったらどうなるんだ?」


 さらなる質問。するとリーデスは一考し、


「正直、僕としては危害を加えたくはない。だけど管理の世界に邪魔立てする者には対処しなければならない」

「記憶を消す、とかか?」


 尋ねたのはフィン。リーデスはすぐさま頷き、


「そちらにとっては不快かもしれないけどね……さて、まだ信じられない気持ちだってあることだろうし、もし良ければ質問に答えるよ」


 そうは言っても……結果、仲間達は沈黙。遺跡の内容に加え魔族が現われたんだ。この反応は仕方がない。

 とはいえ黙りこくっても埒が明かないので、俺から質問してみよう。


「……この遺跡は、どういう経緯で造られたんだ?」

「これは神々の建造物だよ。こんな辺鄙な場所にあるのは迂闊に調べられても困るから。どういう形であれ、神々はきちんと記録したかったのだろう」

「神々の建物を、魔族が管理しているのか?」

「この場所は神にも観察されていて、どちらが出るのかは協議によって決められている。またはここを訪れた一向に対し、神と魔族、どちらが興味を持つのかによっても変わる」

「で、俺達は魔族に興味を持たれたと」

「いや、それは正確じゃないな」

「何?」

「君達に興味を抱いたのは……陛下だ」


 陛下。つまり魔王だ。

 で、リーデスの言葉に仲間達は驚愕する。まあこれは当然か。


「陛下は君達と話をしたいと」

「何故だ?」

「理由については直接訊いて欲しい。さすがに配下である僕にもわからないからね」


 ――仲間達はさらに沈黙する。どうすべきか判断に迷うのは至極当然だ。


 そうした中でリーデスはこちらの思考を妨げないよう、微笑を湛えながら答えを待っている。隙だらけだし、敵対心がないのは一目瞭然なので、仲間達からすればどうしたものかと思ってしまうだろう。

 ここは俺が返答すべきか……そう思いながら口を開こうとした――その時、変化は起こった。


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