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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
国家潜入編
33/428

事情説明と騎士達

「なぜ……その言葉を」


 以前、フォシン王が驚愕したと同じように、女王は驚き絶句する。


「端的に、お話させて頂きます」


 俺は女王に諭すように語り始めた。


「まず私……セディ=フェリウスは大いなる真実を知り、どうするか悩み……結果、魔王に弟子入りをして、大いなる真実による管理手法を学ぶため、行動しています」


 ――女王は、唾を飲み込んだ。さらにこちらを凝視し、言葉を待っている。


「今回訪れたのは、その一端です。理由を話さず、半ば騙すような形でこの部屋に赴いた点については、まず謝罪致します」

「……それは」


 女王が声を出す。けれど俺は無視してさらに言葉を重ねた。


「私達が赴いた理由は、あなたと繋がりのある魔族、ガージェン=クロジアの調査です。何やら不穏な動きをしている彼を魔王……エーレ=シャルンリウスから任務を受け、調べています」

「……つまり、そのためにここに来たということですか?」

「はい」


 問いに俺は即答しつつ、さらに言及する。


「ですが、今回城内で生じている事件についても、調べさせて頂きます」

「そう、ですか」


 女王は、俺を見据えつつ優しげな笑みを見せた。


「勇者であるあなたが、魔王の下にいるのは、奇妙ですね」

「信用して頂けるのですか?」

「魔王の名を語った以上、あなたが嘘をついているとは思えません」


 言うと女王は笑みを消し、真剣な顔つきとなる。


「大いなる真実を知り、勇者が役割を担う……私としても非常に嬉しく思います。だからこそ、今回の事件を全て解決する必要があります」

「はい……それでガージェンの件ですが」


 俺の言葉に、女王はコクリと頷いた。


「その件ですが、まず誤解を解く必要があります」

「誤解?」

「はい。おそらく魔王エーレは、ガージェン様がおかしな行動をし始めたため怪しく思い、あなたを派遣したのでしょう?」

「そうですね」

「その点については、私は事情を理解しております。あの方については裏切りの意志がないことを、私がお約束いたします」


 ――どうも女王には、ガージェンが主犯でないと確信できる根拠があるらしい。


「けれど、念の為……直接お話しした方がいいでしょう」

「ガージェンとですか?」

「はい。お繋ぎしますか?」


 任務前エーレが言っていた連絡手段を使って会話するのか訊いているようだ。

 確かにここは事情を知りたいところ。しかし、俺一人で話を聞くよりは――


「シアナを連れてきてよろしいですか?」

「……先ほどの、女性ですか?」


 頷く俺に、女王は首を傾げる。


「とすると、彼女もまた大いなる真実を知る人物?」

「彼女は、魔王エーレの妹君です」


 答えると、女王は目を見開き口元に手を当てた。


「妹……ですか?」

「はい。当然ながら彼女も、大いなる真実の管理に携わる魔族です」


 その間に色々事情があったことは、話さすにおく。


「もしガージェンと話をするなら、彼女と引き合わせた方がいいでしょう」

「なるほど……ならば日を改めましょう。明日の昼頃、またここに来てください」

「……下手に俺達が入って、大丈夫ですか?」

「はい。事情は説明しておきます」


 あっさりと承諾する女王。そこまで言うのなら問題ないだろうと思い、俺は「わかりました」と答え、ひとまず会話は終了となった。






 自室に戻ると、部屋には椅子に座るシアナがいた。


「どうでしたか?」

「ひとまず話はしたよ……レナはどうした?」

「見送られた後、自室に戻るとのことでした」

「そっか」


 俺は返事をしながら彼女と向かい合って着席する。そして女王から語られた点を話すと――


「おそらく、女王の言う通りでしょう」


 シアナは断定した。


「根拠は、あるのか?」

「先ほどの魔物です」

「モルビスという魔族の技術で造りだしたという、あの魔物?」

「はい。過去に存在した魔族の技術……その中で魔王に敵対する幹部の技術については、記録を残し廃棄するようにしています。モルビスは魔王と敵対していた勢力の一端であったため、このルールに基づき技術は廃棄されています」


 シアナはそこで一拍置き、言葉を選ぶように話を進める。


「もし技術を手に入れるとすれば、記録を見る必要があるのですが……それには陛下の了承が必須で、なおかつ記録が残ります。私はそこに度々出入りしていますが、ガージェンが入ったという記録はありませんし、彼があの技術を手に入れる術はありません」

「ガージェンがその技術を元々持っていたという可能性は?」

「ゼロではありませんが……大いなる真実を知る幹部は定期的に検分をします。その時廃棄した技術を保有していないか調べるのですが……そちらも報告は上がっていませんし、何より……」

「何より?」


 聞き返した時、シアナはゆっくりと息を吐き、告げる。


「モルビスの技術を使用するには外見に特徴が出ます。具体的には、両腕と首筋に朱色の紋様が浮かび上がる……これは魔物を生み出す際発生してしまうもので、回避できません。だからお姉様だって気付くはずです」

「そういう点から見ても、ガージェンではないと?」

「はい……もちろん応用技術で、紋様で出ないいう可能性もありますが……」


 シアナは一度言葉を切り、視線を夜空を映す窓へ向ける。


「そんな応用技術を実験するなどすれば、お姉様もわかるはずです」

「……技術的なことはわからないけど、とにかくガージェンの仕業じゃないのは、確定的なんだな?」

「はい」


 頷くシアナ。ならばと、俺は方針を伝える。


「明日昼、俺とシアナの二人で女王の部屋に向かう。そこでガージェンと話をして、これからどうするか決めよう」

「わかりました……これ、他の方達にも伝えるべきですよね?」


 他、というのは街の外にいるリーデスやファールンのことだろう。


「いや、とりあえず明日の件が終わってからでもいいんじゃないか? 状況が変化するかもしれないし」

「……わかりました」


 シアナは同意すると、席を立った。


「では、私は部屋に戻ろうかと思います」

「わかった。俺もそろそろ寝るとするよ」

「はい……おやすみなさい」


 そう言ってシアナは部屋を出て行った。

 残った俺は、一人息を吐いて、天井を見上げる。


「どうも、今回もややこしい話になりそうだな」


 呟き、視線を戻す。寝られる内に眠るのが得策だと思い、さっさと就寝することにした。






 翌日、俺とシアナは朝食を済ませた後城内を散策することにした。


「情報を集めるにはいい機会だろうからな」

「そうですね」


 俺の言葉に横を歩くシアナは同意する。

 ちなみにレナは仕事があるとのことで動き回っている。旅から帰ってきていきなり仕事とは、ずいぶんと大変そうだ。


「ところで、セディ様」


 廊下を進んでいると、シアナが声を掛けてくる。


「どこに向かおうとしているんですか?」

「ん? ああ、城内にある騎士団の詰所だよ。何か調査していたようだし、きっと関係あるだろうから――」


 というわけで俺達は、城の下層部にある騎士の詰所を訪れた。ちなみに逐一迷い、通りがかった侍女なんかに訊きまわってようやく辿り着いた。


 ……事前に調べておいた方が良かったかもしれない。


「さて……」


 着いた直後、まずは室内をぐるりと見回す。

 四方を石の壁で囲まれた、無骨な部屋だった。所々に窓や照明があるため明るいが、豪華絢爛な城内と比べ、装いはまるっきり違う。


 部屋の広さは、玉座を間を一回り大きくしたくらい。天井も結構高く、かなりの人数を収容できるのだけは間違いない。


「広いですね」


 シアナが感想を漏らす。俺は小さく頷きつつ、


「城内の騎士や兵士をまとめることもあるだろうから、このくらいは必要なんだろうな」


 答えながら、目当ての騎士を探し始める。その相手は、調査のリーダーだと思われる、ロシェだ。

 入口周辺でそれらしい人物がいないか調べる……のだが、室内は閑散としており、あまり人がいないので当該の人物がいないことはすぐにわかった。


「うーん、警備に回っているのかな?」


 呟きつつ、どうしようか思案する。このまま待っているのも一つの手だが――


「あ、セディさん」


 と、そこへ後方からレナの声がした。振り向くと、


「お、丁度良かった」


 声を上げる。レナと、隣にロシェの姿。


「はい?」


 聞き返すレナに対し、俺はロシェへ視線を送りつつ答える。


「何やら騒動があるみたいだから、ちょっと話を聞きにこようかと」

「ああ、そのことですか」


 レナが相槌を打つ。対するロシェは、首を左右に振った。


「あなたが気になさることでは……」


 彼は話すのを躊躇う。口上から、俺が女王と関わったことは知らない様子――まあ、事情を知らなければ当然の反応だろう。

 しかし話は聞いておかなければならない。どうするか……悩み始めると、助け舟はレナからやって来た。


「ロシェ、先に行っていて。セディさんと話したいことがあるから」

「わかった」


 頷いたロシェは、俺とシアナの横をすり抜け部屋の奥へと歩いていく。


「私から、お話します。あちらの席に」


 彼女はそう言って一点を指差す。その先には八人掛けの木製テーブルと、椅子。

 俺とシアナは承諾の意を込めてそちらへ歩み寄る。そしてレナと向かい合って座ると、改めて彼女が切り出した。


「正直、女王の件と関係あるかどうかはわかりませんが……」

「ああ、構わない」


 俺が答えると、レナは小さく頷き、


「……セディさんは、古竜というのをご存知ですか?」


 そう、訊いてきた。

 途端に、俺は魔王城で聞いたファールンの件を思い出す。古竜――まさかと思いつつ、返事をする。


「あ、ああ。知っているけど?」

「そうですか。なら話は早いですね。噛み砕いて言いますと、女王が即位された直後くらいに暴れ、封印をした古竜が復活したんです。ロシェ他聖騎士団は、その動向を調査していたんです」


 どうやら、ファールンの語っていた古竜で間違いない様子。横にいるシアナを一瞥すると、表情を硬くした姿が見えた。


「古竜は女王自らが討伐に赴いたほどの相手……今回は、女王の助けを借りず大規模な討伐隊を編成し、戦うとのことです。私も、加わることになるかと」

「大変だな。旅から戻ってきて」

「大丈夫です」


 俺の感想に、レナはにこやかに答えた。


「それに、あの古竜はジクレイト王国でも悩みの種……今度こそ、決着をつける必要がありますし、私もそれと協力したい」

「そうか」


 俺は応じつつ、女王の件と関係あるのかを考える。城内にいる裏切り者と古竜……その人物が古竜まで操っているのか――


「……もし、女王の件が魔族の仕業だとするならば」


 次に声を発したのは、シアナだった。


「古竜を操ることはそれほど難しくないでしょう。加えて、女王の部屋に眠る知識を狙っているなら、かなり有効な策かもしれません」

「というと?」


 俺は首を傾げ問い返す。シアナはこちらを見ながら、さらに続けた。


「レナ様の話を聞くに、女王とその古竜は何かしら因縁がある様子……今回も本来は、女王自らが討伐に赴く気だったのでは?」

「それは、まだ確認していません……というより」


 レナは俺達を交互に見つつ、


「ここは女王にお伝えしないようお願いします」

「わかった」


 承諾すると、レナは改めて話し始める。


「その、女王には出現したがまた洞窟に引っ込んだと伝えてあるらしいのです……もし動きが活発となれば、きっと陣頭に立って戦うだろうから、と」

「……なるほどな」


 納得した。ファールンの話と照らし合わせ、女王は古竜が出現すればを率先して戦おうとする可能性が高い。だからこの一事でどう反応するか容易に想像がつくので、騎士団は話さない――


 そしてこれは、ファールンの件を伝えるかどうか、推し量ることができる話だと思った。


「で、俺達は女王の前で知らんふりしているべきと?」

「はい」


 俺の問いにレナは即座に返事をした。


「不本意だとは思いますが……現状を踏まえると、そのようにするしか」

「確かに、な」


 俺は同意する。城内で魔物に襲われているという現状……それに加え、もし女王が討伐に行くとしたら、その過程で暗殺が行われるかもしれない。


「わかった。俺達は女王に何も喋らない。これでいいな?」

「はい、お願いします」


 レナが要求し、この場の話は終了となった。とりあえず、欲しい情報は得たので去ろうとした、しかし――


「レナさん」


 新たな声。やや線の細い男性のもの。

 方向は横。首を動かすとそこには、白銀の鎧を着た縮れ毛の男性。見覚えがある。女王と玉座で謁見した時傍らにいた、あの騎士だ。


「あ、ケビン――」


 言い掛けて、レナは俺達へ視線をやる。


「あ、紹介をしておきます。彼はケビン……女王の側近です」

「どうも」


 丁寧にお辞儀をする彼。俺とシアナは合わせて礼をすると、ケビンは柔和な笑みを浮かべた。


「今回、ご依頼を請けたと聞き……お礼を申し上げたかった」

「ああ、いえ……事情を聞けば、協力するのは当然ですので」

「それでも、ご協力に感謝します」


 笑みを崩さず語るケビン。物腰が柔らかなことに加え、細い声により鎧を着ていても騎士なのか疑いたくなるような人物。


「彼は、騎士でありながら女王の執務を手伝っているんです」


 心を読んだわけではないだろうが、レナが俺の疑問について補足する。


「彼は元々学問に秀でており、それに目を付けた女王が彼を側近にと推薦したんです」

「それほど誇ることではありませんよ」


 ケビンは苦笑しつつ返答すると、俺に言葉を紡ぐ。


「私は剣の腕自体はそれほど高くありませんから、こうして裏方の役目を担っているわけです」

「そうなんですか……これから迷惑を掛けるかもしれませんが」

「いえ、大丈夫です」


 にっこりとし、ケビンは言う。


「もし魔物について何かわかれば、ご連絡ください」


 さらにそう告げると、彼は颯爽とその場を立ち去った。


「……なんだか、大変そうですね」


 やや沈黙を置いて、シアナが呟く。


「事情を知っている方が少ない以上、女王の問題についてはあの方に負担がいっているのでは?」

「はい。今回一番苦労しているのは、ケビンだと思います」


 レナは答えると、俺は賛同するように頷いた。


「だろうな……」


 呟きながらふと、彼の苦心を想像する。何でもない表情であったが、事態を憂慮しているだろう――そう思った。

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