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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者試練編
329/428

勇者の価値

「もしこの遺跡に存在する話が本当なら、女神様は俺に託したことは魔王を倒すのではないってことなんですよね……」


 ロウについては今回の事実は勇者の存在を大きく否定するものであるため、やはりショックを受けているようだ。


「でも」


 しかし、彼はその後に続ける。


「それでも、俺に何らかの期待をしたからこそ武器を託したんですよね……」

「……例えばの話、俺は女神から武具を授からなかった」


 ロウに向け、俺は発言する。


「神々は俺に対し期待をしていなかった……と思っていたけどたぶん事実は違う。武器を与える行為は、神々の基準で勇者たる存在を見つけ、力が足りないと判断した場合に与えるものだったわけだ」

「セディさんは、力があった?」

「神々がどのタイミングで俺に目を向けたかはわからないが、少なくとも気付いた時点で俺は十分な力を持っていると判断した……と、これはあくまで推測だから、俺の勝手な予想だけど」

「正解のような、気もしますね」


 ケイトが返答。俺は小さく頷き、


「俺もロウもクロエもディクスも……勇者であるからこそ、ここで得られた情報は色々と衝撃を受けるものだ。けど、確実に言えることが一つある」

「それは?」

「特にロウはそうだけど、たぶん神々に認められたからこそ武器を与えたってこと……俺もクロエもディクスも、少なくとも魔王達から妨害されているわけでもないから、価値は認められているってことさ」

「そうかもしれませんね……けど、今後俺はどうすればいいんでしょうね」

「――そう悲観的に考える必要はないんじゃない?」


 と、ここでケイトが肩をすくめながら語った。


「結局のところ、私達がやることはこれまでと変わらないわけだし」

「それは、そうだけど」

「それに、一つ思うのよ。勇者という存在っていうのは……その価値を、誰が決めているのかしら?」


 彼女の問い掛けにロウはきょとんとなる。


「価値……?」

「魔王を倒せなくなるから、勇者でいられないってわけでもないでしょ? そもそもロウは別に魔王を打倒するために頑張ってきたわけじゃないし」

「いやまあ、確かにそうなんだけどさ……って、セディさん?」


 俺が笑い出したのを見て目を白黒させるロウ。


「ああ、ごめん……なんというか、ケイトの方がよくわかっているな、と思ってさ」

「ケイトの言うことが正解ってことですか?」

「そういうわけじゃない。要は心の持ちよう……そもそも勇者という存在自体、定義が曖昧なんだ。女神に武器を賜ったから勇者? それでいくと俺は勇者という名を使うことはできなくなる」

「でもセディさんは勇者ですよね?」

「俺は自分で勇者と名乗ったことはないけどな……なんというか、勇者という看板の価値は人々の意見によって決まるんだ。王様が認めたならその国で勇者になるだろうし、あるいは魔族を倒して誰かが勇者だとはやし立てたらその人物は勇者と言っても構わないだろう……勇者というのは絶対的な評価というのが無理な存在で、ケイトの言う通り価値は誰かが決めているってこと」


 そこで俺はロウの肩に手をポンと置いた。


「ロウが困惑するのはわかるし、それは仕方がないことだとは思う。でも、ロウはこれまで剣を振ってきたことによって、確かに勇者としての所業を成してきたんだ。例え魔王という存在を倒せなくとも、その価値は変わらない……この世界の真実というのは俺達にとっては驚くべきことかもしれないが、だからといって俺達の価値が消え失せるわけじゃない」

「そう、ですね」


 戸惑いながらもロウは返事をする。そこで俺は遺跡の入口から歩み寄ってくるパメラの姿が見えた。


「……彼女も、ロウのことを勇者じゃないと言うはずがないだろ? ロウの功績によって、勇者であると決めているのだから」

「言っていることはわかります……でも真実を知った以上、俺も考えなければならないですよね?」

「そうだな。俺達の勇者としての現在価値は、あくまで過去に成してきた所業によって決まった。なら次は未来の話だ。真実を知ってどうすべきか……それは過去とは別に考えるべきだ」

「わかります……少し、自分を見つめ直してみます。後はその、情報の整理をもっとつけておきます」


 ロウは大丈夫そうだな。ケイトやパメラもついていることだし、ひとまず落ち着きを取り戻すだろう。

 俺は彼と分かれて地下へと赴く。そこには絵を見上げているミリーの姿があった。


「ミリー、絵を凝視してどうしたんだ?」

「別に。この遺跡を建造した人ってどういう考えだったんだろうなって」


 そう述べると彼女は俺へと体を向ける。


「そもそも、この遺跡は誰が造ったのかしら?」

「人間がこんな砂漠のど真ん中に人間が資材を持ってきて、というのはあまりに非現実的すぎるな。魔王か神か……世界が崩壊し掛かった教訓を残すために、どちらかが建造したというのがしっくりくる。そもそもこの真実というのに人間の大多数は関わっていないみたいだし、人を集めて建造というのも難しいだろ」

「それもそうねえ……うーん、内容的に筋が通っているし女王アスリに聞けばこの内容が真実なのか確認できるのは別にいいのよ。問題はこの後よね」

「フィンは楽観的に捉えていたけど」

「魔王が味方かもしれないって話だし、そういう考えに至るのも理解できるけど……女王アスリは、どういう意図を持っているかしらね。いえそもそも、これは女王の発案なのかしら?」


 鋭いな。それに対し俺は肩をすくめる。


「答えはここで出せないな……仮に女王アスリの独断なら、最悪記憶を消される。けど、可能性としてはそのくらいしかないから、ある意味では安心かな」

「そう良い風に解釈できればいいんだけどね……」

「らしくないな。いつものミリーと比べて悲観的な見解だ」

「いや、一つ思ったのよ。仮に女王アスリを通して……例えばそう、神々と手を組んで仕事をするとかになったら、今までのような自由気ままな旅ではなくなるわけでしょ?」


 うん、正解である。そして彼女の言いたいことは明瞭に理解できるな。


「あー、つまり自由がなくなるってことか」

「そう。これまではセディの判断で色々動いていたわけだけど、私だって方針について意見は言えたし、思うように行動できた。でも神と深く関われば……そういう自由はなくなってしまう」


 そういう見方ならば、ミリーの悲観的な意見も理解できるな。

 どう返答しようか……少し思案した後、俺は彼女へ向け口を開いた。


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