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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者試練編
327/428

過去の真実

 階段の先には廊下が広がっていたのだが、その壁面には小部屋にあったような絵が描かれていた。先ほどと同様の絵柄であり、歩むだけで話の流れがわかるようになっているみたいだ。

「……災害などが起きた結果の次の絵が、これか」


 フィンは呟きながら絵を眺める。それはとある玉座の間。誰かが謁見しており、跪きながら何かをしている。

 特徴的なのは両方とも悪魔が持つ角を所持している点。ここからわかるのは、


「魔王に対し悪魔が何かを報告しているということか?」


 フィンの考察。それで間違いないだろうと俺は頷く。


「戦争の結果とか、そういうものを魔王に連絡しているってことか」

「何故ここで魔王の絵を?」

「さあな。ともかく次の絵だな」


 そうして次の場面を見るのだが……ここから、カレン達にとって予想外の展開になっていく。


「これは……」


 カレンは見上げながら目を丸くする。まず最初の場面は魔王が手を振り悪魔達へ何かしら命令をしているということ。次に配下の魔族達は命令に従い動き出し、その先にいるのは魔物達。その魔物を、魔族達が討伐している。


「魔物達を、魔王が倒している?」

「そういう絵ね……暴走した魔物を処分しているとか?」


 ミリーは視線を漂わせながらカレンに応じる。


「けど、その結果として人間も救われてる……」


 彼女の言う通り、魔族が魔物を倒した結果、人間達が喜んでいる描写がある。ただし、この絵はもう一つ大きな事実を意味している。


「……人間達は、これが魔族や魔王の動きによる結果とは認識していないな」


 俺は絵を見据えながら考察する。


「見てくれ、人間達は喜んでいる者もいるが、天に祈りを捧げ感謝する者もいる……つまり人間達は、神々が救ってくれたおかげだと認識しているわけだ」

「本当ね。でも魔物は野に広がっている描写が一階の絵にはあったはずよね? 魔王はわざわざ隠れながら魔物を倒したってこと?」

「どう、なんだろうな」


 俺は首を傾げながら次の絵を見る。どうやらここから、核心に迫るようだった。

 次の絵は、魔王らしき存在に加え、天使の羽根を持つ存在……神々で間違いない。双方が円卓を囲み、話し合っている絵だった。


「ちょっと、何これ?」


 ミリーがさすがに声を上げる。うん、理解しがたい内容であるのは間違いない。


「魔物を倒したと思ったら、次は神々と話し合い?」

「このまま魔物を放置すればまずいことになる、ってことを話し合っているのか?」


 俺が疑問を呈すると、ここでミリーはかぶりを振った。


「いやいや、いくらなんでも無茶苦茶すぎない? これじゃあ丸っきり魔族が人間の味方みたいじゃない」

「――彼らはあくまで、世界を相手にしているのではないでしょうか」


 と、次に発言したのはシアナだ。


「人間を救ったのは副次的なものであり、本題はこのまま戦争を重ねれば未曾有の大災害が生じる……だから、そうですね。例えば休戦協定を結ぶつもりで話し合ったとか」

「休戦……」

「次の絵に、話し合いの答えがありますね」


 カレンが先へと進み述べる。見れば、次の絵は野に跋扈する魔物達を魔族と天使が手を組み倒している光景だった。


「私達が持っている常識とは考えられない内容であることは間違いない……」

「神々とか魔王とか、その辺りの考慮を無視すると」


 と、今度はフィンの意見。


「戦争により大地が疲弊してしまった。それを元に戻すために手を組もうって話なのかもしれないな」

「……世界の荒廃は、魔界と天界を結ばせるほどのものだった、ということなのかもしれません」


 カレンはそう述べながら次の絵へと移動する。

 俺もまた歩を進める。次に見えたのは、魔物を駆逐した世界。そして魔王と神の双方の活動が描かれている。


 魔王については魔族達を使い、拠点を作り魔物の征伐を行う。対する神々は町などを検分しながら、人間に武具を与えている。


「……ここまでの話をつなぎ合わせると」


 俺はカレン達へ向け口を開く。


「魔王と神々が戦争を行ったことで世界の危機に直面。それを是正するため手を組み、世界の危機は回避された……けれど世界を維持するために魔族達は魔物を倒し、神々は人間にも対抗手段を構築するために、人間に武具を渡すような形で干渉し始めた」

「現在、神々が武具を勇者と呼ばれる存在に渡すのは、このためだと?」


 ミリーは絵を幾度も見返しながら問う。それに俺は、


「武具を渡すのは魔王を討つためだと人間は認識しているけど、この絵が正しいのならそれはあくまで建前であり、実際は魔物を倒して欲しいってことだろう。もっとも、あらゆる魔族がこうした活動をしているとは思えない。魔族の中には悪逆非道な行為を行っている者もいるからな」

「それにこんな事実を知れば、反発する魔族がいてもおかしくない」


 カレンが述べる。そこで彼女は俺へ視線を移した。


「魔王の周辺か、あるいは何か条件があるのか……たぶんですが、魔界でもこういう活動をしているの極一部なのかもしれません」

「かもしれない……で、問題はこれが大いなる真実というものなのか、ということだ」


 俺の発言で沈黙する。そこで俺は肩をすくめ、


「いや、まだ絵は残っている……結論は後にしよう。次は――」


 先へ進む。次の絵はどうやら魔族と天使が人間の王様へ向け何か話をしている。


「これまでの経緯から考えると、王様にはこの情報を伝え、協力を取り付けているってことか?」

「ちょ、ちょっと待てよ」


 そこでフィンが声を上げる。


「その話からすると、女王アスリはこの絵の内容を知っているかもしれないってことか?」

「知っている。知った上で俺達を送り出した可能性は十分あるな」


 俺はフィンの意見に同意しながら、さらに語る。


「女王の口から語っても、俺達が信じるとは思えない……だからここへ向かうよう、大いなる真実を調べてくれと依頼した」

「じゃあ何故俺達に?」

「わからない。何か考えがあるのか……もっとも、これが真実だとしたら、ルウレなんかは何故あんな行動をとったか疑問もある……ただ、一つ言えるのは」


 俺は絵を見据えながら、結論を述べる。


「この世界は魔王が絶対悪だと言い切ることはできないって話だ。これは昔の話で今は違う可能性もある……が、少なくとも魔族達全てが忘れたわけじゃないだろう。でなければ、きっと神々と戦争を繰り返している」


 俺の言葉に仲間達は沈黙する……いよいよ、この試練の最終局面に差し掛かった。


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