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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者試練編
326/428

最初の部屋

 ――翌朝、俺達はいよいよ遺跡探索を開始するべく、全員が入口付近にいた。


 といっても全員で固まって行動するわけじゃない。メンバーとしては俺とカレンにミリーとフィン。そこにシアナが加わるという形に。クロエやロウ達に加え、レジウスなんかは入口付近で待機という形となった。レジウスは率先して残ることにしたのだが、たぶん面倒くさくなったんだろうなあ……。


 このメンバーで動くことにしたのは一応意味がある。遺跡探索……というかダンジョンの探索というのは、罠などを考慮してチームワークなどが必要になってくる。狭い場所における戦い方を始めとして、連携が必要になる場面も多い。さらに大人数で進むと逆に遅くなったりする場合もある。その辺りを考慮し、俺の仲間三名に加え、魔法によって十二分に援護ができるシアナが加わるという形になった。


「砂漠に異変があったらすぐに連絡を」

「ああ、わかった」


 俺の言葉にレジウスは手を上げながら答える。その後、探索メンバーはゆっくりと歩き出した。


 さて……いよいよだが、どのような形で情報を得ることができるのか。その辺りについては俺も知識は入れていないので、完全な手探りということになる。ただこれは俺の行動が怪しまれないように……つまり自然に動けるようにするための配慮なので、問題はない。


 太陽光がどこからか差し込んでいるのだが、それでも暗いため明かりを用いて視界を確保しながら進む。昨日カレンが調べたところによると、魔物のような動く存在は探知できなかったとのこと。とすると遺跡内部には魔物がゼロ……まあ警戒はすべきだろうけど。


「ん、階段と扉があるな」


 入口から奥へ進むとまずは横手に階段。そして真正面に鉄製の扉が。


「というか……ここは元々どういう施設だったんだろうな?」

「こんな砂漠のど真ん中にある場所だし、そもそも何か有益なものとは言えないんじゃないかしら」


 俺の呟きにミリーが反応。


「例えば儀礼的なものとか、あるいはここに大いなる真実という情報があるのなら、それを後世に残しておくための建物とか」

「仮にそうならよくこんな場所に造った、って感じだな……まずは扉から」


 俺はそう言って罠などがないことを確かめた後、扉を開き中へ。小部屋という感じの部屋であり、家具などの類いもない。


「何もない部屋だな……」

「いや、壁に何か描いてあるな」


 フィンがいち早く見つける。よくよく見れば確かに、壁に何か刻まれている。

 これは絵かな……? 明かりで照らすと部屋の壁一面に絵が描かれていた。といっても絵の具で描かれたものとは異なり、綺麗なものではない。そして肝心の絵の内容だが、どうやらこれは遺跡が建てられた当時の様子か何かを記録したものか。


「……魔物に人間が食われているな」


 絵の至るところでそれが表現されている。カレンは頷き、


「遺跡ができた当時の情景でしょうね……見てください、この絵は右の壁から順番に描かれているようです」


 彼女に指摘されてよく目を凝らす。まず右の絵は、悪魔の翼を持った存在と、天使の羽根を持つ存在が多数の人と共に戦っている様子がある。たぶん魔王と神の戦い……人を表現しているのは魔族と天使ということになりそうだ。

 次に中央の絵。これは扉と反対側にある壁に刻まれており、俺が語った魔物が人間に食われているような表現。


「これは、魔王が勝って人間を蹂躙しているということか?」


 フィンの言及。まあそういう表現ができなくもないけど……、


「いえ、これは絵そのものが分離しているわけではなく、一枚の絵みたいです」


 そう告げたのはシアナだ。


「よくよく見ると右の壁と中央の壁の繋ぎ目部分が違和感ないように絵が刻まれていますし」

「あー、本当だな……ということは、魔王と神の戦争により、魔物が跋扈したと?」

「いくらでも推測できそうな状況ね」


 ミリーは呟きながら、今度は左の壁に目を向ける。


「で、三つ目の絵は……ふむ、嵐とか、凶作とか、そういう天災が表現されているわね。これは戦争によって自然災害も多くなった、という表現かしら?」

「なんだかこれだど、魔王の仕業によって被害が出たというより、魔王と神の戦争によって影響が出たって表現だな」


 俺が言及。真実を知っているので、それっぽい感じのことを言及してみると、ミリーが応じた。


「あー、それが納得できるかも。魔王と神……両者が戦争なんて引き起こしたら、それこそ無茶苦茶になりそうだし」

「大規模な魔力の激突だし、大なり小なり人間達に影響が出始めるよな……そりゃあ魔物だって跋扈するし、土地に異変も生じる。魔法の大激突によって、局所的に天気が変わったりするケースもある……そうしたことは人間にだってできるんだ。それを魔王と神……さらに戦争なんていう長期間影響のある状況になれば、大陸だって無事では済まない」


 俺の言葉にフィンやミリーはうんうんと頷く。よし、ひとまず納得してくれた。


「ここまでの情報だと、戦争そのものに問題があるって言いたいのかしら?」

「絵だけの表現だと、魔王も神も戦いを引き起こしてしまったため、同罪という考え方もできますね」


 カレンの言及。それにフィンは驚き、


「同罪……どっちも悪者ってことか?」

「戦争の理由はわかりませんが、少なくともこの絵が描かれた当時の人間からすれば、魔王も神も土地などに影響を及ぼすような存在だったというわけです。もちろんもし神が敗れればこれ以上の悲劇が生み出されていたのかもしれませんが……」

「そう解釈するなら、神側は負けられないし戦争が終わることはないだろうな」


 俺は頭をかきながら絵を見続ける。当時の状況がどのようなものだったのかは、想像することしかできない。けれど、たぶん……今の世界だって決して平和な世界じゃない。大陸西部は人間同士が戦争をしている。けど、そんな状況よりもおそらく、酷い世界だったのだろう。中央の絵に描かれた人間達は苦悶に満ちている……つまり、先の見えない絶望的な世界だったのではないか。


 俺もエーレ達から説明を受けただけで、あくまで情報の上でしか当時のことは知らない。リーデスだってさらっと語ったくらいだった。けれど、それこそ魔王が神と交渉するほどに……恐ろしい事態になっていたのだろう。


「……それじゃあ次は、階段を下りよう」


 俺はそう提案。仲間達は頷き、部屋を後にした。


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