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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者試練編
324/428

砂の主

 どうやら新たな敵……のようだが、感じる振動から俺は嫌な予感がした。


「なあミリー、これはなんとなく推測できないか?」

「どうしてそんなに悠長なのよ……まあいいわ。これは結構危ないかもしれないわね」


 彼女が返答した矢先、前方にある砂丘の一つが、突然盛り上がり火山噴火のように上空へと昇った。それと共に轟音が生まれ、俺達の視界に砂塵が舞う。

 そうして現われたのはまたも砂竜……なのだが、先ほどよりもずっと巨大。というより、見上げなければならないくらいの大きさであり、


「魔族も裸足で逃げ出す大きさだな……」

「はい、そうですね」


 ずいぶんと冷静にアミリースが言葉を紡ぐ。直後、砂竜が俺達に対し首を向けた。

 次いで咆哮。それと共に俺は剣に魔力を注いだ。


「ちょ、ちょっとセディ。戦う気!?」

「今更逃げても間に合わないだろ」

「そうだろうけど」


 ミリーの言葉に対し俺は魔力をさらに高め応じる。すると砂竜が猛然と俺へと突っ込んできた。胴体の半分くらいはまだ埋まっており、全容すらつかめない相手。

 もし俺の一撃でどうにかならなければ終わる……シアナ達がなんとかするだろうとは思っていても、間違いなく今は死との境に来ている。


 だが、俺は極めて冷静に……剣を振るう!

 すくい上げるような形で振りかぶって放たれた白波の剣。それは地面に迸ったかと思うと、俺の前方を完全に白に染め上げるほどの勢いだった。


 直後、轟音が砂漠地帯にこだまする。砂竜の突撃と俺の剣がぶつかり合った。もしこちらの攻撃が通用していなければ、次の瞬間には砂竜の口が俺達の間近に迫るはず。

 今まさに食われてもおかしくない……が、来なかった。


「これは……」

「お見事です」


 シアナの声だった。彼女は構え迎え撃とうとする態勢だったが、こちらの視線に気付くと構えを解いた。


「さすがですね、セディ様」


 その言葉の直後、剣の魔力が消え失せる。その先に見えたのは、頭部を砕かれ倒れ伏す巨大な砂竜の姿だった。


「無茶苦茶ねえ」


 と、ミリーはどこか呆れたように呟いた。


「ゴリ押しにも程があるし、まさか一発で仕留めるとは……ま、魔王に挑むくらいならこのくらいやってもらわないといけないけど」

「そうだな……とりあえず倒したけど、他に現われないかな?」

「そこは運でしょうね。後は後続が来ないことを祈りましょう」


 アミリースの指摘。俺は小さく頷くと、仲間達へ指示を送る。


「とにかく進もう。遺跡までもうすぐだ」


 全員が砂竜を避けるように歩き始める。仲間達の表情を窺えば、フィンはミリーと同じようにどこか呆れた表情。一方のカレンは「さすがです」と小さな声を上げながら俺の横を通り過ぎる。

 レジウスは苦笑めいた表情を示し、さらにロウやケイトは砂竜から目を離さないまま砂漠を歩む。またシアナやディクスは感情を表に出すことなく、いよいよ辿り着く遺跡について思いを馳せている様子だ。


 パメラやアミリースについてはこちらに笑みを浮かべ通り過ぎる。残るはクロエなのだが、


「……どうした?」


 彼女は砂竜を見据え立ち止まった。


「いえ、考えていたのよ。もし私がコイツを相手にしなければならなかった場合、果たして勝てたかどうか」

「……クロエの力なら、いけたと思うけど」

「どうかしら。私は確かに魔族を倒し続けた自負はあるけれど……魔王には手も足も出なかったからね」


 魔王の部分は小声で話す。そこで俺は肩をすくめ、


「そんなに深く考えなくてもいいんじゃないか?」

「……別に私もセディに対し嫉妬しているとかじゃないわよ。けど、勇者と呼ばれる以上、強敵相手にどうするか考えてしまうのは当然でしょう」


 そんなものか……俺は「かもしれない」と応じた後、クロエへ歩くよう促した。

 まあクロエだって数々の敵と相対してきた以上――さらに今後大いなる真実の下で仕事をしていく以上、自分がどうすべきかなどを俺の実力などから考慮し判断しているのかもしれない。ともあれ今回は全員無事だった。それで良しとしよう。


 俺は頭部の砕けた砂竜の横を歩く。一応こんな姿をしているが魔物であるため、徐々にではあるけど体が崩れ始めていた。

 たぶん一日も経てば体も全て消えるだろう。巨体故に時間は掛かるだろうけど、結末は他の魔物と同じというわけだ。


 しかしこれ以上大きな個体は現われるだろうか……半ば衝動的に応じ、全力で倒しきったわけだけど、別の砂竜を刺激していなければ何よりだが。


「……俺の技で警戒し、来ないとかそういう方向性であることを祈るしかないか」


 そんな結論に至りながら、仲間達の後を追う。風が少し強く、砂塵は待っているがひとまず視界の確保はできている。

 遺跡までそう距離は遠くないが、砂嵐でも起これば仲間とはぐれ遭難なんて可能性も否定できない以上、辿り着くまでは気合いを入れないと。


 そうして俺達は黙々と歩き続ける……アミリースが目指すべき場所を逐一指差し、俺達を先導する。仲間達からすれば、先ほど巨大な砂竜による襲撃を経験しても決して心が折れていない……称賛するところだろうか。

 怪しまれないかとちょっとだけヒヤヒヤしたが、仲間達にそれらしい理由をアミリースは語っている。とりあえずは問題無さそうだ。


 やがて俺達は彼女が指示した砂丘へと到着。そこを昇るか迂回するか迷ったのだが、遺跡は砂丘に囲われているらしく、どうしたって昇る必要があった。

 よって、足を取られながら俺達はゆっくりと進んでいく。なんとなく後方を振り返ると、俺の倒した砂竜が微動だにしないまま徐々に体が崩れていく光景が。遠目から見ると本当にデカい。砂漠の主的な存在だったのだろうか。


 俺は首を進行方向へ戻し、仲間達を励ましながら歩む。気付けば時刻は昼近くになろうとしている。俺の読み通りだったが、あと少しなので踏ん張ることにする。


 そして、


「――見えたわ」


 アミリースの声。俺は仲間達を先導しながらアミリースの隣に立ち……砂丘に囲まれた場所に、木々の生えるオアシスと石造りの建物を目に留めた。


「あれが、目的地か……」

「結構大きい遺跡ね」


 ミリーが感想を述べる。他の仲間達も似たような心境なのか、ウンウンと頷いていた。


「……ひとまず、遺跡に近づいて昼食をとろう。探索をどうするかはその後で協議だ」


 逸る気持ちを抑えつつ俺はそう指示。仲間達は同意し、遺跡へ向かってゆっくりと砂丘を下り始めた。


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