女神の加入
さて、仲間にアミリースのことを紹介することになったのだが……なんというか、ここは女神の面目躍如といったところだろうか。あっさりと仲間達は受け入れた。
しかも、砂漠に関して同行する……情報を持っていることを告げると、ミリーなんかは案内役として良いのではとまで提案した。よって、彼女に加えパメラの同行も決定。ロウ達の知り合いということも要因としては大きいと思うのだが、話しぶりが非常に上手く、ミリー達も納得するような感じになっていたのはさすがだった。
「何か魔法を使ったのか?」
部屋を出て廊下でアミリースに問い掛けると、彼女は柔和な笑みを浮かべた。
「そんなことしないわよ。ほら、勇者に武器を渡す役回りなんかをやる以上、人を安心させるような話し方を色々と訓練するのよ」
話術ってやつだろうか……ふむ、人間の前に姿を現すために神々も色々と苦労しているというわけか。
「話自体は上手くいったから、準備については私も手伝うわ」
「わかった……あ、それとルウレについては――」
「そこについてはエーレに一任してある。彼女たっての希望で」
「希望? 調査は魔王側に任せろってことか?」
「ええ」
「それ、他の神々が納得したのか?」
「ひとまず魔王の言うことなら、ということで。その代わり私達は別のことを調査している」
……神々が魔王を信用して任せている、か。とんでもない字面である。
「調査、とは?」
「勇者ラダンや、彼に関わる物事について」
「原初の力……その場所とか?」
「そういうこと。といっても尻尾を出さないわね」
「魔王と神、双方に追われている以上、相当警戒しているわけか」
「そのようね。けれど彼だって動かなければならない……自分自身が原初の力を手に入れるためには」
――力を得るためには神魔の力を持つ者が最低二人必要。現状、ラダンがその条件を手にしている可能性は、
「神魔の力を自在に操れる人間を得るために色々とやっていたわけだけど……まだ見つかっていないってことだろうな」
「そうね。私達は情報網を駆使して彼と関わりのある人物の洗い出しや調査を行っている。結論から言えば、神魔の力を得ているような人物は、まだ現われていない」
そう述べたアミリースは一度間を置き、
「仮に手に入れて動き出すにしても、神々に加え魔王の警戒網がある。そのどこかに引っ掛かるとは思う」
「逆に言えば、動き出すってことはいよいよってことか……ただその警戒網を抜け出す危険性もあるだろ?」
「ゼロとは言えないわ。けど、大丈夫だと思う」
――そう告げるだけのものってことか。一体どんなことをやっているのか気になったが、あえて口は挟まずにおこう。
「ひとまず現状でアミリースが加入しても問題はなさそうだな。混乱もなくてよかったけど、ずいぶんと大所帯になった」
「といっても半分くらいは仕掛け人だけど」
うん、確かに……しかし本当、大掛かりな話になってきた。
「というか、魔王に加え女神まで参入か……事情を知っている身からすると恐ろしいほど話のスケールが大きくなっているな」
「そうかしら? 別に魔族全体、神々全体で話を進めているわけではないし、そんな風に想像しなくても良いと思うけど」
「問題は取り仕切っているのが魔王と女神である点だよ……」
俺の言葉にアミリースはクスリと笑う。
「そうかもしれないわね……と、私は早速準備を始めるわ。出発は数日後かしら?」
「アミリースがいなければ情報を集めるために色々町を回らないといけなかったかもしれないが、それがなくなったからな。そう経たずして出発のメドは立つと思う」
「そうね。セディも手伝ってね」
「もちろん」
女神ばかりに仕事はさせられない……というわけで、俺は準備に没頭することとなった。
数日後、予定よりも早く準備を整え、俺達は都を出発。まずは砂漠近くの町まで向かい、さらに情報を集めることにする。
「気候などが季節によって変動するから、砂漠の調子などを最寄りの町で確認するところから始まるわ」
「入れない可能性もあるのか?」
アミリースの解説に尋ねたのはフィン。彼女は視線を返しながら、
「その場合、大規模な砂嵐などが発生していることになるけれど、さすがにそこまでの状況はこの季節にないはずよ」
アミリースはそう述べた後、一度前を見据え、
「迷うことなく進むことができれば、砂漠の入口から片道三日ほどで遺跡には辿り着く。以前説明はしたけれど、そこは地下水も湧き出ていて……オアシスの意味合いもあるから、遺跡内で調査をするのは用意さえできていれば二日三日はたぶん大丈夫」
――ちなみにアミリースは遺跡にあるオアシスを利用したことはあるが、中を確認したわけではない、という説明を行った。遺跡を調査できるような用意を整えていなかったことがその理由……という感じだ。
「魔物については……私が調査した時は幸運にも遭遇しなかったけれど、正直わからないわ。私達の運が良いか否か……それにかかっていると言ってよさそうね」
「遭遇しないことを祈るしかないな。もし出会ってしまったら、頑張るしかないけど」
「これだけの面子がいるのだから、魔物が出ても勝てそうだけど」
と、ミリーが言うのだが……アミリースは難しい顔をした。
「砂漠の中には巨大な魔物もいるそうだから、出会ってしまったら面倒なことになるかもしれないわ」
「巨大、か」
「巨大な砂丘から顔を出した獣とか、色々と語られているからね」
砂漠の主、ってところかな……もし遭遇したら戦うしかないだろうけど、その場合シアナやアミリースは全力を出すのだろうか?
魔物の出現は自然現象に近いので、さすがにエーレ達でも限界はあるだろうし……まあ俺はもし出てきたら頑張る、として言えないか。
――そうした会話をこなしながら、俺達は旅路を進む。そんな中で俺は時折アミリースが仲間達の顔を窺うような視線を投げていることに気付いた。エーレに試練については任せていると語っていたが、彼女もまた、自分なりに今回のことを考え行動に移しているのだろう、となんとなく思った。