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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
国家潜入編
32/428

彼女からの依頼

 その後俺とシアナは客室に通される。ちなみにレナは玉座に残り色々と話をするらしく、あの場に残った。


「さて……」


 俺は案内された部屋で一息つく。室内は白と青を基調としたもので、城壁同様明るいイメージの部屋。

 さらに上階の方に案内されたため、見晴らしも非常に良い。隣室にいるシアナは外の眺めを楽しんでいるだろうと思いつつ、俺は思案し始めた。


 ここから先は、運を手繰り寄せる必要もある。滞在できたので女王に会おうと思えばできる。しかし、それを違和感なくやれと言う場合、話は別だ。

 正直、かなり難易度は高い。というか、女王から誘いでもない限り、果たすのは無理かもしれない――


 考えているとノックの音が舞い込んでくる。俺は扉に目をやりつつ声を掛けると、


「……セディさん」


 レナが、部屋に入って来た。


「ああ、レナか。どうした?」

「……少し、お話が」


 彼女は扉を閉めつつ話す。雰囲気から、良い話題ではなさそうだ。


「その、一つ確認なのですが……旅をしているようですが、お時間はありますか?」

「時間、というと仕事とかをやる時間ということか?」

「はい」


 答えるレナ。ふむ、どうやら厄介事のようだが。


「昼間の聖騎士団と、関係ある?」

「……はい」


 またも首肯。俺は彼女を見ながら少し考える。


 これにかこつけて話を――というのは一つの手なのだが、内容によっては聖騎士と関わりを持つだけで女王を抜きにする可能性だってある。

 それと、面倒事を受ける余裕はあまりない――ガージェンという魔族の件もあるが、何より仲間達が来ればアウトだ。


「話しだけ聞く、というのは無理?」


 なので、そう要求した。これで駄目なら断るしかないのだが――


「……実は、城内に不穏な動きがあるそうなのです」


 レナはあっさりと話し始めた。


「関連があるかわかりませんが、ジクレイト領内で問題が発生し、そちらの対応に聖騎士が追われた結果、城内に魔物が出るようになりました」

「城内に?」


 俺は目を見張った。これだけ厳重な城に魔物が入り込むなど――


「女王の見立てでは、何かしら魔法によって魔物が出現していると」

「……つまり、その犯人が魔物を召喚しているということ?」

「はい」

「何を目的に?」

「おそらくは――」


 レナは一度言葉を切り、深刻な顔で、


「女王です」


 きっぱりと、恐ろしいことを告げた。


「魔物がどこからか出現し、一度女王を狙った……それ以降は警戒しているため、襲われるという事態にはなっていませんが」

「そうか……でも、城の人達はずいぶん落ち着いているように見えるけど」


 案内した人やロシェという騎士も、態度としては温和そのもの。とてもそんな事件があるようには見えない。


「この事実は、公表していないようなので」


 理由が、レナから発せられる。


「女王はなぜか、この事実を公にしたがらないのです」

「なぜ?」

「その点については詳しく話してくれませんでしたが……あ、でも一つだけ。隙を見せてはならないという言葉が」


 隙――それがどういう意味なのかわからない。けれどレナは何か考えがある様子で、口を開く。


「もしかすると女王は犯人の目星をつけていて、その人物が城内にいる誰か……それも、非常に重要な人物であるため、露見することを危惧しているのかもしれません」

「なるほど。で、この事実を知っている人間は?」

「私と……玉座に一人騎士がいましたよね? 彼の名はケビンという人物で、聖騎士かつ、女王の側近……その方とごく一部の侍女だけです。あ、ちなみに最初の襲撃はケビンが救ったようです」

「そうか……女王を脅かすことで、何かを成し遂げようとしている輩がいるわけか」


 グランホークのような魔族のように――言わなかったが心の中で呟く。


「はい、おそらくは」


 レナは頷き、俺の言葉を待つ。きっと承諾するかどうかを尋ねたいに違いない。

 というか、俺としては協力したい案件だが……管理の件とで天秤が揺れる。


 だが、ここで女王をむざむざと暗殺されれば管理に支障をきたす――同時に、この事件を訊くために女王の所に赴くという口実もできる。


「……レナ、依頼は個人的には請けるべきだと思う」


 まず、そう切り出す。好意的な言葉であったためか、レナも多少安堵した顔を見せる。


「けど、一つだけ……シアナにだけは了解を取らせてもらいたい」

「わかりました」


 彼女はすぐさま承諾した。

 話はそれで終わり、レナは退出。そこから少しして部屋を出て、隣室にいるシアナの部屋をノックする。


「はい?」


 彼女の声がした後、パタパタと足音が響き、扉が開く。


「セディさん?」

「ああ。少し話が」

「いいですよ。どうぞ」


 中に入る。内装は同じなので、気に留めるところはない。


「先ほど、レナから話があった」

「話?」

「ああ」


 立ち話で説明を始める。それにより、シアナの顔はどんどん険しくなっていく。


「……厄介な、話ですね」

「だな」


 俺は賛同しつつ、頭を整理するように口に出す。


「シアナ、一番気に掛かる点は……女王がこのことを隠している点」

「隠しているということは、大いなる真実に関わっている可能性が高いですね」

「かもしれないな」


 女王はこれが大いなる真実に関連する事象だと推察し、だからこそ今回の件を公表しないようにしている。もし大事となれば、大いなる真実を広めてしまう可能性があるから。


「問題は、それとガージェンの関係があるかどうか」

「ガージェンの差し金という可能性は?」


 シアナの意見に、俺はなるほどと頷く。


「それなら、筋が通るな。ガージェンからの差し向けられたもの、女王はどうにもできない。エーレの言葉からガージェンはおかしな行動をしているから……これもその一端だと」

「はい。この推測であれば、頼みを聞き入れこちらの正体を明かすのが何より効果的でしょう」


 意見は整った。俺はすぐさまシアナに踵を返し、


「それじゃあ、レナに言ってくる」

「お願いします」


 彼女の了承を聞いた直後、俺は部屋を出た。






 ――そして俺とシアナは、女王の話を聞くこととなった。ちなみにシアナは「私も同行します」と告げたため、一緒だ。


 時刻は夕食もだいぶ前に済ませた夜。内密の話ということで、誰もいない廊下をレナの案内に従い進んでいる。


「旅の最中、申し訳ありません」


 移動中、レナが謝る。俺は「気にする必要はないよ」と言いつつ、ふいに一つの懸念を覚えた。

 このまま先へ進んでもレナや女王の護衛がいる以上、女王と俺達だけという状況にはならないのではないか。まさかレナに席を外してもらうなど、できるとは思えない。


 ――そう考えたのと同時に、一つ疑問が生まれた。レナから見れば「内通者がいる以上、身内に話すことはできない。だから勇者に頼む」という図式が組み上がっているはず。けれど、女王が大いなる真実に関わることだと認識しているなら、俺に話すのは変だ。まさか事実を伝えるわけでもないだろう。


 横を見る。シアナもまた色々思案を巡らせているのか、視線を落としつつ何やら考えている様子。


「もうすぐ到着しますので」


 なおもレナが言う。俺は「わかった」と答えつつ、彼女をどうするか考える。

 大いなる真実を話すわけにもいかない。とはいえ、何か理由がないと――


「セディさん」


 そこへ、シアナが声を発する。


「私が頃合いで、気分が悪くなったとか言います」


 そして俺にだけ伝わる小声で告げられ、気付く。あ、そうか……シアナはそのために来たということか。

 ならレナの件は大丈夫――思うと今度は、女王の護衛とかが気になるわけだが、


「レナ、現在女王の護衛は?」


 問うと、彼女は首を小さく振った。


「今は魔法による結界で部屋を覆っています」

「ということは、人はいないのか?」

「はい」

「……魔法による結界は有効かもしれないけど、不用心じゃないか?」

「そうなのですが、騎士を部屋に入れたくはないらしいのです」


 レナは困った表情を見せつつ、さらに続ける。


「これについては理由があるので、私も納得してはいるのですが……」


 そうは言うものの、相当に気に掛けている様子。


「ともあれ、女王の結界は強固なので大丈夫だとは思います――」


 言った所で、レナが突如立ち止まる。


「どうした?」


 問う俺。正面の廊下は魔法の光が灯された燭台が壁際に並び、奥まではっきりと見えるのだが――


「セディ様」


 と、シアナが廊下の奥を指差す。


「一瞬ですが、黒い影がチラリと」

「影?」


 俺はじっと正面を注視える。燭台の光が続く廊下は途中左右に分かれている。そうした中で黒い影などというものは見当たらないし、気配も感じられない。


「レナも気付いたから立ち止まったのか?」


 確認のために問うと、彼女は小さく頷いた。


「私の目で、黒い魔力が見えました」


 答える彼女――そこで、俺はレナの能力を思い出す。


 彼女は神官職であるため、使用する魔法は治療系魔法や結界など、補助的なものが多い。その中で彼女はとある力を保有している。それは、魔力そのものを可視化できる能力である。

 親衛隊としての彼女の活動は、女王の周辺に罠がないかなど事前に察知することにある。他にも同様の使い手はいるのだが、その中でもかなりの技量。その能力があるからこそ、彼女は親衛隊に所属していると言える。


 まあ、俺達と行動していた時はほとんどが治癒などのサポート役――というか、罠なども俺達自身ある程度気付けたため、それほど必要がなかった。結果、失念していた。


「レナ、どっちに行った?」

「左に」

「女王の部屋は?」

「……左です」


 嫌な予感。俺は早足で動き始める。それに合わせレナとシアナも歩調を速める。


「もし敵がいたら、俺が戦うべきか?」


 歩きながら問うと、レナは「はい」と答える。


「お願い、できますか」

「この状況だと、どうこう言っていられないしな」

「すいません」


 レナが改めて謝った直後、角を曲がる。ここに至り、俺も魔力に気付くことができ――


「いきなりか」


 漆黒の体毛に包まれた、魔物らしき存在を一体、目に留めた。

 見た目は、狼を一回り大きくしたくらい。それが前傾姿勢でこちらに青い瞳をやっている。


「ここまで好戦的だと、わかりやすくていいな」


 ちょっとばかし軽口をたたきながら俺は剣を抜いた……直後、狼は飛んだ。

 跳躍――重力を感じさせないくらいに綺麗な直進。優雅とも思えるその動作に俺は多少驚きつつ、前に出て剣を振ろうとし、


「セディ様!」


 シアナの声。何事かと思った直後、いきなり彼女によって突き飛ばされた。


「え――」


 呻きつつ横を見ると、シアナが狼の真正面に立っていた。思わず声を掛けようとした瞬間、彼女の平手が狼へ放たれる。

 それは狼と同様にひどく優雅で、なおかつ目を見張るような動き――何をと思ったのは一瞬で、狼の体が突如発光するのを視界に捉えた。


「っ!?」


 レナは唐突な現象に驚き言葉を失くし――シアナの平手が、パン! と狼を打ち吹き飛ばした。

 直後光も消え、シアナは俺に向け声を発する。


「セディ様!」

「ああ!」


 返事をして、狼へ向かう。シアナは発光する魔力を見極め、俺を援護した――そう頭で理解しながら、飛ばされ着地した狼へ一閃した。

 狼はそれを紙一重で避けた。だがさらなる俺の攻撃に対しては避ける暇なく、刃が頭部に突き刺さる。


 そして起こったのは、狼の消滅。瞳の色と同様青い光の粒へと変化し、存在していた痕跡すら消え失せる。


「……今のは」


 光が消え、レナが呟く。俺は彼女を一瞥した後、確認のためシアナへ目を移す。


「あの狼は体を発光させていたが、爆発でもするつもりだったのか?」

「切られた直後魔力を拡散させ、周辺に矢を放つタイプだったと思います」


 答えるシアナの顔は、どこか険しい。


「記憶の上では、モルビスという魔族が造った魔物だったはず」

「モルビス?」

「かなり前に滅ぼされた魔族です。青い瞳や取り巻く魔力が特徴的だったので、もしやと思ったのですが……」


 シアナの言葉に、俺は思案する。モルビスという魔族は滅ぼされている。なのにその魔族の造った魔物がここにいる。これが意味するのは――


「……ずいぶんと、お詳しいのですね」


 その時、レナが声を発した。あ、しまった。


「あ、いえ、その」


 途端にシアナが慌て出す。魔物を見て流れで説明してしまい、後のことを考えなかったのだろう。


「ああ、彼女は魔物を研究している学者の娘さんなんだ」


 俺はすかさず、適当な理由を語ることにした。


「旅を始め、今回みたいに助けてもらったこともある」

「へえ、そうなんですか」


 感嘆の声をレナが漏らす。俺は深く頷きシアナを確認。


「そ、そうなんですよ」


 合わせるように答える彼女は、俺を見て申し訳なさそうに小さく頭を下げた。

 これでとりあえず口裏は――思った所で、さらにレナから疑問が寄せられる。


「ですが、先ほどの攻防は……?」

「ああ、えっと」


 俺は頭を回転させ、どうにか理由をつける。


「特殊な護身術を学んでいて……学者の娘さんなのに、腕はかなりのものなんだ」

「そう、ですか」


 レナは何度かシアナへ視線を送り……どうにか納得したようだった。

 ならばと話題を変えることにする。このまま突っ込まれれば、ボロが出るかもしれなかったからだ。


「で、この事態……どうする?」


 問いにレナは顔を戻し、眉根を寄せながら女王の部屋のある方向へ視線を送った。


「ひとまず、予定通りに進みましょう」

「いいのか?」

「女王にご報告しなければ」


 表情が、少しずつ硬くなりつつあった。


 ――レナも、滅ぼされた魔族の造った魔物という内容に、嫌な予感を抱いたのかもしれない。俺は「わかった」と同意し、先へ進むことにした。






 移動を再開し、程なくして女王の部屋に到着した。レナが代表してノックをすると、


「どうぞ」


 女王の声が聞こえ――同時に、ガチャリと開錠する音。声に反応し開いたので、魔法を使ったのだろう。

 レナがゆっくりと扉を開き、俺とシアナは彼女に続いて入室する。


 部屋の広さは、客室よりも少し大きい程度。内装は華が彩られた絨毯に、レース付きのベッドと執務をするための机。そして机の背後に壁一面に設置された本棚がある。特徴的な家具はそれくらいで、女王の部屋としては割と質素な気がする。


「お待ちしていました」


 そんな中、執務机に対するように座る、謁見した時と変わらぬ女王が俺達に眼差しを送っていた。


「お越しいただいて申し訳ありません」

「いえ……ですが、その前に」


 魔物の件は先に話しておく必要があると思い、まずはそれを伝える。


「先ほど、城内に魔物がいました」

「魔物が……?」


 途端に女王の顔に緊張が走る。


「はい。とりあえず事なきを得ましたが、彼女……シアナによると、かなり前に滅ぼされた魔族が作り出した、魔物だそうです」


 説明すると、シアナは女王に一礼する。


「かなり珍しい魔物だったので、記憶していました」

「そう、なのですか」


 女王はこちらとシアナを交互に見つつ、相槌を打つ。そこで、俺は付け加えるように話す。


「彼女は魔物を研究する学者の娘さんで、知識が豊富です。なので今回のことも間違いない……それで」


 と、俺は一度言葉を切り、改めて問う。


「今回ここにお招きいただいたのは、ああした魔物に関する件、ですね?」

「……はい」


 問いに、女王は肩を落としながら答えた。


「唐突な依頼で申し訳ないと思っています……しかし、私は敵が内側にいると推測しています。そのため、あなたにお願いするに至った」

「なるほど……」


 俺は女王の言葉に対し、慎重に尋ねる。


「具体的に、どのようにすれば?」

「魔物を召喚する相手を、突きとめて欲しいのです」


 女王は答え、俺に説明を始める。


「以前魔法により城内を調べた結果、魔物は無作為に出現しているとわかりました。ただ条件としては人気のない場所……加えて、夜の時間帯ばかりです」

「今の所実害は?」

「私が襲われた以外は、ありません」


 それ自体、相当重大なことなんだが――まあいい、話が進まない。


「現在は、夜私が部屋に閉じこもることで事なきを得ています。そして内部に人間がいる以上、下手に騒ぐのは危険です」

「なぜですか?」

「あくまで可能性ですが、敵の狙いはこの部屋かもしれません」

「……部屋?」


 聞き返し見回す。狙われるような物は……と、彼女の背後にある本棚が目に入る。


「私の背後にある書物は……全て、このジクレイト王国が真髄をかけ磨き上げた魔法の知識です。これが奪われる可能性があるため、私は普段から護衛を部屋に入れることができません。ですが事が公になれば、人を入れるよう進言する臣下も出てくる……それを拒否し続けるのは難しいので、隠す必要がある」

「誰かに盗まれる可能性を考慮していると?」

「はい。敵の詳細がわからない以上、もし招き入れた場合、寝首をかかれ魔法書が盗まれる可能性があります」


 ――なるほど、筋は通っている。そして女王は語らないが、これが大いなる真実に関わる事件なのではないか――そう危惧しているのかもしれない。

 色々と考えつつ……俺は、女王にいくつか尋ねることにする。


「質問、よろしいですか?」

「はい、どうぞ」

「護衛を伴わない理由はわかりました……しかし、なぜ俺やレナを招き入れたのですか? 見方によっては、俺達こそ間者かもしれませんよ?」


 問い質した瞬間、レナがびっくりして顔をこちらにやった。けれど俺は無視して続ける。


「勇者として実績がある……というのは根拠になるかもしれませんが……」

「理由としては、いくつかあります」


 俺の言葉に、女王は笑みを浮かべながら答えた。


「一つはレナの信用を得ていること……城を離れていたレナが今回のことを画策している可能性はないと判断し、彼女と共に行動してきたあなた達に害意はないと考えました」


 そのコメントに当のレナがまたも驚く。なるほど、旅から帰って来たレナが今回の事件に加担している可能性は、低いだろう。


「そしてもう一点……勇者として魔王……さらには魔王幹部に挑む姿を見て、あなたならば真実に足ると、私は感じました」


 もう一点は、俺に対する純粋な信用――ふと、まだ戦って日は浅いが、女王はベリウス討伐などの事実を知っているのかもしれないと思った。女王として執政を担う以上、情報網を持っていてもおかしくない。

 功績を踏まえ、こうした悪事に協力するなど、あり得ない――そう推測しているのかもしれない。


 もっとも現在の俺は、少しばかり特殊な立ち位置だが。


「大きな理由としては以上ですが……いかがですか?」

「いえ、十分です。お話しいただきありがとうございます」


 礼を示しつつ言うと、女王は小さく微笑んだ後、本題に入る。


「では、話を進めてもよろしいですか?」

「はい……」


 と、俺はシアナを見た。頃合い――そういう意図をもって見つめた結果、彼女は突如フラッと体を崩した。


「シアナ?」


 呼び掛ける。彼女はすぐさま体勢を立て直したが、慌ててレナが支えるように肩を抱く。


「大丈夫ですか?」

「……はい」


 レナの問いにシアナは弱々しく答える。


「先ほどの魔物の攻防で……少し」

「一体何が?」

「魔法によって敵の攻撃を相殺したのですが、稀に魔物の魔力が体に混じるんです……少しすれば体調は戻りますが」

「レナ、お連れして」


 女王が言う。レナは頷き、シアナと共に部屋を出た。


「狙いは私である以上、彼女達が狙われる可能性は低いでしょう」


 フォローのつもりか、女王は言う。俺は小さく頷きつつ、シアナに感謝した。


「……女王」

「はい」


 俺は彼女の目を見つめつつ、呼び掛ける。


「私から一つ、お伺いしたいのですが」

「ええ」


 微笑を湛えつつ女王は答える。


「この騒動ですが……女王は城内に敵がいるから公にできないと仰った」

「はい」

「ですが、それはあくまで理由の一つですね?」


 問うと、女王は眉をひそめる。


「一つ、とは?」


 さらに聞き返す。対する俺は、ゆっくりと息を吐いた後、言った。


「この件が……大いなる真実に関わる可能性があるため、公にできない……そうした面もある、ということですよね?」


 俺の質問に――女王は顔を強張らせた。

 同時に確信する。間違いなく、肯定の表情だと。

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