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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者試練編
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決着と動機

 俺の視界で止まっていたディクスが身じろぎする。そして左手を胸から離し、息をついた。


「なるほど、面白い魔法だ」


 その言葉で、ルウレは目を丸くしてディクスへ視線を送った。


「魔法の構造がわかっていなければ、何をされたかわからないまま倒れていただろうな」

「馬鹿な……人間に耐えられるはずが――」

「世間は広い。そちらがどれだけ勇者と出会ったかは知らないが……耐える人間もいるということだ」


 実際は魔王の弟というのが理由なんだけど……。


「どうやらこれが切り札だったらしいな……さて、決着といこうか」

「ちっ!」


 ルウレは舌打ちと同時に距離を置こうとする。俺でも次はどうするのか理解できる。再び同じ魔法を行使しようとしている。一度では通用しなかったが、二度三度と使えば……そういう考えのようだ。

 とはいえディクスはそうさせなかった。一瞬で間合いを詰めるとその体に一太刀――入れた。


「ぐうっ!?」

「終わりだな」


 小さな声。それと共に追撃の斬撃がルウレへと入り――彼は今度こそ、倒れ伏した。


「ようやくだな」


 俺は疲れた声と共に剣を鞘に収める。


「後はディクス、任せていいのか?」

「ああ、結構大変な仕事だったけど、残りはこちらで上手くやる」

「で、こっちは仲間達に資料を提示して、か」


 具体的にどういう方法でルウレ達を処置するのかは……まあ聞かないでおこう。

 というわけで、俺達はルウレの部屋を出ることに――ここまで大変だったが、ある意味これからが本番だとも言える。俺は気を引き締め直し、仲間達の所へと戻った。






 最終的にダナーとルウレについては、罪に問われ投獄されることになった。具体的な処罰の内容については精査の必要があるということで、ひとまず保留。たぶんだけどルウレが何をやったかについては魔族側も調査に参加し、どうするか対応を国と協議するのだろう。


「で、これが問題の資料だ」


 場所は宿。俺達はルウレを捕まえたことで次はどうするかという相談を始めた。俺が使っている一室に仲間全員が集い話し合いをするわけだが、そうした中で俺はルウレの家から持ち出した(実際は仕込みの)資料を提示した。


「内容的には大陸西部にある遺跡……そこへ行って真実を知ったと。古めかしい遺跡のようだし、そこを訪れれば確固たる情報が得られる、ということじゃないかな」


 俺の意見にミリーやフィンなんかは「なるほど」と呟いている。

「ただ問題は場所なんだよな……砂漠地帯のど真ん中だ」


 で、指定された遺跡というのが大陸南部の一角にあるルド砂漠という場所。この世界には大陸の多くを砂漠で覆っているような場所も存在しているらしいけど、俺達の大陸にあるその砂漠――唯一の砂漠だが、規模はそこそこぐらい。ただし、魔物が多数生息しているので危険であり、商人などは基本砂漠を迂回して交易をしている。


「魔物が結構いるみたいだし、わざわざ危険地帯を進む無謀な輩は少ないせいで、遺跡そのものはほとんど手付かずのままみたいだな。だからこそ情報が得られるみたいだけど」

「問題は砂漠のどこにあるか、よね。もっと詳しい情報がないと、砂漠の真ん中をさまようことになるわよ」


 ミリーの指摘。俺は深々と頷いた。


「今度の相手は魔物に加え自然だ。今までとは違う意味で困難を極める旅になると思う……場合によってはここで下りても――」

「ついていきますよ」


 そう表明したのはロウ。隣にいるケイトもまた首肯し、加えて仲間達も「当然だ」と言わんばかりに頷いた。

 それにより俺はシアナへ視線を送ってみる。彼女も黙ったまま首を縦に振った。問題ないということだな。


「よし、それなら砂漠へ向かう準備が必要だな……とはいえ、ここで一度ジクレイト王国へ向けて報告書を作成する。その間に皆は砂漠へ入るための準備を進めてくれないか」


 そう決議して各々が行動を開始する。がむしゃらに入り込めば死が待っている……実際はディクスやシアナの支援はあるだろうけど、決して舐めてはいけない。

 で、俺は明言通りにジクレイト王国へ報告書を送ることにする。女王は魔族を介して俺達の状況を把握しているだろうけど、女王以外の者に調査を継続しているというポーズを示すものでもある。


 ただ内容としては順調に解明が進んでいるという、抽象的なものに。さすがに真実を誰かに見られたらまずいからな。

 俺はレナと協力して報告書を無事作成。それを送付すると、彼女がふと口を開いた。


「ようやく、長い旅が終わりそうですね」

「気は抜かないでくれよ。さすがに砂漠相手に油断はシャレにならない」

「わかっています……その、なんとなくですが」


 と、レナは空を見上げながら語り始める。


「ルウレという人物が、なぜあのような凶行に至ったのか……それがどうにも気になっていまして」

「これから動機なんかも語られることになるかもしれないが……この国とはあまり繋がりがないからな。ディクスとかはなんだか顔も広いみたいだし、どうなったか顛末くらいは調べて欲しいな」

「そうですね……結局、彼は何がしたかったのでしょう」


 実際、大いなる真実――というか勇者ラダンと出会って研究を始めたというのはなんとなくわかるが、なぜああした研究なのかは疑問に残る。

 ディクスも「勇者ラダンに関連する情報は屋敷に無かった」と語っていた。繋がりがあるとしたらディクス達が気付かないわけじゃないだろうし、ルウレは好き勝手にやっていると考えるべきだろう。


 勇者ラダンに頼まれて何かをしていた、とは到底思えないし……結局ここは、彼が自らの口で語るまで待つしかないか。とはいえ、あっさりと真実を話すとも思えないけれど。


「……今はとにかく、できることをやろう」


 そうレナへまとめるように俺は語る。


「勇者バルナのことについては決着がついた。後は憂いもなく大いなる真実について注力できる……レナの能力だって砂漠では大変助かると思うから、頼むよ」

「はい、任せてください」


 笑みを浮かべるレナ。俺はそれに笑い返し、宿へと戻る。そこから分担して砂漠攻略の準備を進める仲間達に混じり、俺もまた思考をそちらへとシフトしていくこととなった。


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