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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者試練編
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彼の切り札

「くっ!」


 ルウレを中心にして生じた爆発……俺は結界で身を守りながらすぐさま入口付近へと戻る。そこにはクロエがいて、合流に成功した。


「ディクスは――」

「気配はある。まだルウレも元いた位置に立っている」


 端的に彼女が応じた矢先、突然風が吹き荒れた。おそらくディクスの魔法。粉塵が取り払われ、視界に現われたのは――


「……さすがは勇者、といったところか」


 ルウレの肩を押さえるディクス。つかんで手には魔力が込められており、ルウレは動くことができない様子。


「ただし、こちらが黙って拘束されると思うのか?」

「そうは思っていないさ……ただ」


 ディクスは悠然とルウレへ語る。


「果たして抜け出すことができるのか?」

「――ああ、できる」


 ルウレの魔力が高まる。刹那、彼の体から魔力が噴出し、旋風が吹き荒れた。

 風圧がディクスの体を襲う。最初は堪えていたのだが、やがて手が肩から離れ、数歩分後退する。


 正直、ディクスがどういう存在なのか知っている俺からすれば既に勝負は決していると言ってもいいのだが……ルウレはあくまで余裕の態度を崩さない。

 先ほどの罠以外にも何かあるのか……俺とクロエはじっと事の推移を見守る。ディクス達は距離を置いて対峙しているのだが、ルウレとしては俺達のことも注意しなければならないので、余裕とは裏腹にどう打開するか考えているはずだ。


「……セディ、どうする?」


 ふいにクロエから声が。加勢するかどうかだよな。


「ディクスのことだから、何か考えはあると思うけど……」

「だとしても、私達が前に出て倒した方が早いと思うよ」


 まあ確かに……ここで俺はディクスへ視線を送ってみた。すると彼はほんの小さく頷いてみせる。

 そこで――俺は前に出た。剣をかざし、気絶させるくらいの勢いで剣を振る。


「さすがに備えはしているよ」


 しかしルウレの返答はそれだった。刹那、俺の真正面に結界が発生。剣が直撃すると金属音がこだまし、止まった。


「勇者三人……か。入口は固められているし、なおかつその内の一人はあの勇者クロエだ。しかも残る二人も強者ときている……万事休すといったところか?」

「それにしてはずいぶんと余裕だな?」


 こちらの問いにルウレは小さく笑みを浮かべる。


「どうだろうな……さて、そちらは追い詰めたようだけど、まだだ」


 言うと同時、彼は右手に魔力を集める。狙いは俺かディクスか……と思ったところでルウレはディクスへと向かった。

 それは悪手に違いなかったのだが、彼は果敢にも接近戦を仕掛ける。勇者と魔法使いである以上、勝ち目はないと思うのだが――


 ディクスは一歩後退しながらルウレとの間合いを一手に保とうとする。何をするかわからないため、念のため注意といったところか。一方で俺の真正面に形成された結界はまだ消えない。とはいえ再度剣を叩き込むとヒビが入った。これなら実力行使で破壊できる。


「さっさと片付けないといけないか」


 ルウレはそう呟く。俺の剣により結界を破壊される前にディクスを……という魂胆か。

 しかしそれは――直後、ディクスの剣戟がルウレへと入る。さすがに刃を当てるわけにはいかないため、ディクスの剣は腹の部分でルウレに当てる。


 直撃したのは胸部。ルウレは息が詰まったか小さく声を発したが――それでもまだ前へ。


「効かないな……!」


 声を張り上げルウレは突き進む。そして右手をかざした直後、光が生まれた。

 ディクスは即座に後退し、距離を置く。攻撃魔法の類いではなかったようだが……何をしたのか。


「……攻撃を食らっても、ある程度相殺できるよう準備を整えていたのか」


 ディクスが告げる。その時、俺は結界に斬撃を叩き込み、一挙に破壊した。


「ああ。痛いのは確かだが、こちらの攻撃が成功したんだ。安いものさ」


 肩をすくめ語るルウレ……どういった効果なのかわからないが、彼の作戦は成功したということか。

 一体――直後、ディクスに変化が起きた。突然剣を持たない左手で胸を押さえる。


「……これは……」

「どういう魔法なのか察したか? それとも、変化によって気付いたか?」


 その時、俺は背後からルウレに迫る。だがすぐさま俺の真正面に結界が発生。またも阻まれる。


「そちらはある程度魔法の効果を認識しているようだが、説明しておこうか……簡単に言えば、勇者バルナに施した秘術の、省略版だ」


 その言葉を聞いて、俺はディクスを見据えた。苦しそうに胸を押さえる彼は、ルウレと対峙しながらも剣を向けられない。


「といってもさすがに異形と化すような能力はない……精々動きを止める程度だ。あの秘術は組織を少しずつ作り替えていくものだが、それを性急にやっても人間が保有する魔力が反発して強制的に押し出そうとする。それをさせないよう大掛かりな手順が必要というわけだ」

「……ダナーが所持していたのは、それを一瞬で行うための実験か」


 こちらの指摘にルウレは首を向ける。その顔には、笑みが張り付いていた。


「そういうことだ……さすがにこんな手段を用いるとは、予想もしていなかったみたいだな」

「確かに簡易版なんてものが、この段階で未完成ながら実用できるとは思わなかった」


 ディクスは無事か……対するルウレは悠長に構えている。


「開発にどれだけ掛かっているのかわからないが、相当急いでいるような感じだな……なぜこんな魔法を開発する?」

「理由は教えられない。ただ、一つ言うなら」


 と、ルウレは眼光を鋭くする。


「大いなる真実、とやらが関係しているか」


 ――そこに行き着くのか。ただこれが本当の動機なのかは、実際のところわからないが。


「なるほど、よーくわかったよ。俺達もその真実というのを知らなければ、先へは進めないみたいだ」

「その前に自分の心配をした方がいい。結界によって今のところ無事だが、これを解除すれば次はそちらの番だ」


 俺が防げるのかわからないため、食らわない方がいいのだろうが……光を発するだけだから、回避は難しいか?

 ならば結界を強引に割った勢いで、魔法を使わせない内に決着を付けるか。頭の中で作戦を立て、俺は剣に魔力を注ぐ。


 ディクスはまだ動かない。異形に変化するはずはないが、魔力を乱されて立ち止まっている様子。魔王の弟ですら効果のある魔法……もしかするとこれは神魔の力かもしれない。

 ともあれ、彼の容態も気になる。ここは一気に決着を――そう思った矢先、ディクスが動いた。


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