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その勇者は最強故に  作者: 陽山純樹
勇者試練編
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仕込み

 そこから俺達はダナーで見つけた証拠などを手に、ルウレの家へと向かう。ダナーはどうしたかというと、申し訳ないが眠ってもらった。

 で、証拠の内容的に国側が捕まえるのか微妙なラインではあるのだが、ここはシアナなんかの根回しもあるのでたぶん大丈夫だろう。知名度があるクロエの名前を利用して国側に説明を施す……そういった手法で話をしようと決定し、俺達はルウレの家へと向かうことに。


 そこでシアナ達と合流し、どうするかを協議。結果として家へ直接踏み込むのは、俺とディクスとクロエの三人。他のメンバーは、外で彼が逃げないよう見張る役目を担うことに。


「よし、それじゃあ入ろうか」

「緊張感を持ちなさいよ」


 クロエの指摘に俺は苦笑し、


「大丈夫……よし、行くぞ」


 勇者三人がルウレの敷地へと入る――この時点で魔法を使っていれば気付かれてもおかしくないのだが、魔力は感じられない。


「……ディクス」


 ここで俺は声を上げる。勇者三人は大いなる真実を知っている――というかディクスに至っては魔王の弟なので、知ってて当然。


「段取りはどうする?」

「おそらくルウレは地下にいる。こうして敷地に入ったことも気付いていないはず」

「……もしかして、家の構造とか知っているのか?」

「ある程度は」


 たぶん作戦を成功させるとか、そういう意図があるため調べたのか。あるいは仕込みをしたか。

 今回はたまたま事情を知るメンバーで踏み込むので問題はないけど、例えばカレンとかフィンが混ざっていたら……そういう想定で彼らも動いていたのだろう。


 俺達は玄関に近づく。ドアノブを回してみると、不用心にも開いていた。


「鍵をかけ忘れることがあるらしい……今回は幸運だな」

「不用心極まりないな」

「この町の治安が良いという所作かな……少なくとも彼は何かしら被害に遭ったわけではないようだ」


 なるほど……ゆっくり扉を開く。屋敷と一軒家の中間くらいの大きさなのだが、ちょっとしたエントランスが存在している。


「……この町で過ごしていて気付いたと思うけど」


 さらにディクスは話を進める。


「戦乱が吹き荒れる大陸西部において平和な場所だ……それこそ、ダナー達のような実験をやるような人間がいるなど予想もつかないくらいに」

「ある意味、妨害者がいないからこの場所を選んでいるのか?」

「そういう節もある……さて」


 ディクスは視線を漂わせた後、


「やはり地下にいるようだ。先に探索をしておこう」

「探索?」

「実は密かに仕込みをしている」


 あー、やっぱりか。


「ルウレ自身が気付かないように、それとなく。家に入ったら調べるよう誘導するつもりだったけど、この面子ならルウレと対面する前にさっさと回収しておこう」

「演出のために仕込みをしていたけど、結果的にしなくても良かった……そんなリスクとらなくてもよかったんじゃないか?」

「演出は重要だよ」


 生真面目に語るディクス。いやまあ、そうかもしれないけど。


「でも確かに、ボロが出ないようにするためにはそういうところからやらないといけないのかしら」


 クロエが呟く。その顔つきは大変そうだと、苦笑すら浮かびそうな雰囲気。


「ま、そういうことならさっさと用件を済ませましょう」

「ああ、そうだな……ディクス、場所は?」

「二階だ」


 というわけで二階へ。そう広くはないので目当ての部屋は見つかる。

 そこは書斎らしき場所……とはいえ、背表紙を見る限りは一般的な魔法系の書物だな。


「この中に実験に関することはないのか?」

「ここはあくまで外見を良くするためのものだよ。多少なりとも国と関わりがある以上、体裁を良くしなければならないということさ」


 来客対応の際に見せる書斎といったところかな。そんな中でディクスは本棚の隅に手を伸ばし、本を手に取る。

 ページをめくると、その間に書類が挟まれていた。どうやらそれが目当ての資料らしい。


「内容は?」

「確認してみるといい」


 資料を受け取り中身を確認。横からクロエが覗く中で読み進めると、


「大陸西部に存在する、遺跡か」

「そこがひとまず、目的地だな。案内役も既に用意している」

「案内役……?」


 聞き返すがディクスは話さない。まあ作戦の一環だろうかな。


「わかった。これは俺の懐にしまっておくよ」


 言いながら資料を懐へ収める。ちなみにそこには簡単な手記も存在し、内容としては遺跡でとある事実を知り、動き出した……そんな感じでまとめてある。カレン達を誘導させるための理由付けだ。

 ただルウレの行動と大いなる真実とはあんまり噛み合っていないような気もするが……遺跡に辿り着いたら上手く話を誘導するのだろう。


「よし、それじゃあルウレの所へ向かうか」

「ああ。相変わらず地下にいるようだ……油断のしすぎだな」

「それは仕方がないさ……何か注意しておくべきことは?」

「戦闘能力はそれなりだが、この面子なら何も問題はない。逃げられる可能性も、地下なら大丈夫だ」


 退路はないってことかな。俺とクロエは相次いで頷き、来た道を引き返す。

 一度エントランスへと戻り、ディクスの案内に従い廊下を歩む。やがて物置らしき部屋から地下の階段を見つけ、歩み始める。


 いよいよルウレとの直接対決……といっても相手からすれば「何者だ」というレベルだろう。ダナーから話を聞いていたので彼と接触した人間だ、くらいは推測するかもしれないが。


「……クロエ、どうする? 俺が前に立って良いのか?」

「それでいいわ。あなたとディクスの二人で頑張って」


 クロエがはやし立てる。それにこちらは「了解」と返事をして、地下を進む。

 短い廊下を抜け、辿り着いたのは一枚の扉。その奥から物音がしており……足音は多少なりとも聞こえたはずだが、警戒をしている様子はない。


「研究に集中している、ってところかな」

「そのようね」


 クロエは同意の言葉を述べた後、一歩引き下がりゆっくりと大剣を抜く。俺もまたそれに合わせるように剣を抜き、ディクスもまた同じ動きをする。

 戦闘態勢に入りながら呼吸を整え、頭の中に言葉を浮かべる。そして再度ディクスとクロエを一瞥し……両者とも小さく頷いたため、俺はドアノブに手を伸ばし――勢いよく、開け放った。


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